74話 ダーンジョン!ダーンジョン!
「ダーンジョン!ダーンジョン!」
ユカリが嬉しそうに飛び跳ねている。
「ハルさん、まだ帰ってきてないから。また今度ね」
「ダーンジョン!ダーンジョン!」
今度はその場で足踏みを始めた。
「俺達だけで行っちまうか?」
シオンがフレンチトーストをかじりながら言う。
「ダメだよ。勝手に動かないって言われただろ」
「いいじゃねぇか」
シオンは気にした様子もない。
「あいつがいなかった時は、俺達だけでダンジョンに行ってただろ?」
「それはそうだけど……」
僕は困ったようにユカリを見る。
「ハルさんにも責任があるから、困らせないようにしようね」
「んーーーー!!」
ユカリは頬をぷっくりと膨らませ、さらに激しく足踏みをする。
「……そんなにダンジョンに行きたいの?」
「行きたい!」
即答だった。
◇◇◇
ホムラさんに相談してみると、快くユカリを海底神殿ダンジョンへ連れて行ってくれた。
「ダンジョン、か……」
久しぶりに思う。
そうだよな。
いちいちハルさんの許可がないとダンジョンに行けないなんて、やっぱり少しつまらない。
最近のハルさんは、家を空けることも多い。
僕達には戦神シャールさんから授かった加護だってある。
死ぬ可能性は、かなり低いはずだ。
もちろん、ダンジョンを舐めているわけじゃない。
それでも。
「……ダンジョン、挑戦したいよね」
一人呟く。
『よし!』
僕は覚悟を決めた。
スマホを取り出し、ハルさんにメッセージを送る。
『ハルさん、お疲れ様です。
三人でシセカビナ大森林の大樹ダンジョンに行ってきます』
すると、すぐに返信が来た。
『勝手に』
僕は、そっとアプリを閉じた。
……見なかったことにしよう。
◇◇◇
「お前、よく決意したな」
後部座席に座ったシオンが言う。
「ダーンジョン!ダーンジョン!」
ユカリは助手席で大はしゃぎだ。
「最近、ちょっと自由がないかなって思ったんだよ」
僕はオープンカーを運転しながら答える。
「ちょっと出かけるにも、ハルさんの許可が必要だったでしょ?」
「まあな」
「シオンが、言ったみたいに三人で出かけたかったんだ」
「それで決意したってわけか」
「うん」
僕は前方を見る。
「シセカビナ大森林、もう見えてきたよ」
目の前に広がっていたのは、果てが見えないほど広大な森だった。
どこまでも続く木々。
その光景に、ユカリが目を輝かせる。
「すごーい!」
しばらく森の上を進んでいると、やがて大きく円形に開けた場所が見えてきた。
その中央には。
一本の巨大な大木がそびえ立っていた。
「うわぁ……」
思わず声が漏れる。
「とりあえず、ここに着陸させよう」
僕はオープンカーをゆっくりと下降させ、木の近くに停めた。
車から降り、改めて大木を見上げる。
「この木、本当に大きいなぁ」
「俺達の家が八軒くらい入りそうだな」
「ダンジョン、どこ?」
ユカリが辺りを見回す。
「ちょっと待ってね」
僕はスマホを取り出した。
「えっと……大樹ダンジョンの入り口は……」
スマホを確認するため、大木に背中を預ける。
そして。
「うん、分かったよ」
スマホから顔を上げる。
「……あれ?」
二人がいない。
「シオン?」
「ユカリ?」
返事がない。
「どこ行った?」
周囲を見回す。
そこで、僕は違和感に気づいた。
「……え?」
さっきまで目の前にあった巨大な大木が。
ない。
代わりに、そこに生えていたのは小さな苗木だった。
「……え?」
僕は目を疑う。
「なんで……?」
さっきまで、あんなに巨大だったのに。
「もしかして……」
嫌な予感がする。
『また神様の何かに巻き込まれた!?』
僕が頭を抱えていると。
「誰だ、お前は」
突然、背後から声がした。
「えっ!?」
慌てて振り返る。
そこに立っていたのは、長い銀色の髪をした少年だった。
年齢は僕と同じくらいに見える。
少年は警戒するように僕を睨んでいる。
「えっと……」
僕は慌てて説明する。
「実は、ここにあった大きな木を触ったら、いつの間にかここにいて……」
「それで?」
「同じ場所のはずなのに、木が苗木になっていて……」
僕は周囲を見渡す。
「それで、どうしたらいいのかなって……」
少年はしばらく黙って僕を見つめていた。
そして。
「……時々、お前みたいな奴がいる」
「え?」
「未来から、この場所へやって来る奴だ」
「未来……?」
僕の顔が引きつる。
やっぱり、そういうことなのか。
少年は淡々と続けた。
「しかし、誰も元の時代には帰れない」
「…………」
絶望的なことを、あまりにも平然と言われた。
「……え?」
僕の顔から血の気が引いていく。
帰れない?
元の時代に?
「来い、人間」
少年は僕に背を向ける。
「総長のところへ連れて行く」
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌てて追いかける。
「君の村って、どこにあるの?」
少年は振り返りもせず答えた。
「二百キロ北だ」
「…………」
僕は、その場で力なく立ち尽くした。
「二百キロ……」
徒歩で?
それとも、何か乗り物がある?
いや、それ以前に。
「シオン……ユカリ……」
僕は頭を抱えた。
「どこ行った……?」
こうして僕は。
シオンとユカリとはぐれた上に、知らない時代へ飛ばされ、二百キロ先の村へ連れて行かれることになった。




