65話 冒険者の現実
「ダンジョン行きたい」
来た。
ユカリの「ダンジョン行きたい」が。
何か月ぶりだろう。
「赤い鳥、飽きた」
「骨の人も飽きた」
「シオンが帰ってきたらね」
海底神殿ダンジョンへ行って、もう五日。
まだシオンは帰ってこない。
……大丈夫だろうか。
◇◇◇
「はぁ……。しっかりしてくださいよ、先輩方」
「ここからが本番みたいなもんですから」
「アンデッドかぁ……。俺、幽霊とか苦手なんだよな」
「よくここまで来られたよな、俺たち」
「もう戦う余裕なんてねぇよ……」
俺はアロマ隊の新人研修へ、半ば強制的に放り込まれた。
しかも神器は禁止。
スマホもマジックバッグもアロマに取り上げられ、愛用の剣まで木剣へ持ち替えさせられた。
「実力だけで生き残りなさい」
アロマはそう言って笑っていた。
鬼教官である。
「じゃあ、真っすぐ行きますよ」
四人は横一列ではなく、一列縦隊になって通路を進む。
左右に分かれる道は行き止まり。
正解は真ん中の壁の中だ。
その時だった。
カタカタカタ……
無数の骸骨剣士が姿を現す。
「ほら、来ましたよ!」
「おらぁぁぁ!」
「やってやらぁ!」
「いやだぁぁぁ!」
新人兵たちが必死に剣を振るい、骸骨を次々と倒していく。
俺は一歩前へ出る。
剣へ魔力を集中させた。
骸骨の群れが一瞬だけ割れる。
その奥。
玉座に座るスケルトンキングが見えた。
「そこだ!」
木剣を大きく振りかぶる。
「氷結斬撃!」
青白い斬撃が一直線に走る。
ズバァァン!
スケルトンキングの身体が真っ二つに裂け、そのまま砕け散った。
同時に、周囲の骸骨たちも光の粒となって消えていく。
ドスン。
深緑色の宝箱が目の前へ落ちてきた。
「今回は金貨か」
蓋を開けると、中には金貨八十枚。
「毎回、中身違うのか?」
「はい。武器だったり、防具だったり、薬草だったり、いろいろっすね」
「ここまで苦労して薬草だったら泣くぞ、俺」
その瞬間。
ブォォォン……
部屋の奥に、青白く輝くアーチ状の転移ゲートが現れた。
「終わったぁ……」
一人がその場に座り込む。
「やっとベッドで寝られる」
「まずい保存食とも、おさらばだ」
「俺なんて荷物どっかでなくしちまったよ」
新人兵たちは疲れ切った表情で笑い合う。
冒険者で一番つらいのは、魔物との戦いだけじゃない。
乏しい食料。
固い地面での野営。
重い荷物を背負って歩き続ける毎日。
風呂にも入れず、汗と泥まみれになる生活。
これが、冒険者の現実だった。




