034.共和国という国
南へと続く長い街道から少し離れた目立たぬ場所を抜け、ついに私と愛犬は目的地へと辿り着いた。
テクトンティア共和国。
鍛冶の神ヘパイストを祀り、名工の槌を崇めるドワーフの鍛冶師たちが中心となって興した南の大国。 その中心に位置する中央都市「ヘパイストス」に足を踏み入れた瞬間、押し寄せる熱気と活気に圧倒された。
異世界ファンタジーにおける定番、矮人、いわゆるドワーフの国だと聞いていた。 だが実際に街を歩いてみると、ディナの情報どおり国民の大多数は、私と同じヒューム、人族だった。
王国では大多数が人族で、獣人族やドワーフ族、稀に竜人族の冒険者を見かける程度。 さらに言うと森人、いわゆるエルフについては、王国でも共和国でもその姿が一切見かけていない。
ディナから以前聞いた話では、長命種であるエルフは、その膨大な知識と美貌から、一部の有力な貴族たちの御付きとして囲われているのだという。 彼らは丁重にもてなされ、贅沢の限りを尽くされているようだ。
一般人がその高貴な姿を拝む機会など、一生に一度あるかないかの伝説的な存在らしい。
さらに街中を歩くと、この国における人族は冷遇されているのだろうと感じた。 一部のドワーフ族の人たちが人族の人たちにあれこれ命令しているという場面を何度も目撃した。
私と愛犬に対してもドワーフ族の人たちは横柄な態度で接してくるので、やはりこの国で人族は下に見られているのだろう。 愛犬が威嚇するので特にトラブルらしいことはなかったが。
街の人に詳しく話を聞くと、国の王を始め国の重要ポストはすべてドワーフ族で、主産業である鍛冶工房を支えるのもやはりドワーフ族だった。 彼らが為政者、そして造り手として特権階級に君臨し、商売や農業といった実務を人族や獣人族が担っているという構造のようだ。
そんな共和国の街並みは、妙に懐かしいような奇妙な既視感に襲われた。 喩えるなら、一昔前の日本の工業都市だろうか?
各地に鉱山が有るが、それなりに広い土地はある。 だがその大半が農地に割かれているため、都市部に建物がぎっしりと濃縮されている街作りになっている。 高層ビルこそないものの、四階から五階建ての建物が隙間なく乱立している。
それぞれの建物の下層には様々な品物を並べる店舗があり、上階には居住スペースや、あるいは事務所のようなものがひしめき合っている。
そして、開けた数か所には工房があり、常に大きな金属音とドワーフ族の大きな声が響いていた。
「なんだか、エネルギーが溢れてるような、凄い熱気だよね」
愛犬が隣でそうねと鳴いた。
この街にたどり着いた初日、私はまず、街の玄関口にある案内所へと向かった。
窓口に座っていた、やや事務的ながらも落ち着いた雰囲気のお姉さんに、食料品を扱う市場について尋ねる。 愛犬の姿をみてビツっと肩を震わせるのは、もはや恒例行事だろう。
「食料ですか? それならあそこの一番高い建物に行くといいですよ。 あのビル一つが食料品を中心とした市場のようなものですから」
指さされたのは、周囲の建物よりもさらに一回り大きく、重厚な石造りの建物だった。 石造りなのにあそこまで高くして崩れたりしないのかな? そんなことを考えてしまう。
不安を感じて尋ねると、中には鉄の芯が入っているので、崩れたりすることはないらしい。 石造りは外側だけで中は鉄筋ということなのだろう。
旅の途中で減ってしまった食料の調達、そしてこの新しい国の味を知るために、私は迷わずその建物へと向かった。
重い扉を潜った先には、野菜や肉、よく分からないラベルの香辛料などの匂いが入り混じった匂い、そして活気ある声がその場に響いていた。
そこで私は、一人の老婆と出会う。
深い皺が刻まれた顔に優しい瞳。 彼女こそが、この国での生活において長くお世話になることになる「市場のおばあちゃん」であった。
彼女の名はセナ。 この街で長く商売を営んでいるという。
私を一目見るなり優しく話しかけられた。 それをいいことにあれこれとこの国の情報を聞き出した。 大量の食材と調味料などを買い込むと、あれもこれもとおまけしてくれたセナさん。
私の外見が幼く見えるせいだろうか、最終的には「宿もまだ決まっていないのでしょ? 子供が遠慮するものじゃないよぉ?」と、そのまま自宅に招かれることになった。 彼女の家で遅めの夕飯を頂きながら、この国の内情をさらに詳しく教えてもらった。
結局、私は彼女の厚意に甘え、三日ほどだらだらとお世話になることになる。
別れ際、私は宿代代わりに、ベッドに敷くための介護用マットレスを取り出してプレゼントした。
「子供がこんな、気を使うんじゃないよ」
セナさんは驚き、一度は遠慮したが、私は引き下がらなかった。
「何度も言いますけど、私は二十四歳なんです! 大人なんです! 商人としてそれなりに、いえ、恐らく上位に食い込むぐらいに稼いでますから、これくらいは受け取ってください!」
半ば強引に押し付けると、彼女は困ったように、だがとても嬉しそうに目を細めた。
「そうかい? もぉ……すまないねぇ。 それで、本当に出ていくのかい? 遠慮してるのならよしてくれよ? なんならずっと居てくれていいんだから、ね?」
その言葉が骨身に染みて、思わず「そうだよねおばあちゃん、私、この家の子になるぅ」と言いそうになるのを堪えた。
「レイちゃんも、いつでも遊びにくるんだよ?」
そう言ってすっかり慣れた手つきで愛犬を撫でまわすセナさん。 その姿をほっこりとしながら眺めていた。
滞在中の数日間、私は食料などの補充を済ませ、さらに念願だった通信具を購入していたので、すでにセナさんと連絡先を交換済みだ。 すぐにこの国をでるわけじゃないんだ。 そう思いながら深く頭を下げて、「またね」と商業ギルドへと向かった。
新たな地での第一歩は、驚くほど温かなものとなった。
――― 数日分の収支
市場での買い物・Waooon Shopping 購入 等々 -965,300ダル
残高 90,460,234
次回、カナが商業ギルドで……
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