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222話 世界樹の光のなかで


 王都の景色が消え、俺の周りはただ白い光につつまれている。


 自分の体が、まるで霊体のように透けて見える。


 ふわふわと宙を漂っている感覚がする。


 周囲を見回すと、まるでこの世とは思えない不思議な空間が、白い光の中で広がっている。


 そして、多くのラビたちの霊体が、ふわりふわりと漂いながら、笑い合っている。


 ラビたちの他にも、多くの人々の透き通った姿が見える。


 ああ……そうか。俺たちは今、世界樹に向かっているんだな。


 やがて……遠くに、ひと際輝いて見える、数人のかたまりが見える。


 近づいて行くと、なんと、あのとき消えて行った俺たちの仲間が全員いた。


 ミーア、アリシアさん、エミリー、シャンテ、イナリ、リン、ルーナさん。


 皆、俺と同じように、体が透明になっている。


(にゃ!? トールにゃ! トールが来たにゃ~!)

(トールなのじゃ~!)

(((おおお!!)))


 皆の視線が俺に集まる。


(お、お兄ちゃん! ミレアは無事! お、お兄ちゃん……死んじゃったの!?)


 リンの霊体が心配そうに話しかけてくる。


 俺はにっこり笑って答える。


(おう! ミレアは無事だぞ~。そして、魔神はちゃんと倒したぞ! もう心配ないぞ! これもみんなのおかげだな!)


(((おおお!!)))

(トール! やったわね!)

(さすがトールさんなのですぅ~)

(トールさん……やりましたわね!)


(あ、そうそう。詳しいことは帰ってから話すけど、魔神の赤い光の呪いは、すべて取り除かれるぞ! 今ごろは、大陸中の人々にかかった魔神の呪いは解かれてるはずだぞ~)


((おおお!!))

((すごい!!))

(トール! それは、本当に良かったわ!!)

(トールが全世界救ったのじゃ~)

((やったー!!))


(それから、エミリー。王都も無事だぞ~。エミリーの結界がすべて防いでくれたぞー。ほんと、助かったぞ、エミリー)


(や、やったわ! それを聞いて安心したわ。トール!)

(エミリー、やったのじゃ~)

(エミリー凄いにゃ!)

((やったー!))


(それにしても、魔神を倒すなんて、さすがは、トール殿! 私の鎧は役に立ったか?)

(ミーアの剣もどうだったかにゃ?)


(おう! 神剣ミーアと神鎧アリシアは凄かったぞー。おかげで魔神に勝てたぞー)


(そ、そうか! 役に立って良かったぞっ!)

(にゃ~、ミーアの剣は最高なのにゃ~)


(それから、ルーナさんのおかげで魔神の弱点を狙えましたよ~。ほんと、助かりました)


(ああ……良かったですわ……トールさん、お疲れさまでした)


(シャンテとイナリもよく頑張ってくれたぞー。二人が魔神を足止めしてくれたおかげで、無事倒せたんだぞ~)


(それは良かったのですぅー!)

(やったのじゃ~。わらわの力も役にたったのじゃ~)


(それはそうと……お兄ちゃん。なんで、魔神を倒したのに死んじゃってるの?)


 リンが突っ込んでくる。


(いや……まあ、ちょっとな……相打ち? みたいな?)


(んん~っ、怪しいなぁ~。もしかして、お兄ちゃん……なんか無理したんじゃないの?)


(トールは、時々無謀なことをするわね)

(確かにそうなのですぅ~。アルタインの口の中に飛び込んだり……あのときは見ていてハラハラしたのですよぉ~)

(お兄ちゃん、レベルが3のときに、よわよわ装備でホーンラビットに挑んだんだしね。全くこれだから……お兄ちゃんは……)


(お、おう……)



 こんな状態になっていても、なぜだか俺たちは普通に話し、普通に笑い合っている。


 皆、ミレアが俺たちを生き返らせてくれると信じているからだ。


 そんな中、モフの霊体が俺たちのもとにふわふわと浮かびやって来た。


(にゃ~ん♪)


(あっ……モフがきたよ! ……えっ!? な、なんで? モフがここに……!)

(えっ! た、確かに……。モフは魔物……。世界樹の循環には入らないはず……ん? んん?)

(にゃ?)


 皆が混乱している。


 俺は、皆に事情を説明する。

 モフが女神の加護を与えられて、聖獣になったこと。聖獣になったことで、魔物の循環――深遠の迷宮から外れ、こっちの世界樹の命の循環に入ったこと。そして、モフは俺の女神のレベルスキルを解放するために俺に命を差し出したこと。など、簡単に話す。


(モフちゃんが……聖獣に! すごいですわ!)

(モフが世界を救ったのにゃ~!)

((モフえらい!))


 ――そして、やがて世界樹が見えてくる。


(あっ! みんな! 世界樹が見えてきたよ!)

(ほ、ほんとだ! 大きいぞっ!)

(奇麗なのですぅ~)

(ほ、ほんとですわ! 緑色に輝いてますわ!)


(世界樹の幹に大きな空間みたいな穴が見えるわ! あれが、もしかして……世界樹の泉に通じる穴なのかしら?)


 その大きな空間の穴は緑色に輝いている。そして、よく見ると、人を始め様々な生物が、ゆっくりと霊体のまま中に入って行くのが見える。


(にゃ~。みんな入って行ってるにゃ~。きっと世界樹の泉にいくのにゃ~)

(どうやらそうみたいね……それにしても、すごい光景だわ……)


(あっ! 世界樹の枝葉から緑色の珠がたくさん飛び出していってるよ!)

(そうね……あれは、世界樹の泉からやってきた魂だわ……。きっと、これからこの世界のどこかに転生していく魂じゃないかしら。みんなも世界樹の泉で見たわよね。霊体が泉に触れて緑色の珠となって旅立っていくのを……)

(はい……忘れられない光景だったのですぅ~)


 俺たちは以前、皆で世界樹の泉に行った。そのときの光景が、今の光景と重なって、思い出される。


(な、なんだか、少しずつ……世界樹の幹の方に吸い寄せられてるような気がするぞっ!)

(あの幹の穴の中に吸い込まれたら、世界樹の泉へ通じる洞窟に入り、やがて転生するのですね……)


 俺たちはゆっくりとその世界樹の幹に輝く転生の穴に近づいていってる。

 このまま、吸い込まれて行ったら、事実上の死となり、記憶もなくなり、いつかまたどこかで新たな生を受けることになる。皆とは今ここで、別れることになるのだ。


(ま、まだ転生したくないにゃ……王都に戻りたいにゃ~!)

(わらわも、このまま生き返りたいのじゃ~。まだ転生したくないのじゃ~!)

(わ、私もだぞっ! み、皆と別れたくないぞっ!)

(わ、私もですぅ~)


(そ、そうね……。ミレア……まだなのかしら……いったい何をしてるのかしら……)


 その時だった――。


 ――ミレアの声が、どこか遠くから聴こえて来る。


 ル・アラス・ミルレリア・ヴィ・ユグドラ

 ――私は 女神と世界樹に 願う



(((来たあああーー!!)))

(みんな! やったわ! ミレアの詠唱が始まったわ!)

(にゃー! 間に合ったにゃー!)

(よし! いいぞ! いいぞ! 皆で帰還するぞ!)

(((やったー!)))



 エ・エルラ・ドゥル・ユグドラ

 ――かつて命は 世界樹と共にあり 


 ユグドラ・ドゥル・ミルレリア

 ――世界樹は 女神と共にあり 


 トルリヴィ・シ・エルラ 

 ――その命を 司った


 シ・アクエルラ・ルヴ・ユグドラ

 ――その命の泉は 世界樹より生じ


 ソーマ・アリア ムヴィ・アークア

 ――天を駆け 大海を潜り


 レル・ユグドラ

 ――世界樹へと戻る



 ミレアの声が、ここまで聞こえてくる。

 

(にゃ~。ミレアの声がすみきってるにゃ~)

(力強い声なのじゃ~)

(優しい声なのですぅ~)

(なんだか……命に響いてくるようだなっ……)


 澄んだ声。力強い声。

 優しい声。命に響く声。



 ユグドラ・イ・アクエ

 ――世界樹は水 


 ユグドラ・イ・ウィリ

 ――世界樹は風 


 ユグドラ・イ・ガイリア

 ――世界樹は大地 


 ユグドラ・イ・フリア

 ――世界樹は炎


 ユグドラ・イ・エルラ・ユクト

 ――世界樹は 命の揺籃(ようらん)



(にゃ~! 精霊がたくさん現れたにゃ~!)

(ほ、ほんとうね! あれは……風の精霊かしら)

(水の精霊もいるよ! それに土の精霊も!)

(火の精霊もいるのじゃ~!)


 大きく広がる世界樹の周りに

 水の精霊。風の精霊。

 土の精霊。火の精霊。

 が、大勢現れる



 ミレアは更に詠唱を続けている。

 

 

 ウィリ・ソルド アクエ・リリム

 ――風はそよぎ 水はせせらぎ 


 ガイリア・ユグ フリア・ヴォルク

 ――大地は揺れ 炎は燃え上がる


 ウィリ・エリラ アクエ・ミース

 ――風は笑い 水は歌い 


 ガイリア・ゾレ フリア・ナーラサ

 ――大地は喜び 炎は舞い踊り


 ユグドラ・ソーマ・アリアス

 ――世界樹は 天空を駆ける



 詠唱が重なるたびに

 世界樹と周りのすべてが

 命に満ち溢れてくる



(風の精霊の笑い声が聞こえるわ!)

(土の精霊が喜んでるよ!)

(火の精霊が踊ってるのじゃ~)

(水の精霊が歌っているのですぅ~)


 風が、世界樹を優しく揺らしている

 風の精霊の笑い声が、聞こえてくる


 世界樹の根本の 大地から

 土の精霊の喜びが、湧いてくる


 世界樹を取り囲む 火の精霊が 

 燃え上がり、舞い踊っている


 世界樹の雫が、水の精霊が

 ざわざわと波立ち、歌っている


 不思議な空間のなかで

 まるで世界樹が 

 天空を駆けるように

 浮かんでいる



 ミレアの詠唱は更に続く。



 シ・ウィリ・イル・フサ ナラサ・エルラ

 ――その風は 息吹となり 命を躍らせる


 シ・アクエ・イル・ジルム ユク・エルラ

 ――その水は 慈しみとなり 命を包む


 シ・ガイリア・イル・キリ ユス・エルラ

 ――その大地は 支えとなり 命を繋ぐ


 シ・フリア・イル・フルラ リル・エルラ

 ――その炎は 灯火となり 命を導く



(にゃ~ ここちよいにゃ~)

(心が洗われるようですわ……)

 

 皆ミレアの声に 静かに耳を傾けている

 ここちよいその声に 自然と笑顔になる



 エルド・ドゥル・カイアリ

 ――勇気あるものよ 


 サーリス・リアド

 ――扉を開け 


 フサール・トゥーマムベ 

 ――心の闇を払い 


 エルドリア・ド・ナリイ

 ――汝自身の内より 


 ルーヴ・ルーシル

 ――光を生み出せ



 俺たちは世界樹の前で止まる。

 転生の穴から徐々に遠ざかっていく

 世界樹は大きく揺れている



 エルダ・リオ・アラス・ティ

 ユーベルド・エルラ

 ――汝 再び 愛しき者の生を願うなら


 ドゥル・ユグドラ・ヴィ・ミーラ

 ミルレリア

 ――世界樹と女神の加護のもと 


 リシトゥーラ・シ・アンテーリ

 リィーアリア 

 ――その(いにしえ)言葉(じゅもん)を唱えよ



 レルアータ・エルラ! 

 ――命よ、循環(じゅんかん)せよ!


 ドゥル・ミルレリア・ヴィ

 ユグドラシル! 

 ――女神と世界樹の光と共に!



 ミレアの詠唱が成就した。


 世界樹が眩くばかりの新緑の光に満ち溢れ

 世界樹の光に包まれる俺たち。


 命の循環が巻き戻り

 俺たちは徐々に世界樹から遠ざかる感覚を覚える。


 ――その瞬間だった


 眩しく光る世界樹の上に 


 世界樹の光とともに


 一人の美しい女性が立っていた。


 その女性は俺たちに向かって


 優しく微笑んでいた。



 ――女神ミルレリアだ!!



(((ミルレリア様!!)))


 皆は、驚きと喜びに打ち震える。


 記憶が俺の脳裏に弾け飛んだ。


 ああ……そうだったのか……


 俺は以前、この人に会ったことがある!


 それは、俺がこの世界に転生するときに


 不思議な空間で会った、あの女神様だ!


 そして、俺に女神の加護を与えてくれた、あの女神様だ!


 自然と涙が溢れて来た。


 女神ミルレリアが、微笑みながら俺に手を振っている。


 俺も女神様に手を振り返す。


(女神様……ありがとうございました……)


 そして、俺たちは女神と世界樹の光に包まれて


 元の世界に帰って行くのだった。


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