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219話 勇気と絶望のはざまで


 魔神のアポカリプスと、エミリーの女神の結界――ミルレリアヴェールが、激しく衝突し、せめぎ合う。


 王都は激しく揺れ、凄まじい轟音が響き渡っている。


 ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――

 ゴゴゴゴゴゴゴォオオオオオオオオオ――

 ゴゴゴゴゴゴ――

 ゴゴゴ――

 ゴ――


 そして――徐々に揺れと轟音は収まっていった。


 アポカリプスの炎は消え――


 やがて――エミリーの結界も光を失っていく。


 パリィン――


 エミリーの魂の結界が……最後に小さな音を立てて消えていった。


 エミリーの命をかけた結界が、魔神のアポカリプスを防いだのだ!



「「「おおお!!」」」

「やったぞー! 王都は救われたのだー!!」

「「やったー!!」」


 王都の方から人々の歓声が聞こえてくる。


「エミリー……。お前は立派に王都を守ってくれたぞ……ありがとう……エミリー……」


 俺はつぶやく。

 しかし……俺の声はもうエミリーには届かない。彼女の姿はもう見えない……。


 魔神の方を見る。


 魔神は大技を使った後の為か、やや動きが鈍くなっているようだ。


 しかし、徐々に力を取り戻し、オリハルコンゴーレムに体当たりしている。


 ドガッ! ガキィイイイ―ン! ドガッ! ガンッ! 


 オリハルコンゴーレムは、魔神に組み付き、その動きを止めている。


 その巨大なゴーレムの手足や体に、眩くまでに輝く糸が空中から伸びている。


 シャンテの魂の糸だ。


 その女神の力を持つ糸は、オリハルコンゴーレムの巨体を見事に操り、力強く巧妙に動かしている。


 シャンテはもういない。しかし残されたその糸は、まるでシャンテ自身が操っているかのように軽快に踊る。


「……シャンテ……頑張れ……」



 魔神の全身にまとわりついている、巨大な炎があった。


 その炎は大きな狐の姿をしている。まるでイナリそのものが大きな炎に変化したかのように。


 俺は感じる。その巨大な狐の炎は、太陽のように輝き、燃え盛り、魔神の魔力を抑え込んでいる。


 魔神の魔力の流れを阻止し、回復を阻害し、魔神の魔力による攻撃や防御を減衰させている。


 イナリはもういない。しかし、残されたその狐の炎は、まるでイナリ自身の魂が戦っているようだ。


「……イナリ……頑張れ……」


 

 魔神の角から赤紫色の玉が勢いよく飛び出して来る。凄まじい威力を感じる。


 その魔神の放った赤紫の玉は、ミレアに向かう。


 まずい! 


「――深海水壁!」


 高レベルの水魔法の防御壁をミレアの前に展開させる。


 ドゥウウウウ――ン!


 しかし――その玉は、水の防御を突き抜け、そのままミレアに向かう。


 パアアアアアアアアアアア――ン


 ミレアの目の前でその玉は弾け飛ぶ。


 リンだ! リンの女神の加護――聖女の誓いが、その魔神の玉を弾いたのだ!


 ミレアの周りには、リンの残した輝く緑色の枝葉がきらめいている。


 その枝葉は、まるでリンが育てた世界樹の枝葉のように瑞々しく新緑に輝き、ミレアを強く優しく包み込む結界となっている。


 リンはもういない。しかし、残されたその聖女の結界は、まるで世界樹を守るかのように、強くミレアを守ってる。


「リン!……ありがとう! リンも、みんなも、必ずミレアが生き返らせるからね!」


「……リン……頑張れ……ミレアを頼むぞ」


 

 またミレアに向かって赤紫の玉が襲ってきた。


 俺はミレアの前に立ちはだかる。


「勇者剣術――フェイズパリィ!」


 パアアアアアアアアアアア――ン


 神剣ミーアで、魔神の放った赤紫玉を弾く。


 右手に神剣ミーア、左手に勇者剣アルネガの星。そして、体は神鎧アリシアに守られている。


 力が漲っている。


 ミレアを背に、魔神と対峙する。


 

 今も俺の目の前で、シャンテのオリハルコンゴーレムと、イナリのフレアフォックスが魔神と戦っている。


 魔神の巨大な角がオリハルコンゴーレムを襲う。


 パキィーン! 


 ゴーレムが左手に持っているオリハルコンの盾に、ひびが入る音がした。


 ブゥワアアアアアアアア――


 炎の大狐、フレアフォックスの炎が弾かれ、わずかに揺らぎが生じた。


 必死に戦う仲間の魂。その戦いを目にし、俺の体の底から力が湧いてくる。


「シャンテ……イナリ……加勢するぞ! ――行くぞ! 魔神ラビゾルマ! うぉおおおおおおおおおおお!!」


 彼女たちを守るため、たぎる力を魔神にぶつける。


 魔神の心臓がルーナさんの命の月光により、くっきりと浮かびあがっている。


 心臓を目がけて剣を振るう。


 GUAAAAAAAAAAAA!!


 魔神は叫ぶ。


 魔神の体はまるで鋼鉄のように硬い。手ごたえはいまいちだ。


 しかし、確実に俺の攻撃は通っている。


「勇者剣術――百花繚乱! うぉおおおおおおおおおおお!!」


 神剣ミーアと勇者剣アルネガの星の残像が、魔神の心臓部分に乱れ咲く。


 GUAAAAAAAAAAAAAAA!!


 更に手ごたえはあった。しかしまだまだだ。


 その瞬間――


 魔神の巨大な角から血のような真っ赤な波動が放出される。


「――ぐはっ!」  


 俺は吹き飛ぶ。


 全身に激しい痛みを感じる。凄まじい攻撃だ!


 オリハルコンゴーレムも飛ばされ、やや後ろに後退している。

 フレアフォックスの炎も大きく歪み、魔神の体からやや距離が生じている。


 強い!


 俺はしっかりと地面を踏みしめ、再び魔神と対峙する。


 再度魔神に組み付く、シャンテの魂――オリハルコンゴーレム。


 再度魔神の取りつく、イナリの魂――フレアフォックス。


 消えて行った仲間たち。


 命をあずけてくれた俺の大切な仲間たち。


 彼女たちの想いが、願いが、ひしひしと伝わってくる。


 次第に俺の体の底から、不思議な鼓動が聴こえてくる。


 俺の持つもう一つの女神の加護――ユニークスキル『女神の勇気』


 その加護は、俺の父親――いにしえの勇者から継いだ加護。


 その加護は、ここぞというときに不思議な力を発揮し、その力の現れ方は千変万化に及ぶという――。


 命を預けてくれた大切な仲間たちの想いが、俺の女神の加護『女神の勇気』の力を引き出してくれているような気がした。


 俺の命が熱い。俺の中に不思議な熱い鼓動が聴こえて来る。


 ――女神の勇気


 まるで世界樹の泉から湧き出て来るような命の輝きが、命の力が、勇気が、俺の中でぐんぐんと膨らんでいく。



 ――天から声が聴こえて来た。


≪ユニークスキル『女神の勇気』レベル20が解放されました≫


≪スキル『女神の勇気』のレベルが上限に達しました≫


≪最終奥義――『不惜身命』を獲得しました≫


 女神の勇気レベル20!


 俺が古の勇者から引き継いだその女神の加護のレベルが、今上限マックスのレベル20に到達したのだ!


 ラビィは言っていた。


 古の勇者はこの世界に人類が生まれた遥か神話の時代から、何度も転生を繰り返してきた。


 そして、悠久ともいえる時間をかけて、この加護を育ててきたのだろう。


 その加護が今、悠久のときを得て、今まさに……満ちたのだ!


 俺の中に命を燃やすほどの力が、滾々と泉のように湧いてくる。


 魔神を倒す勇気と自信が溢れかえってくる。


 最終奥義――不惜身命!



―――スキル鑑定―――

不惜身命

・ユニークスキル「女神の勇気」の最終奥義

・スキルレベル20(MAX)で習得可能。

・自らの命と引き換えに一撃必殺の技を放つ

・神話級の力を持つ

――――――――――― 


 このスキルを使うことに、一切の迷いはなかった。


 俺の大切な仲間たちが、そう選んだように――。


「俺が魔神を倒す!! みんな……待ってろよ……これからすべてを終わらせて……俺も皆の所に行くからな…………」


 ……だが、俺は、神託の言葉が、どうしても頭から離れない……。


 勇ましき者よ―― 

 十番目の御業(みわざ)の力を手に 

 試練を乗り越えたとき

 多くの呪われた命と 

 囚われた古のラビたちのもとに

 祝福の光が 降りそそぐだろう――』


 今では俺は、魔神を倒す自信に満ち溢れている。


 しかし……神託は示す。


 ――十番目の御業(みわざ)の力を手に と。


 これは、俺のもつユニークスキル「女神のドロップ」のレベルを10にすることで間違いない。


 そして、この神託は、正真正銘の神託――創造神ミルレリアの神託なのだ。


 俺の持つユニークスキル「女神のドロップ」のレベルを10にしないまま、魔神を倒したとしても、それでは無意味なのだ。多くの命が救われないのだ。


 すでに大陸中に魔神の赤い呪いが降り注いだ。多くの命が呪われたのだ。


 領都の仲間たちの顔が脳裏に浮かぶ。彼らの多くがきっと呪いの赤い光を浴びたことだろう。

 彼らの苦しんでいる姿が、頭から離れない。

 その呪いは一日と持たずに命を蝕み死に至る、とラビィは言った。


 神託の言葉が示すように、多くの呪われた命に、祝福の光を届ける為にはなんとしても、スキルレベルを10にしなければいけない。


 今、俺にはそれがはっきりと分かった。


 女神のドロップスキルを10にするためには、レベルをあと2つ上げなければならない。


 たった2つなのだ。


 しかし、俺は強くなり過ぎた。レベルを上げる為には高レベルの魔物を倒さないと1つもレベルが上がらないのだ。


 先日まで隠しダンジョンでレベル上げをしたときも、数日かかってやっと1つ上げることが出来たくらいだ。


 もう、今からレベルを上げる時間も余裕もない。


 俺は絶望感に襲われる。


 魔神を見る。


 今やオリハルコンゴーレムの片腕が砕け散っていた。それでも必死に魔神の動きを抑えようとするシャンテの魂のゴーレム。


 フレアフォックスも、今では、大きく形がくずれ、その炎も尽きかかっている。それでも、必死に魔神に取りつき魔力を抑えようとしているイナリの魂の炎。


 どうすれば……いったいどうすればいいのか…… 


 心が張り裂けそうな絶望感が、再び俺を襲って来た。


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