029.対人戦はじめます。
晴れ渡った早朝、私たちは新たな狩場へと向かった。
魔人との戦いを経て強くなった気がしたが、兵士に迫られ動けなかった自分に、さらなる強さが必要だと痛感したからだ。 今回の目的地は、中堅冒険者向けの「トリパ炭鉱」である。
魔石の質が悪く素材回収の旨味はないが、人型の魔物が多いため対人戦の訓練には最適だ。 実戦経験が必要な私にディナが提案してくれた狩場だ。 人気のない狩場のため定期便はないので、荷馬車と馬を金貨十枚で借り、御者はクリスが引き受けてくれた。
到着までの間、作戦の再確認を行う。
三人がスライムや蝙蝠を排除し、私と愛犬が人型の骸骨騎士を相手に経験を積むというシンプルなものだった。
私は保管ボックスから、作り置きのホットドッグを取り出して皆に配った。 市場で購入したコッペパンを焼き、肉と野菜を適当に挟んだだけの品だ。 出来立ての温かさを維持できる保管ボックスの性能には、改めて感心する。
三人もその味に満足したようで、和やかな朝食の時間が過ぎていった。
現地に到着。
山道を少し上るとぽっかりと開いた穴が見える。 その入り口は鉄の枠で覆われている。
「ここでいいんだよね?」
私の問いを肯定しながら降りる三人。 脇にある建物に併設している馬屋に馬車を入れ、魔石を小屋にある装置にはめ込むと、淡い光が一瞬広がり消えた。
「これで半日は大丈夫なんだよね?」
「そうそう。 これで魔物は寄り付かなくなるから、水と飼葉も置いとけば勝手に食べるって」
そう言われ、馬を借りた店から金貨一枚で買った飼葉と水の入った木枠の桶を出す。 満足したように小さく鳴いた馬を撫でた後、気合を入れるように息を吐くと、炭坑内へと入って行った。
薄暗い炭坑内に入ると、うっすらと壁が光を放っているのを感じた。 ヒカリゴケのようなものなのだろうか? ランタンなどは無くとも視界はある程度は確保できるようだ。
数メートル奥に入ると、身構えた三人と共に愛犬も警戒するように鳴いている。
ビクリとしながら目を凝らせば、闇から浮かび上がるように人影のような物が見えた。 そして数秒後、目の前には朽ちた剣を構えた骸骨が一体、人間のように身構えこちらにじり寄ってきているのが見えた。
その仕草から、こちらを何もない瞳で睨みつけているように感じた。
「ひっ……」
私は思わず悲鳴を上げ固まっているが、すでに相手は迫ってきている。 振り下ろされた剣戟を必死に躱しながら闇雲に拳を突き出した。
ガシャンと乾いた音が響き、骸骨騎士が塵に還る。
その場には、小指の先ほどの小さな屑魔石が落ちていた。
冷や汗を拭いながら周囲を見ると、いつの間にか迫ってきていた新たな骸骨を、愛犬は軽々と骸骨をなぎ倒していた。 同じように三人は雑魚を散らしつつ、こともあろうに私の方へ骸骨をけしかけているように見える。
「ちょ、待って、待って!」
二体、三体と迫る骸骨を、悲鳴を上げながら足蹴にして塵へと帰していく。 四体目を蹴り飛ばしたところで、ようやく一息つくことができた。
文句を言おうとしたが、すぐに指導が始まってしまった。
「構えはこう。 視線は常に相手の剣と顔を追うこと」
クリスが私のそばへ歩み寄り、実践的な動きを説明してくれる。 込み上げた怒りの矛先が迷子になりながら、その説明を噛み締める。
対人戦も注意点は同じように、その攻撃の予兆は、未熟な兵士ほど顕著に出るものらしい。 それすら出さない手練れが相手なら、まずは身を守ることを優先させ逃げろと教えられた。
ディナがその様子を静かに見守り、ラフリコは手近なスライムを串刺しにしていた。
そこから三時間ほど、私は必死に訓練を続けた。
咄嗟に襲われたことを想定し、素手で戦うことを繰り返す。 テレビで見たボクサーのようなフットワークをイメージするが、どうしても腰が引けてしまう。
途中、三人がさばききれなかった蝙蝠の群れに悲鳴を上げ逃げ回り、思わず結界を使いそうになりながらもなんとか堪え、ディナの魔法による迎撃で事なきを得たりもしていた。
その蝙蝠も三体程度は振り払う拳で倒すことができたが、できれば華麗にパンチを繰り出し倒してみたかったなと嘆きながら、雑念を払いながら必死で狩りを続けていた。
ひと段落して、今日一日では無理かもと、弱音が頭をよぎったその時だった。
横から不意に迫った骸骨に対し、愛犬が一鳴き。 それに反応して咄嗟に身を翻し、一蹴りで骸骨を塵へと還すことができた。 我ながら素晴らしい動きができたと感じた。
「今の動き、どうだった? 中々良かったんじゃない?」
私は自信を胸に、三人へ確認するように尋ねた。
「まあ良いんじゃない? 咄嗟にあれぐらい動ければ、カナの場合、後は力押しで解決できるでしょ?」
ディナはそういって認めてくれた。
だがラフリコとクリスは苦笑いを浮かべている。 二人の反応にガッカリしながらも、不格好でも反応さえできれば、私には肉体改造と結界という強みがあるのだ。 そう思って気持ちを切り替える。
「じゃあ、今日はこれで終わりにしない? 外に出てご飯にしないかな?」
流れを変えるように提案すると、お腹を空かせていた二人は即座に賛同した。
帰り道も襲い掛かる魔物を、愛犬が素早い動きで次々となぎ倒していく。
「もう愛犬がいれば十分なんじゃない?」
ディナが私の肩をポンと叩き、冗談めかして言った。
全くもってその通り!と、私も彼女に笑顔で返したが、数秒考えた後、 いや、そういうことではないのだよ? とため息交じりに愛犬を眺めながら、炭鉱を出ると日の光を浴びて背筋を伸ばした。
――― 本日の収支
荷馬車と馬 -10,000ダル
飼葉と水 -10,000ダル
三人への依頼料 -120,000ダル
残高 90,698,534ダル
次回、休憩中に……
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