61話 いちごのケーキ
「兄さんは……悪い人ではないんです」
ハルさんは少し寂しそうに笑った。
「子どもの頃から甘やかされて育ったせいで、自信過剰なところがありますが……」
「ますますカミーユだな」
シオンが肩をすくめる。
「魔族を敵視しているのは、戦争で母を亡くしているからです」
部屋が静まり返る。
「ですが、今の兄は、すべての魔族を憎んでいるわけではありません」
「ヨル兄さんが、魔大国での救助支援の指揮をノル兄さんに任せたそうです」
「その経験を経て、兄は変わりました」
「戦争は過去のものだと、少しずつ受け入れ始めたんです」
シオンが腕を組む。
「お前ら、人間だろ?」
「戦争の頃はいなかったんじゃねぇのか?」
「私たちはエルフと人間のハーフです」
ハルさんは穏やかに微笑んだ。
「こう見えて、私は三百歳近いんですよ」
「……マジか」
シオンが思わず目を丸くする。
ハルさんは苦笑すると、ソーマへ向き直った。
「すみません、ソーマさん」
「せっかくのお祝いの席を台無しにしてしまいました」
深く頭を下げる。
「い、いえ!」
ソーマは慌てて両手を振った。
「そんなことありません」
そして、今度は自分が頭を下げる。
「ノルさんには、本当にお世話になりました」
「魔大国の惨状を見て、戦争の記憶がよみがえったそうです」
「崩れかけた建物から人を救い出したり、火災の消火や避難誘導をしたり……」
「もう間に合わないと諦めかけていた僕たちを励まし、最後まで指揮を執ってくれました」
「ノルさんには感謝しています」
「本当に、ありがとうございました」
再び深く頭を下げるソーマ。
しばらく静寂が流れた、その時だった。
「おわった?」
ユカリが首をかしげる。
「ケーキ食べていい?」
一瞬の沈黙。
そして。
「はははは!」
「ふふっ」
部屋中に笑い声が広がった。
張り詰めていた空気が、一気に和らぐ。
「そうだな!」
シオンがジュースをユカリのコップへ注ぎながら笑う。
「祝いの続きといこうぜ!」
「チーズケーキに、いちごのショート、チョコレートケーキもあるよ」
僕はユカリの前へケーキを並べた。
「きゃー!」
ユカリは目を輝かせる。
「ユカリ、いちごがいい!」
「はいはい」
みんなが笑顔で席に着き直し、祝宴は再び賑やかさを取り戻した。




