62話 三人の秘密
ついに、黒薔薇城の開封の儀が執り行われる日がやってきた。
儀式には世界十か国の王が立ち会い、厳かに進められた。
世界会議では、
「英雄たちを政治利用しない。その代わり、英雄たちも政治には関与しない」
という取り決めがなされたらしい。
そのため、僕たちは式典には招待されなかった。
だけど、ソーマくんが儀式の様子を映像で送ってくれた。
七つの鍵が七色の光を放ちながら宙へ浮かび上がる。
やがて巨大な光の鍵へと姿を変え、黒薔薇城を幾重にも縛っていた漆黒の鎖へと触れた。
ガシャン……。
鎖は静かにほどけ、光の泡となって空へ溶けていく。
その光景は、息を呑むほど幻想的で美しかった。
城の前には大勢の国民が集まり、封印が解かれた瞬間、大歓声が響き渡る。
僕たちも思わず拍手していた。
ゆっくりと開いた城門。
そこからラファエルさんとレミさんが姿を現す。
「お父さん!」
「お母さん!」
エミリアちゃんが泣きながら駆け寄り、二人も娘を強く抱きしめた。
ようやく家族が再会できたのだ。
「これで……」
「世界の脅威は、すべて終わったんだ」
誰もが笑顔だった。
その様子を、靴箱の上に並んだまーくんたち三人が静かに見つめていた。
◇◇◇
真っ白な空間。
空も地面も境界すらない、不思議な世界。
そこに三人の男女が立っていた。
シスター服をまとった女性が、胸元の首飾りを優しく握る。
「これで、私たちの役目も終わりましたね」
深緑のローブを羽織った魔法使いが穏やかに笑う。
「なかなか面白い旅でしたよ」
白銀の鎧をまとった剣士は腕を組み、小さく笑った。
「もう少しシオンの成長を見届けたかったけどな」
その時。
無数の光の泡が集まり、人の姿を形作っていく。
現れたのは三柱の神。
鍛冶神ヴァル。
慈悲の女神アローナ。
戦神シャール。
「勇者たちを支えてくれてありがとうねぇ」
アローナが柔らかな笑みを浮かべる。
「アリア、ロー、ハンク」
「いえ」
アリアが苦笑する。
「皆さんが次々と答えを提示してくださったので、私たちはほとんど何もしていません」
「時間がなかったからねぇ」
ヴァルが頭をかく。
「早く親子を再会させてあげたかったんだもん」
アローナも照れくさそうに笑う。
「俺なんて最後は冒険者の指導だけだったぞ」
シャールが豪快に笑った。
「そのおかげで、有望な冒険者がずいぶん育ったがな」
ヴァルは三人を見渡す。
「さて、君たちの使命は終わった」
「よく頑張ってくれた」
「だから、一つだけ願いを叶えてあげよう」
アリアは迷うことなく答えた。
「私の力を、ワタルさんに託したいです」
「彼なら、きっと正しく使ってくださいます」
「オッケー!」
アローナは笑顔で頷く。
「アリアの力はワタルくんへ。そしてアリアは転生、だね」
「はい」
続いてローが口を開く。
「では私は、ユカリに魔法を授けたいと思います」
「まだ幼いので危険な力ですが……ハルさんがいるなら安心です」
「了解」
ヴァルが親指を立てる。
「ローの力はユカリへ。そして君も転生だ」
「はい」
最後にハンクが笑う。
「俺も同じだ」
「シオンに俺の技を全部くれてやる」
「あいつは、剣聖になれる器だ」
「任せろ!」
シャールが力強く頷いた。
「俺が責任を持って引き継ごう」
その瞬間。
アリア、ロー、ハンクの身体が淡い光に包まれる。
光は無数の泡となって舞い上がり、静かに三人の姿を溶かしていった。
新たな力を、大切な者たちへ託して。
そして三人は、それぞれ新しい人生へと旅立っていった。




