78話 闇のランプ
あの後、ハルさんに思いきり叱られた。
でも、僕達の覚悟を理解してくれたのか、最終的にはダンジョンへの挑戦を許してもらえた。
そして今、僕達は大森林にある洞窟ダンジョンへ向かっている。
車で何日もかかる距離だったので、途中の森の中にドールハウスを建て、そこで休みながら進んでいた。
森の中には、様々な魔物がいる。
蜘蛛、カマキリ、蝶。
虫系の魔物が多いのだが、とにかく大きい。
鳥肌が立つほど巨大な奴までいる。
そのうえ、熊や狼、猪といった獣系の魔物までいるので、油断はできない。
しかも、この森にはラプランが出るらしい。
ラプラン。
《森の愚者》ラプラン。
全身が爛れる呪いにかかり、森に住み着いた元盗賊。
……そんな奴には、絶対に会いたくない。
そう思いながら、僕はベッドに入った。
◇◇◇
トン、トン、トン。
ドアをノックする音で目が覚めた。
スマホを確認すると、現在時刻は夜中の二時。
「誰……?」
眠い目をこすりながらドアを見る。
すると。
ドアの向こう、暗闇の中に目玉だけが浮かんでいた。
しかも、その目は縦に並んでいる。
「……っ!」
一瞬で眠気が吹き飛んだ。
冷や汗が背中を伝い、心臓が激しく脈打つ。
「……あぎょうさん、さぎょうご、いかに」
「……?」
何を言っているんだ?
「……あぎょうさん、さぎょうご、いかに」
『何?あぎょうさん?さぎょうご?』
意味が分からない。
『あぎょうさん、さぎょうご』
「う、そ……?」
「…………」
バタン!
ドアが閉まった。
『何なの!?』
◇◇◇
翌日の夜。
トン、トン、トン。
まただ。
「赤い水、青い水、どっち?」
「どっちも嫌」
「…………」
バタン!
◇◇◇
それから、同じようなことが四日間続いた。
毎晩、夜中の二時になると現れる。
ノック。
意味不明な言葉。
そして答えると勝手にドアが閉まる。
……もう、完全に寝不足だった。
◇◇◇
そして五日目。
「なにをしている」
さすがに苛立っていた。
睡眠不足で頭も重い。
ドアの隙間から、縦に並んだ目玉がこちらを覗いている。
「なにをしている」
ラプランは同じ言葉を繰り返す。
「……ラプランが、良い魔物になるように祈ってる」
「…………」
バタン。
もう相手をする気力もなかった。
◇◇◇
そして、ようやく目的地に到着した。
「あれが洞窟ダンジョンか……」
空までそびえ立っていそうな巨大な崖。
その岩壁に、大きな洞窟の入り口がぽっかりと口を開けている。
中は真っ暗で、物音一つしない。
「怖いな……」
「大丈夫だよ!」
ユカリが元気よく答える。
僕達は慎重に洞窟へ足を踏み入れた。
……とはいえ、入ってみれば普通のダンジョンだった。
スライムに始まり、毒蜘蛛、毒蝶、毒蛇。
どうやら、このダンジョンは毒系の魔物が多いらしい。
「そこ!」
ユカリが魔法を放つ。
「オラァ!」
シオンが剣を振るう。
次々と魔物が倒されていく。
結局、魔物の殲滅はシオンとユカリに任せ、僕とハルさんはアイテムを拾う係になった。
そして。
あっという間に最下層へ到着した。
「早かったね」
「二人が強すぎるんですよ」
ハルさんが呆れたように言う。
最下層の扉を開く。
ギィィィ……。
「…………」
「…………」
中を見渡す。
何もいない。
ただ、部屋の中央には。
金貨。
宝石。
レアアイテム。
大量の財宝が山のように積まれていた。
「ボス、いないの?」
ユカリが不思議そうに僕を見る。
「そう、みたいだね」
「お・た・か・ら~♪」
ユカリが嬉しそうに財宝へ近づいていく。
シオンも宝の山に歩み寄った。
「すげぇな……」
そして、シオンが金貨に手を伸ばした。
その瞬間。
ガシッ!
「うわっ!」
何かが金貨の中から飛び出し、シオンの腕を掴んだ。
「シオン!」
僕が駆け寄る。
「≧♂〆≧♂〆≧♂〆♂〆≧≧≧♂」
「……何だ?」
ガララララ……。
金貨が崩れ、その中から何かの頭がせり出してくる。
「ラプラン!」
「え?」
「ざけんな、コイツ!」
シオンが反射的にラプランへ蹴りを入れた。
「≧♂〆≧♂〆≧♂〆♂〆≧≧≧♂」
ラプランは奇妙な声を上げる。
しかし、それ以上は何も言わなかった。
「この野郎!」
シオンが再び攻撃しようとした、その時。
「浄化!」
僕はラプランに向かって聖なる力を注ぎ込んだ。
しかし。
「…………」
何も起こらない。
「どうして……?」
浄化の力が効かない?
その時だった。
「ユカリさん、天井を見てください」
ハルさんが静かに言った。
「ん?」
ユカリが天井を見上げる。
そこには。
ローブを身にまとい、ランプを手にした魔物が張り付いていた。
「……いた!」
「奴を倒してください」
「わかった!」
ユカリがおもちゃの剣を構える。
「大きい火の玉!アイツにぶつかれ!」
ユカリが剣を振る。
ボールほどの大きさの火球が生まれ、凄まじい速度で天井の魔物へ飛んでいく。
ドンッ!
「ギャアアアアッ!」
火球が直撃する。
魔物の身体に炎が燃え広がり、天井から床へと落下した。
「うわっ!」
その瞬間。
シオンの腕を掴んでいたラプランが、スウッ……と消えていった。
「……消えた?」
僕が振り返る。
すると、魔物は炎に包まれながら床を転げ回っていた。
「ギャアアアッ!」
やがて、その身体は灰になって崩れ落ちる。
そして。
部屋いっぱいにあった宝の山も、スウッ……と消えていった。
「くそっ!」
シオンが悔しそうに灰を蹴散らす。
「宝に気を取られるから罠にはまるんです。それに、天井にいる本体にも気づかなかったでしょう?」
ハルさんが冷静に言う。
「ちっ!」
シオンが舌打ちする。
「ユカリがボス倒した!」
ユカリは嬉しそうに飛び跳ねている。
すると。
ドスン!
突然、深緑色の宝箱が天井から落ちてきた。
「わっ!」
「……宝箱?」
恐る恐る蓋を開ける。
中に入っていたのは、一つの魔道具だった。
《闇のランプ》。
「これは……?」
ハルさんが説明する。
《闇のランプ》。
朝を夜に。
そして、夜を朝に変えることができる不思議なランプらしい。
「ちっ!ラプランらしいアイテムだぜ!」
シオンが呆れたように言う。
「なんで?」
「森の愚者だからだろ」
「意味分かんない……」
僕はため息をついた。
こうして。
久しぶりのダンジョン挑戦は、無事に終わった。




