83話 ユーレイカ王国
アレから数週間。
ロイドさん達も帰り、いつものようにみんなで朝食を食べていると。
ドンドンドンドン!
「ん?」
玄関の扉が激しく叩かれた。
「誰だろう?」
「こんな朝早くに……」
僕が立ち上がろうとすると、
「ワタルさん」
ハルさんが僕を制した。
「私が出ます」
「はい」
ハルさんが玄関へ向かう。
そして。
ガチャ。
「どちら様ですか?」
「我々はユーレイカ王国の使者である!」
扉の外から、威圧的な声が響く。
「聖者ワタルを引き渡してもらいたい!」
「……」
ハルさんはしばらく黙っていた。
「ユーレイカ王国からの使者ですか?」
「そうだ!」
「では、まずアレス公国の王へ正式に話を通してください」
「その必要はない!」
「……」
ハルさんの表情が変わった。
「なぜです?」
「聖者ワタルは、我が国が保護する!」
「だから、連れていくと?」
「そうだ!」
「本人の意思は?」
「必要ない!」
「……」
ハルさんは静かに息を吐いた。
「そうですか」
パチン。
ハルさんが指を弾いた。
次の瞬間。
ズズズズズ……。
騎士たちの足元に、巨大な魔法陣が展開された。
「なっ!?」
「これは……!」
「転移魔法!?」
ゴォォォォッ!
魔法陣から眩い光の柱が立ち上る。
「ま、待て!」
「我々はユーレイカ王国の!」
「ご安心ください」
ハルさんは淡々と言った。
「皆さんを殺したりはしません」
「ただ、ここにいる必要もないでしょう」
パァァァッ!
光が消える。
そこにいたはずの騎士たちは、一人残らず姿を消していた。
ハルさんは何事もなかったかのように扉を閉める。
「……」
僕は呆然とする。
「ハルさん……」
「朝食が冷めますよ」
「いや、今の……」
「問題ありません」
ハルさんは席へ戻っていく。
「全員、ユーレイカ王国へ送り返しました」
「……すごい」
その時。
ガタッ。
「飯も食ったし、学校行ってくるぜ」
シオンが席を立った。
「学校行ってくるぜ!」
シオンに続いてユカリも立ち上がる。
「二人とも気をつけてね」
「はーい!」
二人が出ていく。
僕は二人の背中を見送った。
……なんだろう。
何か、嫌な予感がする。
◇◇◇
数週間後。
僕たちは車に乗っていた。
「……あれ」
海を見て、僕は目を見開いた。
「船?」
海の上に、いくつもの巨大な船が浮かんでいる。
一隻や二隻ではない。
十隻。
二十隻。
いや。
「多すぎない?」
島の周囲を、何十隻もの大型船が取り囲んでいる。
船にはユーレイカ王国の紋章が掲げられていた。
「やっぱり来たか」
シオンが後部座席から海を見下ろす。
「今度は本気みたいだな」
「……」
僕は不安になる。
「どうするんですか?」
ハルさんは冷静だった。
「まずは防御です」
「ユカリさん、島全体に結界を張ってください」
「うん!」
ユカリが空へ向かって両手を掲げる。
「《大!結!界!》」
パァァァァッ!
ユカリの魔力が空へ広がっていく。
虹色の光が巨大なドーム状になり、アレス公国島全体を覆っていく。
「すごい……」
空を覆うほど巨大なバリア。
これなら、多少の攻撃を受けても島には届かないだろう。
「これで大丈夫だな!」
シオンが満足そうに頷く。
そして、遠くに見える一際大きな白い船を指差した。
「ついでにあの白くてデカい船」
「沈めようぜ」
「シオンさん」
ハルさんが冷たい声で呼ぶ。
「なんだよ」
「戦争になります」
「もう、あいつら戦争する気満々だろ」
「それでもです」
ハルさんは海を見つめる。
「こちらから攻撃してはいけません」
「相手が先に攻撃してくるのを待ちます」
「……ちっ」
シオンが舌打ちする。
「分かったよ」
僕たちは船を見つめた。
しばらくの間、何も起こらない。
そして。
三十分後。
「……ん?」
ドォォォンッ!
突然、大きな音が響いた。
海面から水柱が上がる。
「えっ!?」
続いて。
ドォォォン!
ドォォォン!
ドォォォン!
次々と砲弾が飛んでくる。
しかし。
ドンッ!
砲弾は虹色のバリアにぶつかり、弾け飛んだ。
「おい!」
シオンが叫ぶ。
「砲撃してきたぞ!」
「……」
ハルさんが静かに頷く。
「そうですね」
「反撃していいんだよな?」
「ええ」
ハルさんは海を見る。
「こちらへの攻撃を確認しました」
そして。
「沈めてしまいましょう」
「よし!」
シオンが拳を握る。
「ユカリ!」
「任せて!」
ユカリが右手を空へ掲げる。
「全部まとめていくよ!」
空が暗くなる。
ゴロゴロゴロゴロ……。
巨大な雲がユーレイカ艦隊の上空へ集まっていく。
「うわ……」
僕は思わず後ずさった。
「ユカリ、すごい……」
「まだまだ!」
ユカリが右腕を振り下ろす。
「船全部に」
「特大の雷、落ちろー!」
ドガァァァァァァンッ!
轟音とともに、巨大な雷が海へ落ちる。
一本。
二本。
十本。
そして――。
ドガアアアアアアアアアアアッ!
空から無数の雷が降り注いだ。
三十隻近い大型船を、一斉に雷が直撃する。
「ぎゃあああ!」
「船が!」
「沈むぞ!」
「逃げろ!」
次々と船が炎を上げ、海へ沈んでいく。
大きな水柱がいくつも上がった。
やがて。
海は静かになった。
そこに残っているのは、わずかな残骸だけ。
「……」
僕は呆然と海を見つめる。
「すごい……」
「ユカリ、やりすぎじゃね?」
シオンが引きつった顔で言う。
「え?」
ユカリはきょとんとしている。
「だって、全部沈めろって言ったじゃん」
「言ったけどさ……」
シオンが頭を掻く。
「ここまでとは思わなかった」
ハルさんも海を見つめていた。
「……」
「ハルさん?」
「いえ」
ハルさんは小さく息を吐く。
「これで、終わればいいのですが」
「終わりじゃないんですか?」
僕が尋ねる。
ハルさんは答えなかった。
ただ、遠くの海を見つめている。
「……」
僕も海を見る。
三十隻近い艦隊が沈んだ。
普通なら、これで諦めるだろう。
でも。
あのユーレイカ王国が、こんな簡単に引き下がるだろうか。
「……嫌な予感がする」
僕が呟いた、その時。
「お兄ちゃん!」
ユカリが突然叫んだ。
「何?」
「あれ!」
ユカリが空を指差す。
僕たちは一斉に空を見上げた。
遠くの雲の向こう。
そこには。
巨大な魔法陣が浮かび上がっていた。
「……何、あれ?」
ハルさんの表情が初めて険しくなった。
「……転移魔法陣です」
「転移?」
「はい」
ハルさんが空を見上げる。
「しかも……あの規模は普通ではありません」
魔法陣が、ゆっくりと輝き始める。
「まさか……」
ハルさんが呟いた。
「艦隊は囮だったのですか……?」




