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223話 帰還 ~そして宴の夜へ


 俺たちは世界樹の光に包まれている。


 周りは真っ白な光しか見えない。皆で輪になって手をつなぎお互いの存在を確かめる。


 光の中で急速に元の世界に戻って行くのを感じる。


 ――そして


 徐々に視界が戻って行き……最初に見えたのは太陽の光だった。


「トール! トールが帰ってきたよ!」


 ミレアが、俺の胸に飛び込んできたのを感じた。


「トール、よく帰って来たね。本当に、お疲れさま……」


 ラビィの声も聞こえる。


「勇者殿が……目を覚まされましたぞ!」

「「おおお!!」」


 王宮の人たちの声も聞こえる。


 俺はゆっくりと立ち上がり、周りを見つめる。


 ミレアとラビィ、そして多くの騎士団や王宮の高官たちが、俺の周りを取り囲むように見守ってくれていた。

 その中に国王や王女、ブランダさんの姿も見える。彼らは皆、優しく俺を見つめている。


 やがて、俺の手元に眩しい光が現れる。俺はまだ神剣ミーアを握りしめていたことに気づく。


 そのミーアの魂の剣が、光輝き、徐々に、人の形に変化してくる。ミーアだ!


「にゃ~……ん? ここはどこかにゃ? にゃー! ミーアは生き返ったにゃー!」


 剣は霧のように消え、元のミーアに戻った。


「「「おおお!!」」」

「猫のお嬢ちゃんが戻ってきたぞ!」


 皆の歓声が上がる。


 更に俺の身に着けている鎧――神鎧アリシアが光り始める。


 その鎧は人の形に変化して、元のアリシアさんに変わる。


「ぬおっ! あ、アリシア……さん!?」


 復活したアリシアさんは、そのまま俺の体に抱き着いた状態だった。


「ん? なっ! な、トール殿! す、すまん……だ、抱きついたりして……!」


 アリシアさんの顔が赤くなり、恥ずかしそうに俺から離れる。


 そんな俺たちの姿を、周りの人たちは、泣き笑いしながら、優しく見つめている。


 近くに、倒れたオリハルコンゴーレムの姿が目に入る。

 そのゴーレムの絡まっていた虹色の綺麗な糸が、光輝き、シャンテの姿に変化する。シャンテが戻ってきたのだ。


「シャンテ……よく戻ってきた……本当に良かった……」


 シャンテを優しく抱きしめるブランダさん。その目には涙の光があった。


「お父様……私は大丈夫なのですよぅ~。元気ですよぅ~」


 明るく応えるシャンテ。皆も、そんなやり取りを微笑ましく見つめている。


 ゴーレムの近くに、残された小さな狐火が見える。その狐火も、イナリの姿に変わる。イナリも戻って来た。


「ふぅ~。なかなかおもしろい体験だったのじゃ~。エルフの秘儀(ユグドラシル)を体験できて楽しかったのじゃ~」


 そう笑いながら言うイナリに、周りの皆から笑いの渦が起こる。……うん、さすがイナリだ。


 そして――ミレアの周りに張られた世界樹の枝葉の結界がほどけ、リンの姿に変わる。リンも戻ってきた。


「えへへ。お兄ちゃん。みんなで一緒に帰ってきちゃったね」


 いつものように笑うリン。まるでちょっとそこまで遊びにいってきたと言わんばかりの余裕である。さすが我が妹だ。肝がすわってる。


 そして――ルーナさんが生み出した鏡花水月の光は、やがてルーナさん自身に変わる。ルーナさんも戻って来た。


「ラビィ! 聞いて! わたくし、ミルレリア様にお会い出来ましたわ!」


 興奮してラビィに話しかけるルーナさん。なんとなくルーナさんらしいな……。


「ルーナ……それは良かったね。そして……よく戻ってきたね……」


 ラビィは、そんな月の巫女ルーナさんを優しく見つめる。


 そして――皆の輪の中心に、モフがふわっと光の中から現れる。


「にゃ~ん♪」


「モフも生き返ったにゃ~!」

「モフ! 良かったね!」


「「おお! 聖獣モフミーラ様のお戻りだ!」」

「「聖獣様だ!!」」


 王宮の皆が、なぜかモフを神聖視している。


 まあ、モフは聖獣になったしな……。

 しかし、あのモフが聖獣かー。俺はなんだか少しおかしさを感じる。モフは聖獣になっても見た目は変わらず、いつものモフのままだ。聖獣モフミーラは、やはりいつもの愛すべきモフなのだ。


 女神の加護を持つ者たちは、全員生き返った。


 周囲は温かい笑顔と笑いに包まれる。


 ああ……本当に良かった。


 そんな俺たちに、すがすがしい陽の光が差し込んできた。





 その後、国王や宰相から聞いた話によると、魔神の呪いの赤い光は、やはり大陸中にとどき、多くの人々が呪いにかかったそうだ。

 しかし、魔神を倒したときに放出された光の霧が、大陸中に広がり、まるで光の雪が降るように、すべての地域に降りそそいだ。この光の霧により、大陸中のすべての人々の呪いは解かれ、誰一人死ぬことがなく無事だったとのことだった。


 王宮では、すでにスマーフォによる大陸全土による情報網がしかれている。すぐに各地域との連絡が取れ、情報を共有できている。

 俺の故郷の領都フォレスタでも、一時は呪いにかかった人が多数出たとのことだったが、皆無事だった。俺は、故郷の皆の無事に心から安心する。


 ラビィの話によると、魔神は、その体内に囚われていたラビたちの魂がすべて解放されたことで、完全に消滅したとのことだった。


 すべてが奇跡のようにうまく収まった。


 これで俺たちの使命は、すべて果たされたのだった。


 皆の顔は晴れ晴れとしていた。




 ――そして

 その日の晩は、王宮で宴が開かれた。

 魔神が完全に消滅し、世界が救われたことを祝っての宴だ。


 王宮での宴は、これで3度目だ。

 最初は国王に初めて謁見した日。2度目は魔王戦後。


 いつものように、王宮の宴は素晴らしかった。

 豪華なご馳走。美しい楽器の演奏と踊りの披露。豪華であるがどこか安らぎを覚える不思議な宴の部屋――。

 

 俺たちは、宴の席の全員から、たくさんの感謝の言葉をもらった。

 

 宴の時間は、終始賑やかに、楽しく進んだ。 

 俺たちは宴を思う存分に楽しんだ。


 国王は、長年の心配事から一気に解放されたためか、お酒を浴びるように飲んで、終始笑顔で酔っ払っている。

 王宮の騎士たちや高官たちも似たようなものだ。

 


 そして――宴の場にいる皆が、だいぶ出来上がったころ。

 俺たちは、ほろ酔い気分で、宴の広間に通じるバルコニーに出て王都の風景を眺める。


 王都中の人々が、王宮の周りに集まっているのが見える。


「「勇者さま、ありがとうございました!!」」

「「勇者とお仲間の方々、本当にありがとうございました!!」」

「「「ありがとうございました!!」」」


 大勢の人たちから、バルコニーにいる俺たちに向かって、盛大な声が上がる。皆笑顔だ。


 俺たちは手を振って応える。


「にゃ~、なんか照れくさいにゃ~」

「そ、そうね……なんだか恥ずかしいわね……」

「そ、そうだなっ! な、なんだか隠れたくなるなっ!」


 皆も照れくさくなったのか、再度手を振り、室内に戻る。


 ふと、俺は、なんだか無性に領都にいる皆の顔が見たくなってきた。

   

 領都の冒険者ギルドの皆の顔が自然に頭に浮かんでくる。みんな、どうしてるかな……。

 そう言えば、魔王戦の後、ガイたちも領都に帰って行ったんだったな……。


 そして、なぜかエメルダさんの顔が脳裏に浮かんでくる……。ああ……会いたいな……。ふと、そう思った。


「にゃ~、トール。領都に戻ってみたいにゃ~」

「そうね……私もなんだか、領都に行きたい気分だわ」

「そ、そうだな。私も領都が恋しいぞっ!」

「わらわもじゃ~。領都が懐かしいのじゃ~」

「ミレアも!」

「「私も!」」


 皆もなぜか俺と同じことを考えていたようだ。


 モフがそんな皆の心を読み取ったのか、宴の広間の隅にひっそりと転移門を出してくれる。


 俺たちは、宰相とブランダさん、ラビィに、宴の場を後にすることを、そっと断ってから、転移門をくぐっていく。


 転移門をくぐると、そこは懐かしい領都の冒険者ギルドの前だった。


 皆で、ギルドの扉をくぐる。


 カラ~ン


 ギルドの中はパーリィー(冒険者の宴)の真っ最中だった。

 

 なにか異様な盛り上がりを見せている。酒を手に皆笑顔だ。すでにかなり酒が入っているようだ。


 冒険者の誰かが俺たちに気づく。


「おおお!! トールじゃねえか!! それにトールの仲間たちも!!」


 そして皆が俺たちに気づき一斉に群がってくる。


「「「おおっ! トール!!」」」

「「やったな、トール!!」」

「「お嬢ちゃんたちも凄かったぞ!!」」

「「スマーフォの映像で全部見てたぞ!!」」


 もみくちゃにされる俺たち。


「「「きゃー! モフちゃんだぁー!!」」」


 モフも女性冒険者たちに囲まれ、もみくちゃにされモフモフされ出している。


「にゃにゃにゃ~ん♪」


 異様なパーリーの盛り上がりの中で、皆の笑顔がはじけ飛ぶ。


 酒をどんどん押し付けられる。料理もどんどん運ばれてくる。


 そして、全員の冒険者たちの手で、俺たちパーティーメンバー全員が胴上げされる。


「「「がはははは!!」」」

「「「そーれ! そーれ!」」」

「「「わっしょい わっしょい!」」」

「「「わっははっは!!」」」


 さらにもみくちゃにされる俺たち。

 ギルドの酒場に、ミラーボールのようなカラフルな魔法が広がる。


 さすがにこのノリにはついていけないな……。俺たちは苦笑いする。


 胴上げから逃げると、エメルダさんが受付の方に立っていた。


 エメルダさんと目が合う。


 エメルダさんの目から涙がぽろぽろと流れてくる。


「トールさーん!!」


 エメルダさんは駆け出し、俺に抱きついてきた。

 エメルダさんの持つレアスキル "天使の抱擁"で抱きついてきた!


「「「ひゅーひゅー!!」」」

「「お熱いぞ! お二人さん!」」

「「きゃー! きゃー!」」


 周りの冒険者たちがひやかしてくる。


 エメルダさんの胸元には、俺が以前彼女にプレゼントした首飾り――ユーベルド・エメルダが光っている。


 ミレアがにやにやしながら、そんなエメルダさんに話しかけようとしている。


「エメルダさん、その首飾りの古代文字の意味を教えてあげよっか!」


「えっ! ……教えて! ミレアちゃん!」


 エメルダさんは、その首飾りを手に取り、ミレアをきらきらした目で見る。


 ……あっ! ミレア! それは……言っちゃだめだ!


 その首飾りの裏には贈り物のメッセージが、古代文字で刻まれている。ちょっと恥ずかしかったので、意味が分からないように、ミレアに教えてもらった古代文字で彫っておいたのだ。


「えっとね。――親愛なる天使のようなあなたに永遠の祝福あれ――だよ。そしてね、その首飾りの名前の『ユーベルド』って言葉の意味はね、古代エルフ語で『愛しい』っていう意味なんだよ。つまり……その首飾りの名前の意味は、『愛しいエメルダ』って意味なんだよ」


 ……あちゃ~! ミレアが全部バラしてしまった!


「まあっ!」


 エメルダさんが口元を手で覆い目を見開いている。そして、みるみるうちにその顔が赤く染まっていく。


「トール! お前も隅に置けないやつだな!」

「トールのすけこまし!」

「おい! みんな! トールをやっちまえ!!」

「「「おおおっ!!」」」

「「「ガハハハハハ!!」」」


 冒険者たちが俺に迫ってくる! や、ヤバい!


「ミレア! リン! みんな! 逃げるぞ! ――転移!」


「あっ! トール! 転移で逃げるなんて卑怯だぞ!」

「「「そうだ! そうだ!」」」

「「「がはははははは!!」」」



 こうして、俺は、もみくちゃにされる前に、パーティーメンバーを引き連れ、転移で逃げるのだった。


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