71話 クソ野郎!!2
結果から言うと。
あれから、数カ月が経っていたらしい。
僕が夢の迷宮から戻ってこられなかった間、ハルさんは僕を目覚めさせる方法を探すため、古代魔法の解除について研究を続けていた。
シオンはユカリの面倒を見ながら、一日中僕の側にいて、何度も何度も呼びかけてくれていたらしい。
僕はみんなに、夢の迷宮で何があったのかを説明した。
そして。
「心配かけて、ごめんなさい」
僕は頭を下げた。
しばらく沈黙が続く。
「……また神かよ」
シオンが頭を抱え、深いため息を吐いた。
「なんで俺たちは、こう神々に振り回されてばっかりなんだよ……」
ハルさんも苛立ちを隠そうともせず、舌打ちする。
「……まったく」
「神という存在は、余計なことばかりしてくれますね」
二人の反応を見ていると、申し訳ない気持ちになる。
一方。
「お兄ちゃん……」
ユカリは僕の腰にしがみついていた。
「もう、どこにも行かないで」
「うん」
僕はユカリの頭を優しく撫でる。
「もう大丈夫だよ」
それでもユカリは僕から離れようとしなかった。
よほど怖かったのだろう。
僕が目を覚まさなかった数カ月間、ずっと不安だったに違いない。
「……本当に、ごめんね」
もう一度、ユカリの頭を撫でる。
その時だった。
ふと、右手に違和感を覚えた。
「……あれ?」
右手の人差し指を見る。
そこには、あの指輪が嵌まっていた。
銀色の指輪。
中央には、小さなダイヤルのようなものが付いている。
「これ……」
僕は指輪を見つめる。
夢の中で、ヴァルさんが渡してきたもの。
《時戻しの指輪》。
「……現実に持ってきたんだ」
僕は指輪をそっと撫でた。
ただの夢だったはずなのに。
あの迷宮も。
この指輪も。
全部、本当に存在している。
「……これを使えば」
僕は小さく呟いた。
「未来へ行ったり……」
「過去へ戻ったりもできる」
けれど。
「……なんで僕にくれたんだろう?」
その瞬間。
夢の中でヴァルさんの声が響いた。
『お詫び』
『それで数カ月前に戻って、僕のおもちゃを掘り出せばいいよ』
『ハルに言っといて』
『じゃあね』
「…………」
僕はしばらく黙り込んだ。
「ハルさん」
「なんですか?」
「ちょっと、話があるんですけど……」
僕はヴァルさんから聞いたことを、ハルさんにすべて伝えた。
◇◇◇
「…………」
ハルさんは何も言わなかった。
ただ、額に手を当てて俯いている。
「……ヴァル様が?」
「はい」
「数百年前に捨・て・た神器を……」
「時を戻して掘り出せ、と?」
「そう言ってました」
ハルさんは深く息を吐いた。
「……分かりました」
「こうなった以上、調べるしかありませんね」
結局、僕たちはバロックのダンジョン攻略を諦め、家へ戻ることになった。
そして一週間後。
ハルさんを中心に、神器の回収作戦が行われることになった。
何百年もの間、誰にも解明できなかった魔法。
その謎を解くことができるかもしれない。
「じゃあ、僕たちは先に帰りますね」
「ええ」
「くれぐれも無理はしないでください」
ハルさんにそう告げて、僕たちは先に帰宅した。
家に戻ると、僕はソファに腰を下ろした。
「……疲れた」
シオンも隣に座る。
「俺もだ」
ユカリは僕の隣に座ると、肩を寄せてきた。
「もう神様の話は聞きたくないね」
「同感」
僕は大きく息を吐いた。
慈悲の女神。
鍛冶神。
戦神。
そして、まだいるかもしれないその他の神々。
力を貸してくれることもある。
助けてもらったこともある。
だけど。
「もう、神様に振り回されるのはこりごりだよ」
僕の言葉に、シオンが頷く。
「まったくだ」
「今度こそ、普通に暮らそうぜ」
「うん」
僕たちは顔を見合わせた。
この時は、本気でそう思っていた。




