022.ゆっくりまったりするために
昨晩、市場で大量の食材や食器類、調理器具、雑貨などを買いあさった後、伝言を見てやってきたディナと一緒に夕飯を楽しんだ。
今日のディナはいつものように、動きやすそうな生成りのチュニックと茶色のズボンを合わせている。 腰にはいつもの小さな鞄がベルトに装着されている、いつもの装備はその中だろう。
「お祝いだしいいよね?」
やってきて早々、ディナから差し出されたのは、彼女の好きな果実酒各種。 小さな鞄の中から次々と取り出されたそれらを手に抱え、居間のテーブルに並べた。
「そうだよね。 お祝いだしね!」
テーブルに並んだ十数本を眺めながらそう言った私に、愛犬は呆れたように鳴いている。
それを無視するように、フードボウルに購入してあった珍味やフードなどを載せ誤魔化す私。
愛犬が諦めて食べ始めたのを見て、用意してあった得意料理である鍋を食べながら、組み合わせはどうなのだろう?と思いながらも、頂いた果実酒を次々に飲み干した。
殊の外美味しかった。
その後の記憶は曖昧ではあったが、とにかく楽しい時間だった……はずだ。
痛む頭を押さえ、柔らかなフロアマットの上で目を覚ました私は、ぼんやりと残っている記憶を頼りにそう思った。
昨夜のうちに居間にフロアマットを敷き、寝室のベッドにはマットレスを設置し、寝具は新しく購入したものに取り換えていたのが幸いし、腰が痛むことは無かった。 まあマットレスの方は使ってはいないけど。
テーブルの上にはディナからの「楽しかったよ」のメッセージ。 それにほっこりしながら自身に治癒を使ってみるが、やはり痛む頭は改善されなかった。
「あー、お風呂入りたい……」
そう思った私はフロアマットに横たわり、ふたたび目を閉じた。 おぼろげな記憶の中、抱き枕にした柔らかな相棒から、呆れたような鳴き声を聞いた気がした。
次に目覚めた時、夕暮れの光と共にお腹が鳴った。
「さすがに起きるか……」
「くぅん(それがいいわ)」
私に抱かれていた愛犬も、ため息交じりにそう鳴いた。
重い体を引きずるようにキッチンに立つ。 昨日放置してしまった鍋の中身を保管ボックス経由で処分する。 私を堕落させる神スキルだなと考えながら、適当に野菜と肉を放り込み、水と塩、味噌っぽい液状の調味料を投入。
昨日初めて使ったが、それなりに良い味になるのだ。 念のため味見をした私は「うん。 まあ大丈夫」と、つぶやいた後、キッチンの丸椅子に座り調理を続行する。
「おいしくなーれー」
気の抜けた声でそう言いながら、鍋を適度に混ぜ時を待つ。
食事の後、全身に聖浄化をかける。 そして、「明日こそは!」と拳を握りながら愛犬と一緒に眠りについた。
翌日、少し早めに目が覚めた私は、昨夜の残りを温め直しお腹に詰め込んだ。 しばしの休憩の後、欠伸をしながら庭に出る。 この世界の四季はどうなっているのだろう? ぽかぽかした陽気にまた眠気を感じる。
気を取り直し頬を揉み、Waooon Shopping から目当てのものを購入する。
『大型犬用ケージ ルーフ&ドア付き(グレー) 縦4メートル、横2メートル、高さ2メートル』
お値段は78,000ダル。 前々日、愛犬のおやつに送られたばかりのクーポンをすべて使い切ったためクーポンは使えないが、そもそも5,000ダル程度気にする私ではない。
そんなことを考えながら保管庫から取り出したそれは、ドシンという大きな音をたて、狙い通りの場所に出現した。
デカイな。
だが、庭に余裕をもって収まる大きさではあった。
屋根は片流れの傾斜がついており、低い方でも私の背を少し上回る程度だ。 反対側の高くなった部分は大きく開いている。 出入り口もそちら側にあるため、その面を建物側へ向ける形で設置した。
さらに金貨10枚で購入しておいた大量の厚手の水色の布を取り出し、フェンスの家側以外の三方に、おまけで貰った留め金を使い目隠しとして丁寧に括り付けてゆく。
試しに愛犬に中に入ってもらったが、外側からは透けて見えないようだ。 これなら大丈夫!そう思って買い物を続ける。
『犬用フレームプール 縦1メートル、横2メートル、高さ90センチ 組み立て式(黒帆布)』
お値段なんと55,000ダルというお手頃価格のそれを、ケージの中に入って設置した。 良きかな良きかな。 良いサイズに収まったなと頷いた。
さらに、白金貨二枚で購入したお湯を出す魔道具を、プールのすぐ横に設置し、そこから延びる筒状の給水口の高さを調整する。 燃料となる中型魔石も10個、白金貨一枚で購入していた。 二日前はこれらを買い揃えるため、冒険者ギルドと魔道具店、さらには市場を行ったり来たりする羽目になっていた。
魔石一つでかなりの量の水を出せると言われたが、どのぐらいのコストになるかは分からない。 だが、お金はあるのだ。 そう考えて出し惜しみせずに買った私。
さっそく魔石を一つ取り出し、魔道具のポケットへセットする。 スイッチオンで静かに動き出した魔道具の筒状の部分から、プール目掛けて大量のお湯が湯気を出して放出された。
試しに触った私は悲鳴を上げる。 火傷するかと思った。 涙目で治癒を使った後、ダイヤルを捻り温度を調整する。
数分後、プールに程よく貯まったお湯に満足し、周りを確認したのちに Waooon Shopping で新たにクッションマットを購入。 その上で豪快に服を脱ぐ。
久しぶりの湯船は最高だった。
魔道具をちらりと見ると、燃料ゲージのような部分が三割ほど減っていた。 魔石の価格で考えると一回で三万程度? 日本で考えれば法外な入浴料だなと、そんなことを考えながら暖かな湯に顔を半分沈ませる。
その気持ち良さに改めてうっとりしながら、隣で同じように気持ちよさそうに湯につかる愛犬を抱きしめた。
愛犬と十分に温まった後、中の水を保管ボックスに収納し処分する。
本当に便利なスキルだなと考えながら、すっきりした体で昼食の準備を始めた。
――― 本日の収支
犬用ケージ ルーフ&ドア付き(グレー) -78,000ダル
犬用フレームプール(黒帆布) -55,000ダル
クッションマット -24,800ダル
残高 91,566,834ダル
◆◇◆◇◆
――― 商業ギルド近く、とある邸宅の室内。
「フィーリア様、カナ様は宿を出て、家を借りたようです。 何やら大きな建物を立てておりましたが、中を調査いたしますか?」
報告をするのは、夜の闇に溶け込むような黒い法衣のような服に身を包んだ、無表情な少女。 幼さを残す顔立ちながら、その瞳には感情の機微が一切見受けられない。
「レッテ? フィル、でしょ?」
「失礼しました、フィル様」
燃えるような鮮やかな赤髪を揺らし、にっこりとほほ笑みながら嗜めたのは、フィル。 彼女は、深い緑のシルクで作られた上品なドレスを纏い、胸元には大粒の真珠があしらわれた金のネックレスを飾っている。
フィルに慌てて頭を下げるレッテ。
「遠くから見守るだけでいいわ。 あのレイとかいう使役獣は勘も鋭いようだし、敵対するわけにはいかないもの」
フィルの言葉に、レッテは短く返答して頭を下げる。
「近々また接触するわ。 それまでは着かず離れず、動向を窺っていてね」
そう言われたレッテは、またも短く返答し、音もなく頭を下げてその場を出ていった。
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