038.双子ちゃんとの出会い
自宅から新たな侍女の二人に見送られ森の小道を散歩中、異変を感じ急行した私と愛犬。
道すがら小鬼などに遭遇するが、それらは愛犬が軽々と吹き飛ばし排除していた。
そして間もなく、木々が開けた場所に出ると、そこには双子のようにそっくりな二人の女の子が、巨大な狼を相手に必死に立ち向かっている姿があった。
邪魔をしてはいけないと思いながら、私は木陰からそっと様子を窺った。
視線の先では、二人の少女が三体の軽自動車程の大きさの狼を相手に必死で戦っているように見えた。
一人の少女は後方で杖を構え、震える手で火球を放つ。 だが、放たれた炎は狼に軽々と躱され、背後の木々を焦がすに留まっている。
もう一人の少女は、気合の叫びと共に手に握った少し大きな長剣を上から振り上げ、狼の一体へと斬りかかった。
しかし、その攻撃は狼の強靭な牙によって真っ向から弾き飛ばされる。 手から離れた剣が地面を滑り、少女の目の前には勢いの衰えない凶悪な牙が迫った。
「わん!(ダメよ!)」
愛犬の威嚇を込めた一鳴きが、森の空気を震わせた。
その一瞬、狼の動きが完全に止まる。 私はその隙を逃さず駆け寄ると、地面に落ちていた剣を素早く拾い上げた。
「くっ、ちょっと重くてバランスが……」
そう言いながらも肉体改造のスキルを全開にする。
次の瞬間、スキルの恩恵により放たれた一撃は、巧みな軌道を描き少女の目の前の狼の首を一刀両断した。
こちらを見てあっけに取られる少女。
杖を持つもう一人の少女も、混乱した様子でこちらを見つめている。 私は流れるような動作で、残る二体の狼も軽々と屠ってみせた。
「……助かった、のか?」
呆然と呟いたのは、錫色の長い髪の少女だった。
彼女は勝気そうな黒い瞳を丸くし、胸当ての下から覗かせている茶色の衣服の袖で額の汗を拭った。 そして、戸惑いながらも腰の剣帯に固定してあった鞘に剣を収め、大きく息を吐き出した。
「お姉さん、へっぴり腰なのになんでそんなに簡単にアレを倒せるの? それともそう言う型なの?」
失礼なことを言う少女だ。 華麗な剣裁きだったじゃないかな? 私は心の中で頬を膨らませる。
「お、お姉ちゃん、失礼だよぉ……。 あのぉ、助けてくれてありがとうございますぅ!」
隣で杖を抱きしめるようにして、勢いよく頭を下げた少女。 どうやらこの2人は姉妹で間違いないようだ。
身に着けた茶のローブのフードを下ろした彼女は、透き通るような蒼白色の長い髪を揺らし、碧の瞳を不安げに泳がせている。
聞けば二人は、新米の冒険者、姉がイリオス、妹がフェーンという双子ちゃんのようだ。 依頼となる薬草採取の最中に夢中になりすぎて、いつの間にか魔物の生息域の深くまで足を踏み入れてしまったそうだ。
最初は愛犬の存在に怯えていた二人だったが、数分後にはフェーンが「ふわふわ……」とレイのお腹に顔を埋めるほどに懐いていた。
イリオスはまだ警戒を崩さない様子だったが、我慢できなくなったのか、レイの毛をツンツンと突いてはにんまりと表情を緩ませている。
話を聞くと、この辺りはやはり魔物の生息地だが、二人には危険な魔物が出る場所のようだ。
小鬼や森狼といった魔物は森の浅い場所にも生息するが、今回の魔物は大型森狼と呼ばれる魔物で、二人にはまだ到底狩ることのできない魔物らしい。
三体の狼を解体する双子ちゃん。 王国で何度か見た解体作業にも関わらず、ウっと何かが込み上げそうになる。 魔石はもちろん牙や爪、毛皮を綺麗に短剣ではぎ取っているのはイリオスだ。
慣れない手つきながらも、水魔法を懸命に操って、血で汚れた毛皮などをジャバジャバと洗い流しているフェーンの姿に癒される。
解体が終わると、二人はそれらを私に差し出すが遠慮しておいた。 そもそもこの国で私はまだ冒険者活動をする気は無かったのだ。 お金はあるし、目立ちたくない。 魔人が出るまでのんびり暮らすんだ。
私はお礼を言う二人に、ついでとばかりに街まで護衛することにした。 途中でまた別の魔物などに遭遇することもあるかもしれないし。
護衛料の代わりとして、道すがら冒険者目線でのこの国の現状を教えてもらう。 セナさんの情報通り、この国はドワーフが中枢を仕切っており、人族は冷遇されているという。
「でもね、一流と呼ばれるBランク以上の冒険者になれば、実力が認められて優遇されるんだよ!」
イリオスが拳を握って熱く語る。
両親を流行り病で亡くした二人は、せめて対等に扱ってもらえるCランクを目指し、日々薬草採取に精を出しているのだという。 どこへ行っても世知辛い世界である。 いや、日本が特別だったのかな?
冒険者ギルドに到着すると、愛犬は相変わらず注視を浴びた。 その中、双子ちゃんは無事に報酬を受け取り、満面の笑みを浮かべている。
どうやら狼の素材はかなりの報酬になるようで、戻ってきたイリオスは、「本当にいいのよね?」と何度も私に確認していた。 フェーンは何度も頭を下げお礼を繰り返している。
なかば強引に彼女たちの自宅へ招待されたため、私は通信具で屋敷の侍女たちに連絡を入れ、お邪魔することにした。
道すがらに買った材料で作った料理がテーブルの上に並ぶ。 パンに魔物肉入りと思われる炒め物、それにサラダという簡素ながらも温かい食事を頂きく。
せっかくだからと市場で買い置きしておいたスープを取り出すと、「魔法の鞄!」と二人が興奮した様子を見せていた。 確かに狼の素材も袋に入れて運んでいたし、あれでは大きな獲物は改修が大変そうだなと感じた。
その後も食事を楽しみながら彼女たちの今後の予定を聞く。 明日も薬草採取に森へと向かうというので同行を願い出る。
食事を終え、双子ちゃんと明日の再会を約束して別れ、私は自分の屋敷へと戻ると出迎えてくれたピレがお風呂の準備ができていると言うので頂いた。
やはり出迎えてくれる人がいるのは良いな。 そんなことを感じながら愛犬と一緒に湯船に浸かりながら安堵する。
心も体も温まった私は寝室に直行して布団に入る。
健気に頑張る彼女たちの姿に、心地よい庇護欲をそそられながら、私はその夜、愛犬を抱きしめながら気分よく深い眠りについた。
次回、双子ちゃんと……
お読みいただきありがとうございます!
ほんの僅かでも「楽しめた」「続きはよ」「見てやってもいいぞ」と思っていただけたなら、下の☆☆☆☆☆を押して応援していただけると嬉しいです。ええ、たとえそれが☆一つであっても喜びますともっ!
また、ブクマ&リアクションも、そのひとつひとつが励みになります。よろしくお願いします。




