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023.王都の危機


 数日後、それは突然やってきた。


 国王の元に届けられたのは、王都の西側にあるいくつかの都市や村々が、山脈から飛来した何者かによって殲滅されたという報せだった。


 幸いその何者かは、家屋を破壊して食料を物色することを繰り返すのみで、人的な被害としては逃げる際に転倒したなど、軽微なものに留まっているという。


 逃げ延びた者たちの情報により、王国はその色黒で二本の大きな角、背中に羽根を持つ存在を「魔人」と認定した。


「西門に今すぐ迎撃の準備を進めろ! 国民どもにも知らしめるのだ! 国の脅威だと、戦えと、なんとしても魔人を倒すのだ!」


 こうして、魔人が王都へ向かって迫っているという情報は、各所の掲示板を通じて国民にも開示された。 それと同時に、迎撃隊への参加が広く呼びかけられていた。


 今のところ国軍の参加は全体の半分、およそ五万人ほどが準備をしているという。 それ以上は王城や他の重要拠点、国境などの警護の任にあたっているため動かせないのだと。 そんな情報も、掲示板には詳らかに開示されている。


「国の危機だろ? 普通は全兵投入だろ? 自分たちの警護はおろそかにできないってことか?」


「だけど、俺たちには報酬と引き換えに、魔人の前に立って肉壁になれと?」


「西門にすげー兵器が集まってるだろ? あれで勝てなきゃ俺たちがどうこうできる相手じゃないだろ?」


 そんな声があちこちから聞こえてくる。


 だが、冒険者の中には「国軍と共に立ち向かえばなんとかなるのでは?」「そこで活躍すれば莫大な褒美がもらえるだろう」と羨望を描く者たちも居た。 さらには「魔人を倒せば爵位なども与えられるでは?」と息巻く者もいた。


 ディナたちはそれらの情報を聞きながら、呆れた様子を見せていた。


 彼女は、いつものように戦闘時の赤いフード付きのローブに、腰には護身用のナイフを二振り装備し、ラフリコとクリスもすでに装備を整えている。 もちろん魔人の迎撃に参加するわけではなく、通常の依頼をこなす日常を過ごすようだ。


 そんなディナは、冒険者ギルドの入り口横に掲示されている「魔人討伐」の依頼書を見て鼻で笑った。 参加で金貨十枚、魔人に攻撃を当てた者はさらに二十枚、さらに活躍した者には多額の報酬。 そんな内容だった。


「遠距離からの攻撃なら危険性も低いけど、結局倒せなければ真っ先に餌食になるのよ。 それに魔人と立ち向かって活躍できるくらいなら、とっくに冒険者としてもっと成功しているわよ。 こんなはした金程度、笑い飛ばせるぐらいにはね」


 私はそんなディナの言葉を苦笑いしながら、どうしたものかと頭を悩ませた。


 魔人の出現は、私にとってはついに始まったメインクエストである。 やはり私は対処しなくてはいけないのだろう。 不本意ながら。


 それにしても女神の話を聞いて数日、早すぎないだろうか? 「いつになるか分からない」なんていうものだから、せっかく家を買って、これからものんびり過ごしながら魔人を待とうと思っていた所なのに。


 私のそんな思いを他所に、魔人は真っ直ぐ王都を目指しており、数日中には西門付近に到着するという。


 西門の手前にはすでに国軍主導でバリケードが設置され、バリスタや投石機といった大型兵器も準備されているようだ。 だがその士気は低いのだとも聞く。


 そもそもの話、そんなもので対抗できるのかは不明だ。 勇者と聖女が立ち向かうのだという女神の言葉どおりであるなら、おそらく倒しきれる相手ではないだろう。 というより倒してはいけないのでは?


 私はやや焦りながら考えた末、自分の役目を果たすために西へ向かうことを決意した。


「ねえディナ、今から西に移動するとしたら、馬車とか出てるかな?」


 私の問いに、ディナは不思議そうに首をひねった。


「今は定期的に逃げてくる人のための迎えの馬車が出ているけど……まさか行く気なの?」


「いや、ちょっと用事があってさ」


「……行くなら気を付けてね。 なんなら私たちが護衛に……いや、いいか。 もうカナたちには敵わないしね」


 そんな会話の後、心配する三人には戦いに行くわけじゃないと言いながら別れ、私は西門近くにある荷馬車の運行受付所を訪ねた。


 受付所事体は閑散としていたが、西から逃れてきた人々が集まるテント村のような場所が近くに形成されていた。 兵士の姿も多く、迎撃準備は着々と進んでいるように見えた。


 一応確認してみたものの、案の定「なぜそんな危険な場所に行くのか」と尋ねられ、明確な理由を告げられなかった私は乗車を突っぱねられた。 お金を積めばとも思ったが、人目もあり、一人と一匹で西へ向かう光景は目立ちすぎるだろう。


「レイ、夜になったら一緒に行こう」


「わぉん(それが良いわね)」


 私は近くの宿を借り、部屋の中で夜までだらだらと時間を潰した。


 そして夜。


 私は宿を出ると、闇に紛れて肉体改造で強化した体で門を飛び越えた。 そのまま愛犬(レイ)の背に跨り、西へと駆け出した。 初めてその背に乗ってみたが、愛犬(レイ)が気遣ってくれているのかそれほど揺れが気にならなかった。


 私は役目を果たすべく、時折猛スピードで走る荷馬車から距離を取るように気を付けながら、道なき道を、魔人がいるであろう西を目指した。



――― 数日分の収支


 宿代 -3,000ダル

 食費等 -8,300ダル


 残高 91,555,534ダル



◆◇◆◇◆



『何? 西へ向かった? なんで?』


「いえ、分かりません。 ですが、使役獣に乗って物凄い勢いで疾走していたため追いつけず、見失ってしまいました。 申し訳ございません……」


 通信具を片手に頭を下げるのは、レッテであった。


 彼女は夜の闇に同化するような黒い法衣を纏い、いつものように感情の読めない瞳で虚空を見つめている。


『それは仕方ないわ。 それにしても……彼女の仕入れ先は西側のどこか? ああ、今は考えてもしかたないわね。 レッテはそのまま西門で待機していて。 でも、魔人とやらが来たらすぐに退避すること。 わかった?』


 通信の主であるフィルから返ってきた言葉に、レッテはまた頭を下げる。


「かしこまりました。 それでは何かあれば、また連絡いたしますので」


 フィルとの通話を終えたレッテは、小さくため息をつき、闇に溶け込むようにその場に座り込んだ。


次回、遂に魔人と遭遇です。


お読みいただきありがとうございます!

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