89話 死者蘇生の条件
「この条件で行うことになりました」
数日後。
ハルさんが一枚の紙をテーブルに置いた。
そこには、サミュエルさんと話し合って決めたという、死者蘇生を行うための条件が書かれていた。
僕は一つずつ目を通していく。
・死者本人の魂を呼び出せること
魂がすでに転生している場合は、呼び出すことができない。
魂を呼び出せない場合、その人はすでに次の人生を生きていると判断する。
・呼び出した魂本人に意思を確認すること
「もう一度、この世界で生きたいか」
「このまま次の人生へ進みたいか」
必ず本人に選択してもらう。
・ワタルが蘇生を強制してはいけない
「生き返った方が幸せ」などと誘導することも禁止。
僕は事実を説明するだけ。
・本人が『生きたい』と望んだ場合のみ蘇生する
本人が望まなければ、そのまま次の人生へ送り出す。
・肉体が蘇生可能な状態であること
完全に肉体が失われている場合など、魂が戻ってきても蘇生できない可能性がある。
・本人確認を必ず行うこと
別人を蘇生しないため、《遠見の鏡》などを使って本人であることを確認する。
・死者本人に嘘をついてはいけない
蘇生した後の生活や未来について、都合のいい説明をしてはいけない。
・蘇生後の身体に重大な問題が残らないことを確認する
毒殺や病死などの場合は、死因となった問題を解消してから蘇生する。
・蘇生できる人数に制限を設ける
僕が無制限に蘇生できてしまえば、世界中から依頼が殺到してしまう。
そのため、一日に蘇生できる人数に上限を設ける。
・犯罪や戦争目的での蘇生は禁止
王族や英雄、軍人などを兵力として蘇生させることはできない。
・最終的な蘇生行為は僕が行う
本人が蘇生を望んだとしても、その他の条件を満たしていなければ蘇生することはできない。
「細かいところは、また話し合って決めます」
ハルさんが言った。
「本当に……いいんですか?」
「はい」
「僕のワガママなのに……」
「ワタルさん」
ハルさんが微笑む。
「これはもう、ワタルさん一人の問題ではありませんから」
「…………」
そう言ってもらえると、少しだけ肩の力が抜けた。
「死者蘇生を行うための専用施設も作ります」
「施設?」
「ええ。この家から直接行けるようにします」
「この家から?」
「はい。専用の扉を設置する予定です」
「…………」
本当に、僕のためにここまでしてくれるんだ。
「ありがとうございます」
僕は頭を下げた。
僕のワガママを聞いてくれたみんなに、心から感謝した。
◇◇◇
それから数週間。
僕達は家の裏手にある岩壁の上へ引っ越した。
元々住んでいた場所には、新しい聖堂を建てることになったからだ。
聖堂の中には、
・待合室
・身元確認室
・魂の呼び出しを行う《蘇生の間》
・蘇生後の経過観察室
・遺族との面談室
などが作られる予定になっている。
そして、死者蘇生を行う日は。
週二日。
月曜日と木曜日。
一日に蘇生できるのは、三人まで。
それ以外の日は、受付と審査だけを行う。
遺族から申請を受ける。
↓
身元と死因を確認する。
↓
蘇生が可能か調査する。
↓
順番を決める。
↓
月曜日と木曜日に《蘇生の間》で魂を呼び出す。
↓
本人に意思を確認する。
↓
本人が望めば蘇生する。
そんな仕組みだ。
「本当に、これで大丈夫なのかな……」
僕は完成していく聖堂を見上げる。
初めてのことだから、不安はある。
でも、これなら僕が「死者蘇生専門の聖者」になってしまうことも防げる。
僕には治療所での仕事もある。
それに、魂を呼び出して、本人に意思を確認して、そこから蘇生する。
一人でもかなり精神的に疲れるはずだ。
だから、最初はこれくらいがちょうどいい。
「……頑張ろう」
僕は小さく呟いた。
死者を蘇らせる。
それが正しいことなのかは、今でも分からない。
でも、少なくとも、僕が勝手に決めるのではない。
生きるのか。
それとも、次の人生へ進むのか。
最後に決めるのは、その人自身だ。
「これなら……」
僕は胸に手を当てる。
「少しは、誰かを救えるかな」
新しく建てられる聖堂を見つめながら、僕は静かに頷いた。
そして数カ月後。
ついに聖堂が完成した。




