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013.神の試練


 神の試練を越えて強くなる。


 いわゆるレベルアップをするため、私はディナたち三人に誘われ近くの森へと向かった。 小鬼(ゴブリン)森狼(ウルフ)といった異世界あるあるな魔物が出る初心者用の狩場だと言う。


 恐怖心で足が竦むが、昨夜の襲撃を受け、自衛手段の必要性を痛感した私にとって、これは避けては通れない道だった。


 森に入ってすぐ、私たちは小鬼(ゴブリン)の群れに遭遇した。


 その見た目に私が小さく悲鳴を上げる中、先陣を切ったのは愛犬(レイ)だった。 肉体改造のスキルを発動し、弾丸のような速さで群れに突っ込んでいった愛犬(レイ)。 三人は愛犬(レイ)を止めようと声を上げたが、その声が空しく響くだけの結果になった。


 鋭い爪と牙が振るわれるたび、小鬼(ゴブリン)たちが紙屑のように吹き飛んでいく。


 三人は「あらら」と言いながらに、見慣れている光景のようだったが、私にとっては初めて見る血肉飛び散る光景に、「ここは地獄か?」とつぶやいてしまった。 ……と、その時、私の体にも異変が起きた。


 これも飼い主特権だろうか? 体の奥底から力が溢れ出るような、熱い感覚が突き抜けた。 愛犬(レイ)が魔物を倒した分だけ私にも力が流れてくるのだろう。


「……これが、神の試練を越えるということ?」


 私は自分の中に漲る新しい力を実感していた。


 そんな愛犬(レイ)の姿に、苦笑いするしかない三人。


 それでも彼女たちはプロだった。 呆れながらも、魔物の急所や生息地、森での歩き方について丁寧に指導してくれた。 数時間の狩りの間、次々に現れる魔物たちに対し、愛犬(レイ)は無双し続けていた。


 私はといえば、アドバイスに従って購入した鈍器(メイス)を手に、へっぴり腰で一匹の小鬼(ゴブリン)と対峙していた。 肉体改造のおかげで重いメイスも軽く扱えたが、馬鹿にしたような態度で向かってくるそれを、鈍器(メイス)に振り回されながらも叩き潰す感触は、控えめに言って最悪だった。


 精神的なダメージを負いながらも、何度かの試練越えを繰り返した。


 そして、夕方近くになり愛犬(レイ)が嬉しそうに私の元に戻ってくる。


「わふぅ、わぉわぉーん!(妹ちゃん、新しいスキル覚えたわ!)」


 嬉しそうに尻尾を振りながらそう言う愛犬(レイ)を撫でながら「観察」スキルを使う。



 浄化:いつも清潔で安全な毎日を



 新しいスキル『浄化』だった。 これで衛生関連はばっちりだなと頬が緩む。 まともに湯船に浸かれない生活だから、このスキルがあれば何気に助かるよねー、と考えながら満足げに頷く私。


 早速全員に浄化を使うと、狩りにより染み付いているように感じていた血生臭い匂いなどが、綺麗さっぱり消え去った気がした。


「すごい……けど、カナ、そのスキルは街中では隠した方が良いわよ? 浄化は教会が独占しているスキルだから。 治癒よりはマシだけど、目立てばまた厄介なことになるから……」


 ディナの忠告に私は頷いた。 そして、治癒よりはという言葉にドキリとする。 まだ三人には治癒のことは言っていない。 言ったらどう思うのか? もちろん悪い人たちではないと思ってはいるけど、まだ話すべきじゃないと思った。


 街に戻り、回収してある魔物素材を換金。 それなりの数を狩ったので金貨五枚を超える金額になったので、そのまま三人に渡すが、ほとんど愛犬(レイ)が狩ったものとして受け取ってくれなかった。


 結局、押し問答の末、「付き添ってくれたから受け取って」と、なんとか半分を押し付けた。


 その後、三人と一緒に新しく移る予定の宿、商業ギルド前の宿の一階にある食堂で夕食を頂く。 浄化スキルの口止め料代わりにと食事を奢り、ゆるい反省会を行った後、数日は色々な場所に連れて行ってもらうよう願い出た。


 この王都の周りは複数の狩場があるので、それらを回ればある程度の場所で狩りをするノウハウがわかるだろうと。


 少しお酒も入り(私は禁酒)盛り上がってきたところでお開きに。 宿へ戻ると言う三人を見送った後、疲労困憊の体を引きずりながら、そのまま受付のカウンターへと向かった。


 応対したお姉さんは、最初、私と愛犬(レイ)の姿を上から下と確認した後、露骨な塩対応を見せた。


「ここじゃ使役獣を連れ込みたいなら、四階以上の中級階以上じゃないとダメなのよ? 一泊金貨五枚だけど?」


 言葉の後に、貴女なんかに払えるの? とでも言いたげな表情のお姉さん。


 私は黙って白金貨を一枚取り出し、カウンターに置いた。


「とりあえず十日分で。 これで足りますか、お姉さん?」


 そう言ってニッコリ笑って見せる。 次の瞬間、お姉さんの掌返しは実に見事だった。


「お越しくださいまして、誠にありがとうございますお嬢様。 こちら、頂戴いたします」


 何事もなかったかのように満面の笑みの後、深々と頭を下げたお姉さん。 トレイの上に金貨十枚の山を綺麗に5つ作り、白金貨と入れ替えるようにカウンターの前方に滑らせていた。


「お部屋はこちらです。 ご案内しますね」


 そう言いながら、私を案内してくれるお姉さん。 やはりお金の力というのは異世界でも健在なようだ。


 エレベーターのような物に乗り込み四階へ。 案内された部屋の中はかなり広く、どこぞのお姫様のような飾りが多めなやや落ち着かない部屋だった。 だが、この世界では珍しく専用のシャワー室まで完備されていた。


 湯船に浸かりたい欲求はあったが、前の宿の濡れタオルで拭くだけに比べれば、天国のような環境だった。 お風呂は七階以降の上級階とのことで金貨二十枚となると聞くと、移動しようか迷ったが、それなら家でも買った方がいいかな?と思い直す。


 まあその内。 お金はあるのだ。まずはこの世界で少しずつ贅沢に染まって行こう。 そんなことを考えながらお姉さんが出ていくのを見送った。


 では早速、と脱衣所で服を脱ぎ、それなりに広いスペースのシャワー室に愛犬(レイ)と一緒に入ると、備え付けの泡立ちの悪い石鹸で体を洗い、髪を整える。


 愛犬(レイ)には当然のように愛用していた「濃厚ふわふわペットシャンプー」を購入して取り出すと、久しぶりということもあり何度も洗い流してあげる。 ようやくふんわりな毛並みが戻ってきたことで、愛犬(レイ)の表情も、どことなく得意気に見えた。


 湯で濡らしたタオルで拭くだけだった昨日までの日々を思い返す。 襲われて恐怖を感じたけど、宿を移る丁度良い機会だったのかもしれない。


 脱衣所に出るとタオルで体を拭きながら、愛犬(レイ)のドライヤーで乾かしてゆく。


「我慢させてごめんねレイ……」


 そう言いながら入念にブラッシング。 思いのままにもふる。


「わぉん(気にしなくていいのよ)」


 さっぱりした後は、部屋の中央に自前のクッションマットを敷いた。 備え付けのベッドも確認すると、それなりに柔らかかったが、マットレスを重ねることで万全の寝床が完成した。


 クッションマットの上で愛犬(レイ)と一緒にゴロゴロしながら、ふわふわになった毛並みを思う存分に堪能する。 フルーツの香りがして心地よかった。


 その日の疲れが溶け出していくのを感じながら、私はいつの間にか深い眠りに落ちていた。 愛犬(レイ)に跨りながら空を飛び回る夢を見ながら、私はふへへと笑っていた。



――― 本日の収支


 鈍器(メイス) -95,000ダル

 皮の胸あて -49,000

 魔物の素材買い取り +25,300ダル

 夕食代 -160,000ダル

 宿代(10日分) -500,000ダル

 国産スリッカーブラシ -1,850ダル

 濃厚ふわふわペットシャンプー(1L) -5,500ダル

 露店で買い物 -32,000ダル


 残高 152,277,234ダル


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