025.剣の魔人の力
決定打が出ないままの時間が続く。
愛犬との連携でこちらが即死するような攻撃は受けてはいないが、やや体が重く、気怠さを感じる。 聖浄化に治癒を連発している私は、これは魔力が少なくなっているということなのでは? と不安を感じる。
魔力切れについては未体験だったことを後悔する。 せめて一度ぐらいはどれぐらいの魔力を使うと魔力切れとなり、どんな症状になるのだろうかという実験をすべきであった。
でも今更遅いのだ。 そう思いながらも必死に目の前の攻撃を受け止め、転がり、治癒で傷をいやしてはまた聖浄化で強化した鈍器を振りかぶる。
「うぐっ……」
「わん!(妹ちゃん!)」
初めてともいえる痛みを感じる。 私が振り下ろした鈍器を剣でいなすようにした魔人が、背後に回り込んだのを見た次の瞬間、私の横っ腹には黒い剣がにょっきりと生えていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
叫びながら前に転がる。 引き抜かれる痛みにパニックになりながらも地面を転がった後、お腹に手を当て治癒を連発させる。 何度か発動したが痛みが消えた気がしない。 徐々に瞳に映る光が弱くなる。
ハァハァと息を荒くしながらお腹を見ると、穴の開いたそこからは綺麗なお腹が見えて安堵するが、未だに痛みを感じる気がして不安になる。
「獣よ! これでお前一匹になったな!」
愛犬に向かってそう言いながら高笑いする魔人。
確かに私はもうスキルを発動する気力も起きないほどに体は重く、立ち上がることすらままならない。 やはり時期尚早だったのだ。 もっと訓練を繰り返し、さらなるスキルを身に着け、さらには強い前衛を揃えてから挑むべきだったのだ。
そんな後悔を繰り返す。
そもそも、勇者とセットだと言うのになぜ女神は私と愛犬に魔人を託したのか。 あれか? 私の飼い主特権というスキルにより、聖女が二人いるようなものからかか?
そんなことを考えてしまい、女神への怒りと共に唸ってしまう。
「わぉん! わんわん!(大丈夫よ! お姉ちゃんが守ってあげるから!)」
そんな愛犬の鳴き声が聞こえる。
愛犬は宙を舞うように動き回り、魔人を追い詰めている。 愛犬の牙が、爪が、魔人に傷をつけてゆく。 だが、魔人の方はさして気にしないように剣を振り致命傷を受けないように冷静に立ち回っているようだ。
それを見て、私の頬には勝手に涙が流れている。 愛犬を助けなきゃ……私は、愛犬の保護者……いや違う、相棒なのだから!
私は鈍器を杖のようにして立ち上がる。 ふらふらと魔人に向かう。 そんな私を横目に見た魔人は頬を緩める。 そんな表情に悔しさが込み上げる。
愛犬の攻撃の隙をつき、魔人が縦に振った剣先から放たれる黒い熱が向かってくるが、私は足をもつれさせ横に倒れる。 その横を熱が通り過ぎ、背後の瓦礫をさらに破壊し、土煙を巻き起こしていた。
「レイ……」
「わぉん!(お姉ちゃんに任せて!)」
小さく名を呼ぶ私に、愛犬は答えてくれた。 私が心折れてどうする。 そう思って再び鈍器を支えに体を起こす。 ふらふらと……ふらふらと……。
明らかに笑みを浮かべた魔人が私を見ている。
「そんな体で何ができるというのだ!」
馬鹿にしたようにそう言う魔人に反発するように、私は震える腕で鈍器を持ち上げる。 わずかに回復したのだろう。 肉体改造が発動する。 なんとか体を支え、鈍器を頭上に持ち上げた。
だが、それだけだった。
私は動かすことができずプルプルと腕を震わせる。 魔人に向かって駆け出して、脳天に一撃を。 そう思っているが体が動かないのだ。
「わふぅ(妹ちゃん)」
心配そうに鳴く愛犬を見る。 必死に魔人を攻撃し続けているけど、その全身は赤く染まっている。 愛犬の輝く体が、今は赤く血塗られている。 魔力を節約するため、自身には治癒を使っていないのだろうか? そう思った。
「ぐあっ!」
愛犬が私を気にして攻撃を止めた時、ふいに魔人が呻く。 私は魔人越しに人影が動くのが見えた。 何かを投げ終わった瞬間のような体勢でそのまま地面に倒れ込む男性。
「クソ虫が! 邪魔を、するなぁ!」
苛立つように剣を縦に振り、倒れ込む男に向けて黒い闇を飛ばす魔人。 それを愛犬が聖浄化で消し去る。 そして地面を蹴り方向を変えた愛犬が、魔人に肉薄、よろける魔人はこちらへふらふらと……。 私の方へとふらふらと……。
上げっぱなしの腕に限界を感じ、脱力と共に重力に従い前に振り下ろされる鈍器。 その落下になけなしの魔力を籠める。 僅かに回復した魔力を肉体改造に変えて落としたのは無意識だった。
「あ……」
ゴキンという鈍い音と共に、魔人の右の角に振り下ろされた鈍器は、思いのほか軽々と地面へと振り抜くことができていた。 黒々とした歪な角が一本くるくると回りながら宙を舞うのを、焦点の定まらない視線で眺めていた。
「わぉーん!(さすが妹ちゃん!)」
そう鳴きながら、愛犬は頭を押さえ片膝をつく魔人に飛び掛かり、至近距離での聖浄化を放出している。
「ぐ、がぁぁぁーーー!!!」
苦しみだす魔人。 今度は効いたのかも。 そう思いながらも私は倒れ込むが、首を回し目線だけは魔人へと向けていた。
「わぉん! わぉーん!(妹ちゃんの受けた痛み! 思い知りなさーい!)」
怒りの鳴き声と共に光を何度も放つ愛犬。
「よくも……よくもぉぉぉーーー!!!」
叫ぶ魔人は闇を大量の闇を放出させる。 慌ててその場を退く愛犬。
噴き出した闇が収まった後、満身創痍の魔人は膝をつき、そして立ち上がる。 まだ駄目なの? そう思った時、さらに放出されたのは大量の灰色の煙のような何かを放出する。
その風圧に瓦礫や砂ぼこりが舞い、思わず目を瞑る。 逃げなきゃ……先ほどの愛犬の聖浄化の連発でも倒せないのなら、今は到底太刀打ちできないだろう。 気力を振り絞りながら起き上がる。
土埃が舞う。 それが晴れた時、その場には人影が見えた。
私は魔人からの追撃を警戒しながら、よろけながらも立ち上がり、身構えながらゆっくりと後ずさった。
次回、ついに決着が……
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