67話 a Puppet Show man
入国した瞬間から驚きの連続だった。
大きく開かれた城門の上には、巨大な魔法陣が宙に浮かんでいる。
入国者はその下を通るだけで、危険人物かどうかを瞬時に判別されるらしい。
僕たちの前を歩いていた男の人は、魔法陣をくぐった途端、警報が鳴り響き、待機していた警備隊に取り押さえられてしまった。
「すごい……」
魔法の国らしい入国審査に、思わず感心する。
ハルさんはバロックの第三王子だから、街の人に気づかれないよう「認識阻害の眼鏡」を掛けていた。
その眼鏡は『おもしろ道具店』という店で売られていたらしく、僕たちもお揃いで購入した。
店内には見たこともない不思議な魔道具や、思わず笑ってしまうような変わった発明品が並び、見ているだけでも楽しかった。
街の中央には大きな噴水広場があり、人々は思い思いにくつろいでいる。
そこを中心に石畳の道が蜘蛛の巣のように四方へ伸び、白い石造りの家々が整然と並んでいた。
尖った屋根が空へ向かって立ち並び、その向こうには水晶を削り出したように美しい王城が堂々とそびえている。
「観光はこれくらいにして、そろそろ城へ向かいましょうか」
「そうですね。ユカリも疲れたみたいです」
「俺も腹減ったなぁ」
そんな他愛もない話をしながら歩いていた。
その時だった。
世界がぐにゃりと歪んだ。
◇◇◇
気がつくと、僕は一人だった。
「……ここは」
見覚えのある部屋。
「僕の部屋……」
「ハル様、申し訳ございません」
一人のメイドが、部屋に置かれた人形を一つひとつ丁寧に箱へしまっていた。
布で作ったぬいぐるみ。
木を削って作ったマリオネット。
金属で作った小さな人形。
どれも幼い頃の僕が夢中になって作った宝物だ。
「大丈夫ですよ」
「もう、それは必要ありませんから」
そう言うと、メイドは悲しそうに微笑み、再び人形を箱へ詰め始めた。
僕は子どもに戻っている?
メイドは箱を抱え、静かに部屋を出て行く。
扉が閉まり、鍵の掛かる音だけが響いた。
幼い頃の僕は、人形使いになりたかった。
街を走る馬車の上で披露される魔法人形劇。
糸も使わず自由に踊る人形たちは、本当に美しく、人々を笑顔にしていた。
あんな人形を作れるようになりたい。
そう願っていた。
ザザッ。
景色が揺らぐ。
今度は戦場だった。
カリーナ戦争。
「ハル!どうした!人形が止まったぞ!」
「ノル兄さん……」
「すみません……僕には、できません」
「何を言っている!」
「敵を殲滅する好機だぞ!」
「もう相手に戦意はありません!」
「これ以上の殺戮は必要ありません!」
ハルは震える声で叫ぶ。
「僕は……こんな形で、人形使いになりたかったわけじゃない!」
ザザッ。
再び景色が変わる。
「ハル。魔道具の研究に集中したいから、廃嫡してほしいと言ったのか」
王の問いに、僕は静かに首を振った。
「いいえ」
「僕が作りたいのは、人形です」
「人形を作り、人形使いとなり、人々を笑顔にしたいのです」
それが、僕の夢だった。
ザザッ。
「ハル様!」
「おい!ハル、しっかりしろ!」
「ハル!」
「ハル様!」
誰かが必死に呼んでいる。
ゆっくりと目を開けると、そこはバロック城の一室だった。
「ばあや……」
「ハル様!」
ばあやは涙を流しながら僕の手を握る。
「この野郎!心配させるな!」
ノル兄さんが怒鳴る。
その目は赤く充血していた。
「ノル兄さん……泣いてる」
「泣いてねぇ!」
「怒ってるんだ!バカヤロー!」
横ではヨル兄さんが静かに息をついた。
「お前たちが噴水広場で突然倒れたと知らせを受けた時は、本当に驚いたぞ」
「……ヨル兄さん、すみません」
「ワタルさんたちは?」
「先に目を覚ました」
「今は夕食を食べさせている」
その言葉に胸をなで下ろす。
「ハル様」
ばあやが少し言いにくそうに口を開いた。
「申し訳ございません。ただ……ワタル様のことでございます」
「ワタルさんがどうかしたんですか!」
僕は思わず身を乗り出した。




