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015.修行を終えて


 ディナ、クリス、ラフリコの三人に指導を仰ぎ始めてから、早いもので一週間が経過した。


 この一週間の間に、私たちは王都の周辺にある主要な狩場をいくつか回り、冒険者としての基礎を叩き込まれた。 魔物との距離の取り方、不意を突かれた際の対処、そして何より大切な、森での歩き方や野営の注意点。


 知識として知っているのと、実際に命懸けの現場で経験するのとでは、天と地ほどの差がある。 愛犬(レイ)という圧倒的な戦力がいるおかげで、実戦そのものは危なげなかった。


 だが、彼女たちが教えてくれた「冒険者として生き残るための知恵」は、今の私にとって、この異世界で生き残るための貴重な経験となった。 そして今日、一通りの経験を積むことができたと、ディナたち三人から卒業することになった。


 冒険者ギルドの食堂では祝賀会と称して大いに盛り上がった。 お礼も兼ねてと奢ることになった私。 当然ながら禁酒を貫き前回のようなへまをすることはない。 私は出来る女なのだ。


 三人ともかなりのペースで酒を飲み、食事もそこそこに、次々と運ばれてくるジョッキを空にしていく。 私はそれを眺めながら、相変わらず何の肉かわからない脂ギッシュなステーキを喰らった。


 愛犬(レイ)にはフードボウルにいつものドッグフード、さらに「ワンランク上のドッグミルク」を入れ天然水を周りに見えないように注意を払いながら加える。 あっちの世界でも愛犬(レイ)が好きだった組み合わせだ。


「わぉーん! わん!(久しぶりね妹ちゃん! 美味しいわ!)」


 そう言いながらがっつく愛犬(レイ)


 こっちに来てからはすっかり忘れていたこともあり、残りのクーポン分、五缶購入しておいた。 今日から夕食時には忘れないように出してあげようと思う。


「忘れててごめんねー」


 そう言いながらお詫びを込め、ジャーキーも5つほど購入。 愛犬(レイ)に見せながら確認し、3つ別のフードボウルに取り出しておいた。


 愛犬(レイ)は食堂の床に転がりながら、ジャーキーのひとつを前足で器用に掴み、鼻息荒くかぶりついていた。


 ひとしきり盛り上がった後、お開きとなったが、私はディナと二人で二次会を決行することにした。 宿の食堂で追加のお酒を購入し、私の部屋へと移動する。


 部屋に入ると、私は普段は我慢しているお酒を、今日ばかりは一杯だけと解禁することに決めた。 結果としてかなり飲んでしまうことになるのだが。


「ふぅ……ようやく落ち着いたわね」


 椅子に座り、果実酒を口にしたディナが、ふと床の中央に敷かれたクッションマットを視界にとらえた。 ふらふらと近づくと、片手をマットに乗せる。


「あれ? これ、すごく柔らかい?」


 彼女は興味津々といった様子で立ち上がり、マットの上に足を乗せた。 その瞬間、ディナの目が驚きで見開かれた。


「な、何これ……床の硬さを全く感じないわ! カナ、これって魔導具なの? 高級な宿にはこんなスペースが……」


 日本製の高反発クッションマット。 彼女は何度もその場で足踏みをし、寝転がり、その弾力性を確かめている。


「魔導具ではないんだけどね。 一応私物かな?」


「えっ、カナの私物? 売ってないの? すごいわ……でもこれだけ大きいと、あの狭い部屋に収まるかわからないし……あっ、でも私物なのか……」


 ディナは首を傾げながら、マットの端をじっと見つめている。


 私は、欲しいならまだ数があること、前の宿のあの狭い部屋でもギリギリ敷けたことを伝えると、彼女は笑顔の花を咲かせ、私の前まで戻ってきた。


「カナ、お願い! これ私に売って! これがあれば遠征の時の疲れが全然違うはず!」


 ディナは身を乗り出し、私の手を両手で握った。


 正直、ペットボトルの件でも儲けさせてもらったし、これくらいプレゼントしても良かったが、「プレゼント」という私の言葉を遮り、金貨を五枚取り出し手渡してきた。


「これ以上の値打ちがあるのは分かってるけど……できればこれで譲って!」


「だからプレゼントするって」


 だが、ディナがそれを許してくれなかった。


「ダメよ、タダなんて! 商売は商売、友情は友情! あのペットボトル? それを売った利益もまだ残ってるんだから!」


 彼女の強い言葉に押され、私は仕方なく金貨を受け取ることにした。


 ご機嫌になったディナは、そのままマットの上でゴロゴロと転がり始める。 だが、驚きはそれだけで終わらなかった。


 何気なくベッドに腰かけるディナはその柔らかさに「さすが高級宿!」と驚くが、酔いが回ってきた私は思わずシーツを外しマットレスを持ち上げる。 こちらも日本製、自慢の厚手の高級マットレスである。


 クッションマットの無い場所にそれを敷くと、ディナがその上に倒れ込む。 彼女はうっとりしながらその柔らかさに笑みを浮かべた。


「これ、こっちより小さいけど、さっきのよりさらに凄いわ! ねぇカナ、即金は無理だけど必ずお金を作るから! これも売ってくれない?」


 涙目になりながらマットレスを抱きしめるディナ。 私は苦笑しながらディナ用にクッションマットとマットレスを購入した。 クーポンを使ってしまったのは早まったかなと思いながら。


「わかったよ、ディナ。 でもマットレスの方はプレゼントするね。 これはお金を貰わない。 いつも助けてもらってるお礼。 わかった? じゃなきゃ売らないんだから」


「本当!? カナ、あなたは女神か何かなの!?」


 ディナは歓喜の声を上げ、新しく取り出した二つを、収納バッグに押し込める。 重さの関係で入らなかったようで、中から酒瓶をいくつか取り出し、テーブルの上に置いていた。


 その後もさらに上機嫌になったディナにより、ラフリコとクリスの過去の出来事、主に愚痴を大いに吐き出したディナ。


「私が一緒にいなければ、今頃あの二人なんて死んでるんじゃないかなー!」


 酔いにより真っ赤な顔でそう言うディナと共に、異世界の夜は過ぎていった。


 そして翌日、二日酔いの頭痛により思考力の鈍ったディナは、他の二人にもマットレスについて口を滑らせていた。


 少し遅めに起き、朝食をと階下に降りた私。 すでにロビーで待ち構えていた二人は拝みながら「ディナが自慢していたマットレスとやらを売ってくれ!」と土下座しそうなほど頼み込んできた。


 結局、二人にもマットレスを金貨五枚で売ることになった。


 だが、二人はディナと違い、ペットボトルで儲けた分を既に飲み屋にて使い果たしていたようで、ディナを道連れにし、過密日程で魔物討伐の依頼を詰め込むことになる。


 三人が忙しそうに活動している中、平和な日常を何よりも愛おしく感じ、ダラダラと自堕落な生活を送る私だった。



――― 数日分の収支


 ワンランク上のドッグミルク缶 280g x5 -12,250ダル クーポン使用

 ジャーキー x5 -2,500ダル

 食事代 -268,800ダル

 クッションマット -24,800ダル

 介護用マットレスx3 -26,700ダル

 クッションマットの販売 50,000ダル

 介護用マットレスの販売x2 100,000ダル

 魔物の素材買い取り 120,900ダル

 露店での買い物等 -26,000ダル

 宿代(20日分) -1,000,000ダル


 残高 151,530,734ダル


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