92話 首無し騎士
石造りの道を道なりに進んでいくと、大きな広間に出た。
広間では、巨大な首無し騎士が二体、大剣とランスを交わしていた。
ガキィィンッ!
大剣とランスがぶつかり、激しい金属音が響き渡る。
「……戦ってる?」
シオンが一歩、広間へ踏み込んだ。
そして。
「邪魔だな」
シオンは迷わず剣を振るった。
ヒュンッ!
斬撃が馬の脚をかすめる。
パキィィンッ!
切り裂かれた場所から一瞬で氷が広がり、馬の脚が凍りついた。
「ヒィィィンッ!」
突然の攻撃に二頭の馬が激しくいななく。
異変を察した二体の騎士は、素早く馬を後退させた。
「何者だ!」
大剣を持つ首無し騎士が、左手の盾をシオンへ向ける。
その盾には、人間の顔が浮かんでいた。
「我等の戦いを邪魔するなぁ!」
盾の顔が怒鳴り声を上げる。
一方、ランスを持つ騎士の鎧にも顔が浮かんでいた。
「立ち去れ。でなければ殺す」
「やってみな」
シオンがニヤリと笑う。
言うが早いか、地面を蹴った。
ドンッ!
一瞬で間合いを詰める。
「なっ!?」
大剣の騎士が慌てて盾を前へ突き出した。
ガキィィンッ!
シオンの剣と盾が激突する。
「ぐっ……!」
盾の顔が苦しそうに歪んだ。
その瞬間。
パキ……パキパキパキッ!
「なに!?」
盾の表面が白く染まる。
氷が瞬く間に盾全体へ広がっていく。
「盾が凍って……!」
大剣の騎士が慌てて腕を引く。
だが。
「遅い」
シオンは凍りついた盾を足場にして跳躍した。
そのまま大剣の騎士の頭上を飛び越える。
「こっちだ!」
「何っ!?」
振り向こうとした騎士の背後へ回り込み、シオンは剣を振り抜いた。
ガキィンッ!
剣が鎧の継ぎ目へ食い込む。
しかし、鎧を斬り裂くまでには至らない。
「硬ぇな」
「舐めるなぁ!」
大剣の騎士が怒声を上げ、大剣を横薙ぎに振り回した。
ブォンッ!
シオンは身体を低くしてかわす。
大剣が頭上を通り過ぎた。
その直後。
ランスの騎士が突っ込んでくる。
鋭いランスの穂先がシオンへ迫った。
「挟み撃ちか!」
シオンは後ろへ跳ぶ。
ドォンッ!
ランスが床へ突き刺さった。
「逃がすか!」
ランスの騎士が武器を引き抜こうとする。
だが、その瞬間。
「凍れ」
シオンが剣先を床へ向けた。
パキィィィンッ!
床一面が瞬く間に氷に覆われる。
「なっ!?」
「うおっ!?」
二体の騎士の馬が足を取られ、大きく体勢を崩した。
シオンはその隙を逃さない。
シュンッ!
氷の床を滑るように駆け抜ける。
「まず一体!」
剣が横薙ぎに振り抜かれた。
ガギィィィンッ!
ランスの騎士の胸当てが大きくへこむ。
「ぐおおおおっ!」
ランスの騎士が吹き飛び、壁へ叩きつけられた。
ズドォンッ!
それでも騎士はゆっくりと立ち上がる。
「まだだ……!」
「……やっぱり、普通に斬っただけじゃ倒せないか」
シオンが剣を構え直す。
その時だった。
大剣の騎士が、ニヤリと笑った。
「我等は不死の騎士!いくら傷つけようとも」
「そこか」
「え?」
シオンの視線が、大剣の騎士の腰へ向く。
そこには一本の鎖で、首がぶら下がっていた。
「お前、さっきから喋ってるよな」
「……」
「盾が喋ってるように見せてるけど……」
シオンはもう一体の騎士にも視線を向ける。
その腰にも、同じように首がぶら下がっていた。
「本当に喋ってるのは、腰にぶら下がってる頭のほうだろ?」
「き、貴様……!」
大剣の騎士の盾に浮かぶ顔が、初めて動揺した。
シオンがニヤリと笑う。
「当たりか」
「させるかぁぁぁ!」
二体の騎士が同時に突っ込んできた。
ランスと大剣が左右から迫る。
だが、シオンは逃げなかった。
むしろ、一歩前へ踏み込む。
「遅い」
身体をひねる。
大剣をかわす。
迫ってきたランスを剣の腹で弾く。
キィンッ!
そして、そのまま身体を回転させる。
「そこだ!」
シオンの剣が、腰にぶら下がった首へ向かって走った。
「させるかぁ!」
盾の顔が叫ぶ。
「凍れぇぇぇ!」
パキィィィンッ!
剣先から冷気が走った。
床から騎士の脚へ。
脚から腰へ。
そして、ぶら下がった首へ。
一瞬のうちに、首が氷に包まれる。
「や、やめろぉぉぉ!」
盾の顔が絶叫した。
「これで終わりだ!」
シオンが剣を振り下ろす。
バギィィィンッ!
氷に包まれた首が砕け散った。
「ぐああああああっ!」
広間中に絶叫が響き渡る。
同時に、二体の首無し騎士の身体が大きく揺らいだ。
ガシャンッ!
大剣の騎士が床へ倒れる。
続いてランスの騎士も、力を失ったように崩れ落ちた。
静寂が広間を包む。
シオンは剣を肩に担いだ。
「終わりだ」
そして、ニヤリと笑った。




