88話 本人に聞け!
「あのさ、僕……その」
夕食の席で、心臓が爆発しそうになりながら切り出した。
「死者蘇生を、しようと思う」
「…………」
一瞬、食卓が静まり返った。
ハルさんが、スプーンを握ったまま僕を見る。
「何故、そう思うのですか?」
「助けられるのに、助けられないふりをするのは苦しいです」
僕は泣きそうになりながら答えた。
「前にも説明しましたよね」
ハルさんは責めるような口調ではなく、優しく言った。
「わかってます!わかってるんです。でも……」
僕は俯く。
「できるのに……僕なら、できるのに……」
声が震えた。
「『できません。ごめんなさい』って言った後の、あの人達の泣き顔が頭から離れなくて……」
「僕は……凄く苦しいんです」
「ワタルさん……」
ハルさんが悲しそうな顔をする。
すると、シオンがテーブルを叩いた。
「いいじゃねぇか、別によ!」
「できるんだから、やりゃあいいじゃねぇか!」
「シオンさん!」
ハルさんがシオンをたしなめる。
「ワタルさんは神ではありません」
「神だよ、ワタルは」
「つーか、神になれ!好きにしろ!」
「無責任なことを言わないでください!」
「何が無責任だよ!」
「ワタルさんの力がどれほどの影響を及ぼすのか、分かっているのですか!」
「分かってるよ!」
二人が言い合いを始めてしまった。
「…………」
やっぱり、言わなきゃよかった。
僕は小さくため息をつく。
その時だった。
「死んだっていう病気を治すのが、何でダメなの?」
ユカリが、不思議そうな顔で聞いた。
「ユカリさん……それは……」
ハルさんが困ったように言葉を濁す。
「人間は死んだら土に埋まって、骨になるんだよ」
シオンが説明する。
「それで、魂ってのが身体から離れて、別の人の身体に入って生まれ変わるんだ」
「は?」
ユカリは目を丸くした。
どうやら、いまいち理解できていないらしい。
そして、しばらく考えた後。
「あっ!」
僕は突然閃いた。
「そうか!」
「本人に聞けばいいんだ!」
「魂を呼び出して、もう一度生きたいか、生まれ変わりたいかを本人に聞けばいいんだ!」
「…………」
僕は目を見開いた。
「呼び出せない人は、もう転生してる」
「だったら、その人はもう次の人生を生きてるってことにすればいいじゃん」
「それなら、遺族も納得できるし!」
「…………」
誰も何も言わなかった。
そうだ。
僕が決める必要なんてない。
「もう一度、生きたいですか?」
本人に聞けばいい。
僕が勝手に生き返らせるんじゃない。
本人が望んだ時だけ、戻ってきてもらえばいい。
「……どうですか?ハルさん」
僕が尋ねると、ハルさんはしばらく黙っていた。
やがて、大きくため息をつく。
「はぁ……」
そして、困ったように微笑んだ。
「……サミュエルと話してみましょう」
「ありがとうございます!」
胸の奥にあった重たいものが、少しだけ軽くなった。
これなら、僕にもできるかもしれない。
誰を生き返らせるのかを、僕が決めるんじゃない。
死んだ本人に、もう一度だけ選んでもらう。
「これで……ぐっすり眠れる」
僕は久しぶりに、心から笑った。




