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032.友との別れ


 あれから数日。


 私は有名になりすぎてしまったようだ。 改めてそう実感した。


 王国からは、『聖女を連れてきた者に褒美を与える』というお触れが出ているらしい。 それを見た私は「この国を出よう」……即座にそう決断した。


 それからの数日は怒涛の日々が待っていた。


 まずは借りている家の契約を解除することにした。


 家を購入する際に利用した住居管理局を訪ねると、受付には以前と同様に真っ白なスタンドカラーのブラウスに、紺色のベストを綺麗に重ねているお姉さんが出迎えてくれた。


「やっぱりあなたが噂の英雄様ね。 それで? 今日はどんな御用かしら? もっと大きなお屋敷も紹介できるわよ?」


 やはり噂は広まっているようで笑顔でそう言う彼女に、王国を出ることを告げた。


「そう。 残念ね。 今はまだ騒がしいけど、きっといつかみんな落ち着くでしょ? そうしたらまた来てよね。 私もみんなも、きっと歓迎するんだから」


 そんな激励を受けながら、自宅を手放す手続きが進んだ。 何事もなければ賃料の半分ほどが手元に戻るという。 一年で借りたけど、まだ一ヶ月ほどしか住んでないからね。


 お姉さんは何度か家の中や庭を確認しにやってきた。 その度にお茶をして何気ないおしゃべりに興じるお姉さんに嬉しくなり、ついついクッキーなどを出しておもてなししてしまった。


 もちろん家内や庭のあれこれは保管ボックスにしまい込み、この世界のものだけを残しておいたが、クッションマットだけは居間に出しっぱなしだったので、目ざとく見つかりおひとつを金貨五枚でお買い上げとなった。


 そんな手続きを進めている間も、この家を特定した王国の兵士数名が城への召喚命令を伝えにきたりもした。


 もちろん拒否した私。


「王の召喚を断るなど……不敬罪で牢に入ることになるぞ!」


 凄む兵士たちであったが、もはやそれにビビる私ではなかった。 幾度かの戦いを経て、精神的にも強くなった私は、兵士に対し身構える。 勝手に異世界召喚して追い出したくせに!と思わず叫びそうになりながら。


「はんっ、そんなへっぴり腰で何ができる! その様子じゃ、本当にお前が英雄様だっていうのも怪しいな! そうか、そっちの獣が魔人を倒したのだな?」


 そんなことを言いだした兵士たちに、愛犬(レイ)がグルルと唸っている。


「英雄様を牢に? 王国はそんな不義理なことをするのか?」

「最低だな! 恩知らず!」

「魔人は倒したんじゃなく、聖女様が浄化されたのだろ? そんなことも知らないのか?」

「あんなのが国を守る兵士って言うんだから、この国ももう終わりだな」


 やる気満々で一歩踏み出しかけた私は、その声に驚き兵士の背後を確認する。


 そこには、家の中を覗き込むようにして見守っていた周囲の人たちがいた。 次々に兵士たちに向かって冷たい声を浴びせ、それを聞いた兵士たちは一瞬怒りを露わにするが、集まる人の多さに戸惑いながら、逃げるように帰っていった。


 大きな歓声があがる。


 それを聞きながら、王都の人々にとって、私は「英雄様」なのだと改めて実感し、嬉しくもあり恥ずかしくもある。 だが、この調子なら今しばらくは面倒事が収まる気配はないだろう。 そう考えて頬を掻く。


 早くこの国を出なくては。 強くそう思った私は、次なる目的地を女神から聞いた情報に沿うよう、南の大国「テクトンティア共和国」に決めた。


 そして数日。


 出立の準備を終え、ようやく王国を出る日がやってきた。


 混乱をさけるため、馬車には乗らず愛犬(レイ)と二人でゆっくり旅をすることにした。 食料はすでに買い込んである。 問題はないはずだ。


 目立たぬようにと街外れに集まったのは、ディナたち三人と最後の時間を過ごす。 二人はまだラフリコを許していないようだったが、この場に来ることだけは認めたらしい。


 思えば、最初に出会ったのが彼女たちで良かったなと今更ながら思う。


 思い出話に花を咲かせ数分後、ディナは涙を浮かべて私に縋った。


「カナ? 私はカナについていきたいけど、今のままじゃ足手まといになる。 カナを守ることさえできない。 だから、一緒には行けない……」


 そんな言葉に、思わずそれでもいいから一緒にと、そう思ってしまう。 でも今後も魔人を浄化するために危険なこともあるだろう。 そう思うと愛犬(レイ)と二人でなんとかしなくてはいけないのだと気を引き締める。


「カナがこの国を救ってくれたのに、こんなことになって本当にごめんね。 本当にごめん……必ず強くなって恩返しするから……」


 私は泣きじゃくるディナを優しく抱きしめた。


「ディナは何も知らない私に色々と教えてくれた。 十分に助けられたんだよ。 だから大丈夫。 またディナと楽しい日々を過ごせるように。絶対にそうなるように、私頑張るから……」


 ディナの暖かい体を抱きしめながら、思わず涙が溢れるが、濃厚な異世界での生活に、ディナが支えになってくれたのは事実だった。 名残惜しくもな時ながらも時間は過ぎてゆく。


 愛犬(レイ)を優しく撫でるディナを眺める。 その横で、ラフリコが土下座の体勢で弱々しくこちらも見てまた頭を下げているのが目に入る。 集合してから終始こんな状況に、心が痛くなる。


「ラフリコさん、遅かれ早かれ、私はいずれは同じことになっていたと思うんだ。 だから気にしないで。 でも、反省はしてよね?」


 謝罪を繰り返す彼に、少し笑いながら私はそう告げた。


 そうなのだ。 結局はこうなる運命だったのだ。 私の言葉にラフリコはもう一度、頭を地面につけて謝罪を口にしていた。


 そしてもう一人、クリスが出番とばかりに私の前までやってくると、真っ直ぐな目でジッと見つめられる。 小柄だけど整った顔をしているクリス。 エルフの血が入っているらしい。


 その綺麗な青く輝く瞳が今、私を真っ直ぐに見ていた。


「僕は、カナちゃんのことが好きだ! だから、一緒に行きたい!」


 クリスがハッキリとした口調で告げる告白。予想外の告白に、私の心臓がドキリと跳ねた。


「でも、今の僕はまだ君を守ることすらできない…… だから、もっともっと強くなって、それで君を守れるようになったら、必ず君に会いに行くから!」


 真剣な表情のクリスに私も想いを返す。


「今は私も役目があるから、恋とか愛とか、そういうことは考えられないんだ……でも、その時がきたら、クリスくんのこともちゃんと考えるから」


 そう言いながら、彼の手を両手で握る。


「……ありがとう」


 私の返答にクリスは満足そうに微笑み、握る手に少しだけ力がこもったのを感じた。 それにしても、これほどストレートな言葉を向けられたのは前世も含め、初めてだったかもしれない。


 少し後ろ髪を引かれる思いを感じながらも、私は小さく息を吐き、愛犬(レイ)と共に街の外を向く。


「じゃあ、行ってくる……三人共、またねっ!」


 そう言って手を挙げた私は振り返ることができなかった。


 背中越しに三人の別れの言葉と声援を受けながら、私と愛犬(レイ)は新たな国へ……南を目指して旅立った。



――― 数日分の収支


 賃貸料(返金分) 2,200,000ダル

 買い出し等 -630,500ダル


 残高 92,268,034ダル


次回、カナの行く手には……


お読みいただきありがとうございます!

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