8話 赤孔雀
ダンジョン塔・最上階
「……俺たち、出番なかったな」
シオンが苦笑しながら呟く。
「うん」
僕も苦笑いするしかなかった。
ユカリの人形たちが強すぎる。
『けんくん』と『まーくん』が現れる魔物を次々となぎ倒し、僕たちは後ろから魔石や素材を拾う係になっていた。
気が付けば、もう最上階だ。
「あっという間に着いちゃったね」
「さい!きょう!」
ユカリは腰に手を当て、得意げに胸を張る。
「で……あれ、どうする?」
僕が指さした先。
枯れ果てた巨大な大木の枝に、一羽の巨大な赤い孔雀が止まっていた。
ブワァァァァッ!!
翼を広げると、暴風が吹き荒れる。
「うわっ!」
あまりの風圧に、僕は思わず膝をついた。
赤孔雀はゆっくりと口を開く。
その奥に、眩しい光球が生まれていく。
「おい!」
「あれ、ヤバいぞ!」
シオンの叫びと同時。
ゴォォォォッ!!
極太の光線が一直線に放たれた。
「せいちゃん、バリア!」
聖女人形『せいちゃん』が両手を合わせる。
パァァァァッ!
半球状の光の結界が僕たちを包み込んだ。
轟音とともに光線が結界へぶつかる。
しかし、傷一つ付かない。
「けんくん、斬撃!」
けんくんは青白い斬撃を次々と放つ。
だが、ヒラリ。ヒラリ。
赤孔雀は空中を優雅に舞い、すべて避けてしまう。
けんくんが大木を駆け上がろうとしても、翼から放たれる暴風に押し返され、近付けない。
「どうする……?」
その時だった。
「あれ?」
赤孔雀の動きが少し鈍くなる。
翼の動きが明らかに遅い。
「けんくん、今!」
ザシュッ!!
けんくんの放った斬撃が左翼を切り裂いた。
「ギャアアアアッ!」
バランスを崩した赤孔雀は、そのまま地面へ激突する。
ズドォォォン!!
苦しそうにもがく赤孔雀。
ユカリが得意げに笑った。
「まーくんにお願いして、風を出せなくなるお薬を混ぜてもらったんだ!」
「毒か!」
「やるじゃねえか!」
シオンが感心したように笑う。
「よくやった!」
ユカリとまーくんは、そろって親指を立てた。
「けんくん!」
「やっちゃって!」
最後の斬撃が放たれる。
シュッ。
赤孔雀の首が宙を舞う。
その巨体は淡い光へと変わり、静かに空へ消えていった。
「終わったな。」
シオンが息を吐く。
「うん……」
「なんだか、すごかったね」
「ユカリ」
「お前、人形使いの才能あるぞ」
頭を撫でられたユカリは嬉しそうに笑う。
「くふふ♪」
ボスが消えた場所には、二つの宝箱だけが残っていた。
赤い宝箱。
青い宝箱。
開けてみると、赤い方は空。
青い方には一本の鍵が入っている。
シオンが鍵を手に取ると、宝箱は光となって消えた。
「帰りも全部歩くのか……」
シオンがため息をつく。
その時。
「あ」
ユカリが何か思い出したように言った。
「まーくん」
「転移魔法お願い」
まーくんが杖を掲げる。
ブォンッ!
黒い魔法陣が空中へ現れた。
「……」
シオンは呆れたように笑う。
「もう何でもありだな、この人形」
◇ ◇ ◇
ギルド前。
突然現れた巨大な黒い魔法陣に、人々は騒然となっていた。
「なんだ!?」
「魔法か!」
「誰が使った!?」
魔法陣から三人が姿を現す。
「邪魔だ」
「通してくれ」
シオンが人混みをかき分け、受付へ向かう。
「お疲れさまでした」
「初めてのダンジョンはいかがでしたか?」
受付嬢が笑顔で尋ねる。
「大したことなかったぜ」
シオンが肩をすくめる。
ワタルはボディバッグから魔石や素材を次々と取り出した。
最後に。
ドンッ!
サッカーボールほどもある真っ赤な魔石を置いた瞬間。
受付嬢の表情が凍りつく。
「ま、まさか……!」
「攻略されたんですか!?」
「その魔石が証拠だ」
シオンが短く答える。
「しょ、少々お待ちください!」
受付嬢は慌てて大きな鑑定水晶を運んできた。
魔石へ近づけると、水晶が淡く輝く。
そこには先ほどの戦闘が映し出された。
赤孔雀との戦い。
「間違いありません……!」
「レッドピーファウル討伐、そしてダンジョン攻略を確認しました!」
ギルド中がどよめく。
「赤孔雀を倒したのか!」
「暁の塔に続いて二組目だ!」
「しかも攻略RTAは二時間!」
「暁の塔は四日かかったのに……!」
騒然とする冒険者たち。
その時、一人の受付嬢が駆け寄ってきた。
「ワタル様、シオン様、ユカリ様。」
「ギルド長がお呼びです。」
その一言でざわついていたギルドは一瞬にして静まり返った。




