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016.新たな力


 時に街ブラを楽しみながら、まったりとした日々を過ごす私。


 そんな私は、絶賛過密日程で依頼をこなしているディナの愚痴を聞きつつ、魔導書の存在を知る。


 そして今日、王都で一番という魔導具店を訪ねていた。


 王都で一番の店ではあるが、規模としては小さなお店。 この世界で魔導書については出回ることは稀で、この王都一の店であっても買えるとしても基本の魔導書ぐらいらしい。


 基本属性以外の魔導書については、私的な取引やオークションになることがほとんどだとか。


 そんな話を聞きつつも、ある種の期待を胸に愛犬(レイ)をお供に店の扉を開け入店する。


 狭い店内の奥には、深い皺を刻んだ小柄な老婆。 目の前で目をつぶったままのその老婆は、尖った黒い帽子を深く被り、星が刺繍された色褪せた紫のローブを纏って椅子にどっかりと座っている。 その鼻先には分厚いレンズの銀縁の眼鏡が乗っていた。


「あの……」


 びっくりさせないように優しく声をかけると、片目だけ上げる老婆。


「買うのかい? それとも売るのかい?」


 かすれ声でそう言う老婆。 どうやら寝ていたわけではなかったようだ。


「買いたいのですが、どんなのがありますか?」


 老婆はにやりと笑い、軽く伸びをした後、椅子をくるりと反転させ、背後の棚にある三冊の分厚い辞書のような古ぼけた本を「よいしょ」と取る。 再び反転した老婆は、目の前のカウンターの前にどしりとそれを置いた。


 目の前のそれが魔導書なのだろう。


 老婆からそのひとつを手渡される。 赤茶けたそれの表紙には何やら模様が浮き出ている。


「それは火の魔導書じゃよ?」


「火の?」


 首を傾げる私に、老婆はゆっくりとした口調で説明を始めた。


 火属性の魔導書。


 火属性の適性があれば、この魔導書により火属性の魔法が覚えられるようになるという。 適正が無ければ中を読むことはできないようだ。


 適性がある者が開くと、魔導書の効力により火属性魔法というスキルを覚え、その後、例外なく魔導書は塵へと化すという。 そのため、魔導書を開く前に保証金として価格の一割にあたる金額が必要だと言う。


 さらに、適正があり魔導書が消失した後、万が一にも代金が払えなければ……。


「罪人として奴隷送りになるのさ」


 そう言って冷たい目で笑う老婆に、背中に冷や汗が流れるのを感じた。


 とはいえ、三冊あるという魔導書はどれも基本属性のもので、白金貨十枚。 一千万ダルだというそれに、私は気後れすることは無かった。 成金アホ女の再来である。


「三つとも試したいです!」


 そう言いながら保証金として白金貨一枚を支払う。 三枚出したが、ひとつづつ確認するので一枚で良いと言われ引っ込めた。


 期待を込めて火属性の魔導書を開く。


 思わず瞑ってしまった目を開けると、残念ながら何も書かれていない魔導書から、文字が浮かび上がることはなく、光を放ち眩しさに目を細めることも、魔導書が塵へと消えることもなかった。


「つ……次を!」


 残念な気持ちを隠すように、老婆に次を出せと迫る。


 老婆は苦笑いをしながら二冊目、水属性の魔導書を開く。 そして最後の土属性の魔導書を開いたところで、老婆から「残念だったね」と言われ、保証金の白金貨を返された。


「くっ……お、おばあちゃん! 他の、他の魔導書はないんですか!」


 思わず前のめりになる私に、老婆は笑いながら「またおいで」と言ってくれた。


「巡り合わせが良ければそのうち出会えるだろうさ。 魔導書なんてもんは、そう言うものなのさ」


 老婆の言葉に悔しさと期待が入り混じる。


「基本の魔導書に適正がなくても、珍しい固有スキルの魔導書に適正があることもあるから、気長に待って運良く出会えたら、そんときゃ試してみたら良い。 上手くいけば大魔導士になれるだろうさ」


 そう言いながら、重たそうな眼鏡を押し上げ笑う老婆。 そんな老婆に見送られ、私は再来店を誓って店を後にした。



 その翌日。


 魔導書が不発だった私は、次なる一手として考えたのは、装備を整えること。


 またもディナから情報を仕入れ、大きな武具店へと向かう。


 店内に入ると、男たちの騒がしい声が聞こえたが、私の存在を確認するとしばし静かな時間が……見定めるような視線が向けられる。


 数秒後、興味を無くしたかのように元の騒がしさを取り戻した店内。 安堵しながらまずは情報を、と正面のカウンターを目指す。


 カウンターには退屈そうな男性が頬杖をついて横を向いていた。 綺麗に整えられた銀髪を首の後ろで結び、使い込まれた厚手の牛革エプロンを身に着け、青い瞳の体の大きな青年。


 彼はカウンターまでたどり着いた私の方に視線を戻し、私の貧弱な皮の胸あてを一瞥すると鼻で笑い横を向く。


「あの、付与効果のある装飾品はありますか?」


「付与効果? もちろんあるけど……お嬢ちゃんに買える値段じゃーないから。 普通の装備なら見繕ってやるから、それで我慢しとくといいよ」


 その不遜な態度に、カチンときた私は、愛犬(レイ)の頭を撫でながら、愚痴をこぼすように口を開く。


「なんだ。 王都で一番大きな店だって聞いたから来たのに。 何も売ってないんだってー。 しょぼい店。 レイ、帰ろっか?」


「くぅん(そうね)」


 愛犬(レイ)も私の手に絡まるようにしてじゃれてくる。 私の言葉を聞いて、青年はあからさまに不機嫌そうな顔を向ける。


「あ? 煽ってんの? お前に買えるものが(・・・・・・・・・)、無いって言ってるんだよ!」


 青年は立ち上がり、鼻息荒くそう言った後、見下すように腕を胸の前に組んだ。


「ちなみに、自動で結界を張るような装飾品はある?」


「ある! だが白金貨で二十枚だ! お前には買えんだろ! わかったら早く帰れ、このクソガ――」


「なんだ、意外と安いのね」


 私は青年の言葉を遮るように、即座に取り出していた白金貨二十枚をカウンター上に乱暴に置く。


「とりあえず見せてくれる? 買うかどうかは、見た目と性能で決めるわ」


 青年はあっけに取られ、言葉を失う。


「……お、お名前を伺っても?」


「カナよ」


「いえ、どこのお嬢様かと……」


「平民よ。 でもお金はあるの」


 その後の青年の態度は、驚くほど腰の低いものへと変わった。 その変わりように苦笑しながら、私は装飾品を三つ購入することにした。


 結界のペンダントはお詫びとして白金貨十九枚、堅守の腕輪を白金貨八枚、察知の指輪を白金貨二枚。


 結界のペンダントは魔力を込めておくと敵意を察知して結界を張ることができる。 強度は高くは無いが、不意打ちを防ぐにはちょうど良いものだった。


 堅守の腕輪は謎の力で耐久性が上がるというもの。 察知の指輪は危険を察知してほんのりと熱くなるのだと言う。


「レイは何か欲しいものある?」


「わおん? くーん(私はいいわよ? お姉ちゃん、自分の身を自分で守れるから)」


 愛犬(レイ)にも何かと思ったが、どうやら不要なようだ。


 腰の低くなった青年に見送られ、私は戦利品を手に気分よく帰路についた。



――― 数日分の収支


 結界のペンダント -19,000,000ダル

 堅守の腕輪 -8,000,000ダル

 察知の指輪 -2,000,000ダル

 露店での買い物等 -26,000ダル

 ジャーキー x10 -5,000ダル

 食事代 -426,500ダル


 残高:122,073,234ダル


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