第3話 「いいよ?」
美咲が第一案でもいいと言ってから、直哉はその話をしなかった。
正確には、できなかった。
翌日は日曜だった。
二人で買い物に行き、帰ってから冷蔵庫の中身を整理した。美咲が昼食を作り、直哉が洗い物をした。午後は美咲がリビングで仕事関係の資料を読み、直哉は隣で動画を流しながら端末を触っていた。
いつもの休日だった。
美咲も、昨日のことなどなかったようにしている。
そのことが、直哉には少し腹立たしかった。
とはいえ、美咲が悪いわけでもない。
持ち帰って考えようと言ったのは美咲だ。
実際に資料を読んで、三つの選択肢を比較している。
自分の方が、最初から答えを決めていただけだ。
分かっている。
それでも、納得できることと気分がいいことは別だった。
「コーヒーいる?」
キッチンから美咲が聞いた。
「いる」
「砂糖なし?」
「うん」
しばらくして、テーブルにマグカップが置かれる。
「ありがと」
「ん」
それだけ。
六年も付き合っていれば、会話などこんなものだ。
いつもなら落ち着く沈黙が、今日は妙に気になった。
直哉は端末を閉じた。
「美咲」
「なに?」
「昨日のやつ」
美咲はコーヒーを飲みながら直哉を見る。
「うん」
「本当に一案目でもいいと思ってる?」
「今それ話す?」
「嫌ならいいけど」
「嫌じゃないよ」
美咲はカップを置いた。
「ただ、まだ全部決めたわけじゃないから」
「それは分かってる」
「うん」
「でも、候補には入ってるんだろ」
「入ってるよ」
やはりそうだった。
昨日と答えは変わっていない。
「……そっか」
「直哉は入ってないんだよね」
「俺はないかな」
「二案目も?」
「ない」
「三案目も?」
「今は考えてない」
「そっか」
美咲はそれ以上追及しなかった。
その反応にも、直哉は引っかかった。
「何か言わないの?」
「何を?」
「いや、俺が全部嫌だって言ってることについて」
「直哉はそうなんでしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ、それはそれでいいんじゃない?」
何でもないことのように美咲は言った。
直哉は眉を寄せた。
「美咲さ」
「うん」
「なんか、他人事みたいじゃない?」
「そう?」
「俺たちの話だろ」
「だから考えてるよ」
「だったらもうちょっと――」
そこまで言って止まる。
もうちょっと、何だ。
嫌がってほしい。
困ってほしい。
自分と同じように、二人の遺伝的な子どもでなければ意味がないと言ってほしい。
そんなことを要求するのは違う気がした。
「……いや。ごめん」
「うん」
美咲はそれ以上聞かなかった。
直哉はコーヒーを飲んだ。
少し冷めていた。
*
三日後、直哉は生殖・養育調整センターから届いた通知を開いた。
《非推奨生殖計画に関する個別説明のご案内》
美咲にも同じものが届いている。
非推奨のまま当初計画を進める可能性を残す場合、双方が個別面談を受けなければならない。
受けたからといって申請する義務はない。
単に、選択肢を残すための手続きだ。
直哉はその日のうちに予約を入れた。
美咲も翌日には予約したらしい。
二人の日程は別だった。
直哉の面談が先だった。
*
「今日は佐伯さんお一人ですので、篠宮さんの意向を気にせず、ご自身のお考えだけをお答えください」
前回と同じ部屋。
向かいには久世文香が座っていた。
「ここでお話しいただいた内容について、篠宮さんへそのまま開示することはありません」
「はい」
「ただし、共同申請ですので、最終的にお二人の意向が一致しているかどうかは双方へお伝えします」
「分かりました」
久世は端末を確認した。
「では最初に、前回説明した内容について確認します。佐伯さんと篠宮さんの組み合わせでは、特定の重篤な遺伝性疾患について、制度上の推奨基準を超える発症リスクがあります」
「はい」
「その疾患を発症せずに出生する可能性の方が高いことも説明しました」
「はい」
「一方で、第三者提供者を利用することによって、そのリスクを大幅に低減できる候補が存在します」
「はい」
「それでも、佐伯さんは当初の生殖計画を希望されていますか」
「希望してます」
迷わなかった。
久世は入力する。
「理由を伺ってもよろしいですか」
「理由?」
「はい」
「美咲との子が欲しいからです」
「分かりました」
また入力する。
それだけだった。
直哉は少し拍子抜けした。
「それだけですか?」
「理由については」
「もっと、その……」
「合理的根拠が必要だと思われましたか」
久世に言われて、直哉は少し黙った。
「まあ」
「必要ありません」
「ないんですか」
「これは許可審査ではなく、意思確認です」
久世は直哉を見る。
「制度としては別の組み合わせを推奨します。ただし、禁止基準に該当しない以上、佐伯さんがどのような理由でその選択をされるかについて、合理性を証明していただく必要はありません」
「じゃあ、好きだからでもいい?」
「構いません」
「そんなもんなんですね」
「特定の相手との遺伝的な子どもを希望する方は、現在でも珍しくありません」
「……そうなんですか」
「はい」
少し安心した。
自分だけが変なことを言っているわけではない。
久世は続けた。
「ただし、いくつか確認します」
「はい」
「佐伯さんが希望されているものを、もう少し分けて考えます」
画面に項目が表示された。
《共同生活の継続》
《共同養育》
《自身の遺伝的継承》
《特定人物との遺伝的継承》
直哉は四つの文字を見る。
「まず、篠宮さんとの共同生活を今後も希望されていますか」
「はい」
「篠宮さんとの共同養育を希望されていますか」
「はい」
「ご自身の遺伝情報を継承した子どもを希望されていますか」
「はい」
「篠宮さんの遺伝情報も継承した、双方の遺伝的な子どもを希望されていますか」
「はい」
四つとも同じ答えだった。
「では仮に、最後の一点だけが実現できない場合を考えてください」
久世が言う。
「篠宮さんとの生活は継続できます。お二人で子どもを養育できます。その子どもが佐伯さんの遺伝情報を継承することもできます。ただし、篠宮さんの遺伝情報は継承しません」
二案目だ。
「それでは不十分ですか」
直哉は少し考えた。
「はい」
「逆に、篠宮さんの遺伝情報は継承します。佐伯さんの遺伝情報は継承しません。ただし、お二人で共同養育します」
一案目。
「それでも不十分ですか」
「はい」
「お二人のどちらとも遺伝的な関係を持たない児童を、共同養育する場合は?」
「……今の俺が欲しいものとは違います」
「分かりました」
久世はそれも記録した。
「つまり佐伯さんにとっては、篠宮さんと共同養育することだけではなく、佐伯さんと篠宮さん双方の遺伝情報を継承した子どもであること自体に、独立した価値がある」
「そうです」
口にすると、思ったよりはっきりしていた。
そうだ。
自分が欲しいのは、それだ。
美咲と暮らしたい。
美咲と子どもを育てたい。
そして、その子は自分と美咲の子であってほしい。
どれか一つを取り出して代わりにされても、同じではない。
「その理由を言葉にできますか」
久世が聞いた。
直哉は黙った。
美咲に似てほしい。
自分にも似てほしい。
二人から続いていくものが欲しい。
そういうことなのだと思う。
「……顔とか」
「はい」
「どっちに似るのかな、とか。美咲に似たらいいなとか。俺の癖が似たら嫌だなとか」
言いながら、自分でも少し笑った。
「そういうのですかね」
「分かりました」
「変ですか」
「いいえ」
久世は首を振る。
「制度上の評価対象ではないだけです」
直哉は苦笑した。
「すごい言い方ですね」
「申し訳ありません」
「いや。合ってます」
評価できない。
美咲の目に似た子が欲しい。
自分と同じ笑い方をしたら面白い。
そういうものに、出生リスクを上回る数字を付けることはできない。
「もう一点、重要な確認です」
久世が言った。
「将来、そのお子さんが発症した場合についてです」
直哉の表情が止まった。
「はい」
「今回の疾患については、出生後に発症が確認された場合、長期的な治療や生活支援が必要となる可能性があります」
「分かってます」
「その際、お子さん本人が、自分の出生時点で代替可能な低リスク案が存在していたことを知る可能性があります」
直哉は何も言わなかった。
「出生記録および遺伝情報は本人に属します。一定の意思能力が認められた段階で、本人は自らの生殖計画に関する記録へアクセスできます」
「……はい」
「将来、お子さんから『なぜこの組み合わせを選んだのか』と問われた場合に、ご自身の判断として説明する必要が生じる可能性があります」
さっきまでより、言葉が重かった。
「それも理解した上で、希望を変更しませんか」
直哉は机の上を見る。
答えは変わらない。
「はい」
「分かりました」
久世は入力した。
止めない。
責めない。
ただ確認する。
その方が、直哉にはかえって落ち着かなかった。
「以上で、佐伯さん側の個別意思確認は終了です」
「これで?」
「はい。現時点では、非推奨計画の継続意思ありとして記録します」
「美咲は?」
「篠宮さんの面談内容についてはお答えできません」
「まだ面談前ですよね」
「はい」
「終わったら、結果だけは分かるんですよね」
「共同申請を進められる状態かどうかはお伝えします」
直哉は頷いた。
「分かりました」
立ち上がりかけたところで、久世が声をかけた。
「佐伯さん」
「はい」
「一つだけ」
直哉は座り直さず、そのまま久世を見る。
「今回確認しているのは、佐伯さんがその選択をしてよい人間かどうかではありません」
「……はい」
「ご自身が何を選んでいるのかを、分けて理解できているかどうかです」
直哉は少し考えてから頷いた。
「分かってるつもりです」
「でしたら結構です」
*
美咲の面談は、その二日後だった。
帰宅した美咲は、いつもと変わらなかった。
「終わった?」
「終わったよ」
「何聞かれた?」
「直哉も受けたんだから大体分かるでしょ」
「まあ」
「内容そのまま話さない方がいいって言われたし」
「俺も言われた」
美咲は上着を脱ぎ、ハンガーに掛ける。
「ご飯どうする?」
「作る?」
「今日はめんどくさい」
「じゃあ何か取るか」
「そうしよ」
それだけだった。
直哉は聞きたかった。
結局、美咲は何を選んだのか。
でも、聞かなかった。
翌日の昼休みに、センターから通知が来た。
直哉は社員食堂で一人、端末を開いた。
《個別意思確認結果》
《現時点において、共同申請に必要な意思一致が確認されていません》
一度読んだ。
もう一度読んだ。
意味は分かる。
自分は継続希望を出した。
なら、美咲は同じ回答をしていない。
それ以上のことは書かれていない。
《当事者間での再検討後、共同意思確認を再申請してください》
直哉は画面を閉じた。
昼食にはほとんど手をつけなかった。
*
「これ、来た?」
その日の夜。
直哉はリビングで美咲に通知を見せた。
「来たよ」
「どういうこと?」
「書いてある通りじゃない?」
「いや」
直哉はソファに座ったまま、美咲を見上げた。
「美咲、非推奨の申請に同意しなかったってこと?」
美咲は少し黙った。
「今の時点ではね」
「なんで?」
「なんでって」
美咲は向かいの椅子に座った。
「まだ一案目もありだと思ってるから」
「この前も言ってたけど」
「うん」
「本気だったんだ」
「本気じゃなかったら候補に入れないよ」
直哉は息を吐いた。
「病気のリスクがあるから?」
「それもある」
「それも?」
「他にもあるよ」
「何」
美咲は少し考えた。
「私、直哉と子ども育てたいんだと思う」
「それは俺も同じだよ」
「うん」
「だから二人の子を――」
「そこ」
美咲が言った。
「そこがたぶん違うんだよ」
「何が」
「直哉は、二人の子を育てたいんでしょ」
「そうだよ」
「私は、直哉と子どもを育てたい」
直哉は眉を寄せる。
「同じだろ」
「たぶん、同じじゃない」
「何が違うんだよ」
「今回、違ったじゃん」
美咲は淡々と言う。
「私と別の提供者の子でも、直哉と私で育てるなら、私はそれでもいいと思った」
「俺は嫌だって言ってるだろ」
「うん。だから直哉は違う」
「じゃあさ」
直哉は少し声を強くした。
「逆ならどうなんだよ」
「逆?」
「俺が遺伝子提供して」
言葉が一度詰まる。
「美咲じゃない別の遺伝子提供者との子どもでもいいって言うのかよ」
美咲は直哉を見る。
質問の意味を確認するように、ほんの少しだけ間を置いた。
「いいよ?」
直哉は黙った。
美咲の声には、皮肉も怒りもなかった。
本当に、ただ答えただけだった。
「……は?」
「直哉と別の人の遺伝的な子ってことでしょ」
「そうだよ」
「それを私と直哉で育てるなら、いいよ」
「美咲の子じゃないんだぞ」
「遺伝的にはね」
「それでいいのかよ」
「うん」
即答だった。
直哉は美咲の顔を見る。
六年付き合ってきた。
三年、一緒に暮らした。
好きな食べ物も、機嫌が悪いときの顔も、仕事で疲れて帰ってきたときに放っておいた方がいい日も知っている。
なのに、今の答えだけは理解できなかった。
「なんで」
「なんでって言われても」
「俺との子じゃなくていいの?」
「直哉との子ではあるでしょ。二案目なら」
「そういう意味じゃない」
「じゃあ、どういう意味?」
「美咲との子じゃないだろ」
「うん」
「俺と美咲の子じゃない」
「うん」
「それが嫌じゃないのかって聞いてるんだよ」
美咲は少し困った顔をした。
「嫌じゃない」
「……」
「ごめん」
「なんで謝るんだよ」
「直哉が嫌そうだから」
「そうじゃなくて」
直哉は髪をかき上げた。
自分が何に苛立っているのか、だんだん分からなくなっていた。
「俺は、美咲との子が欲しいんだよ」
「うん」
「俺と美咲の遺伝子が入った子」
「うん」
「美咲に似たり、俺に似たりするかもしれない子が欲しいんだよ」
「分かってる」
「美咲はそうじゃないの?」
そこで初めて、美咲はすぐに答えなかった。
直哉は待った。
何秒だったのか分からない。
美咲は膝の上で両手を組んで、一度そこへ目を落とした。
「そうなったら、嬉しいとは思うよ」
「じゃあ」
「でも、それじゃなきゃ嫌だとは思わない」
直哉は口を閉じた。
「直哉に似た子だったら、たぶん嬉しいよ。目とか、顔とか。性格まで似たら大変そうだけど」
「余計だよ」
「うん」
少しだけ美咲が笑った。
直哉は笑えなかった。
「でも」
美咲は続ける。
「それがなくても、直哉と一緒に育てるなら、私はちゃんとその子を私たちの子だと思うと思う」
「……私たちの子」
「うん」
「遺伝的に全然関係なくても?」
「三案目?」
「そう」
「それでも」
「俺には分かんない」
「うん」
「本当に分かんない」
「分からなくていいんじゃない?」
直哉は美咲を見る。
「よくないだろ。子ども作る話してんだぞ」
「だから、今話してるんでしょ」
「……」
「私も、直哉が間違ってるって言ってるわけじゃないよ」
美咲は静かだった。
「直哉にとっては、二人の遺伝的な子であることが大事なんでしょ」
「大事だよ」
「うん。今日の面談で私もそこ聞かれた」
「何て答えた?」
「それは言わない方がいいって」
「今もうほとんど言ってるだろ」
「まあね」
美咲は少し苦笑した。
「私は、そこまで大事じゃないって答えた」
直哉は目を逸らした。
分かっていた。
さっきまでの会話で十分分かっていた。
それでも、言葉として聞くと違った。
「じゃあ俺がこだわってるだけじゃん」
「今のところはそうだね」
「……言い方」
「ごめん」
また謝る。
でも、否定はしない。
直哉は背もたれに体を預けた。
天井を見る。
「美咲は一案目がいいの?」
「まだ決めてない」
「でも非推奨申請には同意しなかった」
「今の時点で、『私はこれがいいです』って言えるほど納得してなかったから」
「俺と美咲の子を作ることに?」
「リスクを取ってまで、その組み合わせを選ぶことに」
その言い方が刺さった。
「俺はリスク取らせたいってこと?」
「そういう言い方してないよ」
「でもそういうことだろ」
「直哉」
美咲の声が少しだけ強くなった。
「そういう話にしたら話せなくなる」
直哉は黙った。
「私は直哉が自分勝手だとも思ってないし、子どものこと考えてないとも思ってない」
「じゃあ何」
「ただ、私と直哉で大事にしてるところが違っただけ」
美咲は言った。
「たぶん今まで、その話をしたことがなかったから」
その通りだった。
子どもは欲しい。
いつか二人で。
話したのは、そのくらいだ。
その「二人で」が、
二人の遺伝子から作るという意味なのか。
二人で育てるという意味なのか。
わざわざ確認したことなどなかった。
確認する必要があるとも思っていなかった。
「……俺は」
直哉はゆっくり言った。
「美咲との子が欲しい」
「うん」
「やっぱり、そこは変わらない」
「うん」
「リスクがゼロじゃないのも分かってる」
「うん」
「でも、他の人の遺伝子に変えれば同じだって、俺は思えない」
美咲は黙って聞いている。
「美咲は違うんだろうけど」
「うん」
その「うん」が、思ったより痛かった。
「……少しくらい否定してくれよ」
「嘘つけばいい?」
「それは嫌だ」
「じゃあ無理」
直哉は小さく息を吐いた。
美咲も黙った。
部屋の中で、冷蔵庫の作動音だけが聞こえた。
「もう一回考えてくれない?」
直哉が言った。
美咲は顔を上げる。
「何を?」
「俺と美咲の子」
「考えてるよ」
「そうじゃなくて」
直哉は一度言葉を探した。
「俺にとって、それがかなり大事なんだってことも含めて」
美咲はすぐには答えなかった。
「お願いしてる?」
「……たぶん」
「そっか」
「嫌?」
「嫌じゃない」
「じゃあ」
「だから、考える」
そこまでだった。
直哉が欲しかった答えではない。
でも、それ以上を今求めるのは違うと思った。
「分かった」
美咲が頷く。
しばらくして立ち上がった。
「お風呂入ってくる」
「うん」
美咲がリビングを出ていく。
直哉は一人残った。
テーブルの上には、センターから送られてきた資料がまだ開かれている。
第三者提供。
共同養育。
個別適合。
出生リスク。
どれも理屈は分かる。
美咲の言っていることも分かる。
むしろ、美咲の考え方は、制度が用意した選択肢には馴染んでいるのだろう。
誰の遺伝情報を継いでいるかではなく、誰とその子を育てるのか。
自分だって、そういう家庭で育った。
父と血が繋がっていないことを気にしたことはない。
父を本当の父親ではないと思ったことも、一度もない。
それなのに。
自分がこれから持つ子どもの話になると、同じようには考えられなかった。
直哉は端末を手に取る。
個別意思確認の結果通知。
《現時点において、共同申請に必要な意思一致が確認されていません》
その下には、再申請の項目があった。
今は押せない。
美咲が決めるまで。
直哉は画面を閉じた。
美咲が言った言葉が、まだ耳に残っていた。
――いいよ?
自分が美咲ではない誰かとの遺伝的な子どもを作っても。
それを二人で育てるなら、いい。
直哉には、やはり分からなかった。
ただ一つだけ分かった。
自分が欲しいものは、二人で子どもを育てることだけではない。
そのことだけは、もう誤魔化せなかった。




