60話 シオンVSノル
「なんだ、僕に逆らうのか」
「お帰りください」
「それしか言えないのか」
「お帰りください」
「おい!」
「いつまでやってんだ、ハル」
シオンが立ち上がり、剣を抜く。
「そんな奴には、こうするんだよ!」
「氷棘!」
ズガンッ!
「うわぁっ!」
ノルの足元から鋭い氷の棘が突き出し、驚いた彼は尻もちをついた。
「シオンさん!」
「室内で魔法を使ってはいけません!」
「危ないでしょう!」
振り返ったハルが声を荒げる。
「お、お前ら!」
顔を真っ赤にしたお兄さんが立ち上がる。
「表へ出ろ!」
「成敗してやる!」
「やってみろよ!」
シオンは不敵に笑う。
「てめぇを見てると、カミーユの馬鹿を思い出すぜ!」
「な、なにィ!」
「ノル、やめておけ」
「ヨル様!?」
後ろに控えていた魔法使いたちが左右へ分かれ、一人の男が前へ出る。
「兄上!?」
「な、なぜここに……」
「こんなことだと思っていた」
ヨルは静かにため息をつく。
「どうせ父上に、ハルを連れ戻せと言われたのだろう」
「それは……」
先ほどまでの勢いは消え、お兄さんは言葉を詰まらせた。
「ヨル兄さん」
「ハル、息災だったか」
「はい」
二人は固く握手を交わす。
「帰るぞ、ノル」
「お待ちください!」
ノルは食い下がった。
「あれだけ侮辱されて、このまま帰るわけにはいきません!」
そしてシオンを指差す。
「おい、お前!」
「勝負だ!」
「受けてやるぜ、チビ!」
シオンは挑発するように中指を立てた。
「兄さん!」
止めようとするハルを、ヨルが手で制する。
「よい」
「二人とも、外へ出よ」
◇◇◇
家の前の広場。
向かい合う二人の間に緊張が走る。
ノルは余裕の笑みを浮かべ、シオンは無言で剣を構えた。
「始め!」
ヨルが手を振り下ろす。
ノルは剣を抜くと同時に炎をまとわせた。
「魔法剣術・紅蓮!」
炎の斬撃が次々とシオンへ襲いかかる。
シオンは最小限の動きでかわしながら、少しずつ距離を詰めていく。
「逃げるだけか!」
ノルは風と雷の魔法も織り交ぜ、激しい連撃を浴びせる。
ワタルは思わず息を呑んだ。
『シオン……押されている……』
しかし、シオンの表情は変わらない。
『あと一歩』
勝利を確信したノルが大きく踏み込み、渾身の一撃を振り下ろした。
「終わりだ!」
その瞬間だった。
シオンは半歩だけ踏み込み、刃を紙一重でかわす。
「遅い」
ザシュッ。
シオンの剣がノルの肩を浅く斬り裂く。
「なっ!?」
傷口から白い霜が広がり、腕、胸、足へと瞬く間に凍りついていく。
「う、動け……」
ノルは剣を握ったまま、氷像のように完全に凍りついた。
辺りは静まり返る。
「勝者、シオン」
ヨルが静かに勝敗を告げた、その時。
キィンッ!
数本の青白い光が空を走る。
バリィィン!
氷が一瞬で切り裂かれ、砕け散った。
ドサッ!
「ぐぁっ!」
ノルは地面へ倒れ込み、大きく息をつく。
「油断大敵だ、ノル」
ヨルは魔力で作り出した光の刃を消しながら言った。
「勝負は決した。命まで奪う必要はない」
シオンは何も答えず、静かに剣を鞘へ納めた。




