039.共和国の魔人探し
「お嬢様、お時間でございます、起きて下さい……」
翌朝、そんな声が聞こえた私は目を覚ます。
私は二人が用意した豪華な朝食を、ボーとしながらも食べ終えると、その二人に見送られ、愛犬と共に屋敷を出た。
二人は私が支度する間に手早く食器を片付けた後、「いってらっしゃいませ、お嬢様」と声を揃えて見送ってくれた。
やはりホワイトな職場を維持しているからか、彼女たちの表情には初日ほどの緊張感はなく、爽やかな笑みと共に送り出してくれた。
私は冒険者御用達というドワーフ族の雑貨屋で揃えた地味な茶色のトレーナーのような上着と、薄茶のパンツスタイルだ。 上着の中にはアンダーシャツを着ているが、実は物理防御力が高く温度調節も可能という逸品だ。
上下もそれぞれ魔力耐性が高いお値段以上な装備品であった。 お金には困っていないのでここぞとばかりに数着購入している。 店主であるドワーフ族の男性は、金遣いの良いにも関わらず、「こいつまだ買うのか?」という顔をされ苛立ったが。
そんな私は、愛犬を連れ中央広場へと向かう。
通りの工房エリアでは、すでにドワーフ族の男たちが無骨な槌音を響かせ、鉄の焼けた匂いなどが朝の大気に混ざり合い、この国ならでは空気を感じさせる。
今日は、昨日助けた双子のイリオスとフェーンと冒険者ギルド前で待ち合わせをしている。 魔人についての情報収集をするために、と言う訳でも無いのだが、彼女たちの薬草採取についていき、散歩がてら護衛をすることにしたのだ。
待ち合わせ場所に到着すると、双子ちゃんはすでにそこに立っていた。
錫色の長い髪を後ろに結んでいる姉のイリオスは、私と愛犬を発見すると元気よく手を振っている。 妹のフェーンは、にっこりと笑みを浮かべこちらを見ている。 恥ずかしそうに指でつまんだフードから、蒼白色の髪を覗かせていた。
二人とも昨日の戦いの恐怖から立ち直ったようで、近くまで来た私に走り寄り、イリオスは「おはようございます!」と嬉しそうに声を掛けてくれた。 フェーンはペコリと頭を下げた後、愛犬に抱き着くようにしてもふっていた。
私たちは早速、南に広がる森へと向かった。
二人は浅い場所から、慎重に目的の薬草を採取していく。 昨日採取したところからはやや西に逸れた場所だった。
現在薬草採取を主としているDランク冒険者のグループは三組で、それぞれ情報を共有して場所がかぶらないように調整しているのだと、移動中のフェーンの説明により理解する。
私は時折愛犬を撫でながら、のんびりと二人の採取する様子を見守った。
魔物の生息地とされている場所だが、愛犬がいる限り、大型森狼のような強敵が再び現れても問題はないのだ。 私は半分ピクニックのような気分で、彼女たちとの時間を楽しんだ。
夕方になり、私たちは採取した薬草と、途中で何度か遭遇した小鬼や森狼、角小兎の素材を納品するため、冒険者ギルドへと戻った。
騒がしいギルドのロビーは、一日の仕事を終えた冒険者たちでごった返していた。
そこで私たちは、一人の男に呼び止められた。
「おい、ガキ共。 大型森狼を狩ったらしいが、お前らのような新米には過ぎた獲物だろ?」
声のした方を振り向くと、そこには大柄な男が、自らの拳でパシパシと音を立て威圧するような態度で立っていた。
彼の名はバルガスというBランク冒険者だと、イリオスがこっそり耳打ちしてくれた。
脂ぎった褐色の肌に、荒々しく刈り込んだ茶髪。 自慢の筋肉を見せびらかしたいのか、上半身には傷だらけのボロボロな革ベストを羽織っているだけで、ほとんど半裸に近い状態であった。
腕には錆び浮いた鉄の籠手をはめ、見るからに不潔そうな見た目に不快感を感じる。
「どうせ病死かなにかした死体を拾ってきたんだろ。 正直に言えよ!」
バルガスは下卑た笑みを浮か、双子ちゃんを威圧するように一歩踏み出した。
イリオスが不安そうに顔を歪めながらも、背に隠れるフェーンを守ろうとしている。
私はその横柄な態度と不快な容姿に、苛立ちを抑えきれずに、二人を庇うように一歩前へ出た。 だが、それよりも先に、私の足元から威圧感のある唸り声が響いた。
「グルゥ!(止まりなさい!)」
愛犬が毛を逆立てバルガスの目の前に移動する。
バルガスは愛犬の威嚇に顔を青ざめさせ、小さく悲鳴を上げるながら数歩後ずさった。 結局彼は、そのまま捨て台詞を吐くこともできず、背後の出入り口から逃げるように消えていった。
「レイちゃん、すっごぉーぃ!」
フェーンが笑顔で叫び、愛犬を抱きしめた。
イリオスもまた、驚きながらも「やるじゃない!」と愛犬の頭を撫でている。 双子ちゃんの中で、愛犬の株は一気に急上昇したようだった。 私だって、双子ちゃんのために頑張れるんだ! そう思いながら、いっそあの男を引きずってきて……などと考えた後、大きめのため息をついた。
その後も、私と愛犬は連日のように双子ちゃんの護衛と、夕方からの情報収集活動を続けた。
二人の採取活動は、私にとっても程よい運動になった。 冒険者ギルドでは時折、素行の悪い冒険者が絡んでくることもあったが、そのすべてを撃退していた。 愛犬が。
おかげで、私たちのギルド内でも盛大に目立ってしまっている。 こんなはずではないと思いながらも、情報収集には気軽に応じてくれる土台ができたのをいいことに、魔人についての話を集めていた。
だが、魔人に関する情報は一向に集まらなかった。
酒場の飲んだくれやギルドの資料室での情報、商人たちに聞いた話は、どれもおとぎ話や胡散臭い伝説ばかりだった。 最終的に、「魔人が来たらこの国は終わる」という、中身のない危機感だけの与太話しか出てこないので諦めた。
私も内心、「どうせ待っていれば、王国の女神の言っていた通り勝手に向こうからやってくるのだろう」と高を括っていた。 そのため、この情報収集はただの退屈しのぎでもあった。
今日も自宅に戻ると、ピレとリアに出迎えられて暖かい料理を頂く。 そして夜には愛犬を撫で回しながら、幸せを満喫する生活を続けていた。
――― 数日分の収支
装備、装飾品等 -5,125,000ダル
生活準備金(ひと月分) -2,000,000ダル
市場での買い物など -812,500ダル
残高 1,705,567,734ダル
次回、侍女たちの憂鬱……
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