59話 ノル・ドーン
『臨時ニュースをお伝えします。
本日午前中に行われた世界会議において、元魔王ラファエル・グランデスバルの封印解除は一度見送られました。しかし、夕方になって急遽方針が変更され、封印解除が正式に承認されました。
すでに七つの鍵はすべて揃っているとみられ、近日中にも開封の儀が執り行われる予定です』
「ソーマくん、お父さんの封印がついに解かれるんだね。良かったね!」
「はい!」
「条件付きではありますが、これからは家族みんなで暮らせます」
「うん!」
家族みんなで仲良く暮らせる。
それって、とても幸せなことなんだろうな。
◇◇◇
「おい、聞いているのか!」
「ええ、聞いていますよ、兄さん」
部屋の空気は重苦しかった。
夕食時に突然押しかけてきたハルさんのお兄さんに、誰も歓迎の言葉を口にしない。
ハルさんはお兄さんの方を一度も見ようとせず、コーヒーを片手に新聞を読んでいる。
「それが人の話を聞く態度か!」
「夕食の時間に押しかけてくる方が非常識でしょう」
新聞を静かに畳むと、ハルさんは立ち上がり、兄の前まで歩み寄った。
「何のご用ですか、兄さん」
「僕を見下ろすんじゃない!」
「こんな辺鄙な場所に家まで建てて……お前は何を考えている!」
「それに僕は疲れた。椅子を用意しろ」
「ねぇよ、お前の椅子なんて」
シオンがぼそりと呟く。
「僕はバロック魔術大国の第二王子だぞ!」
「お前より年下で王になったやつが、ここにいるぞ」
「ぼ、僕はまだ……」
お兄さんは言葉に詰まった。
今日は、来週行われるラファエルさんの封印解除を祝う、少し早めのお祝いの席だった。
ソーマくんが、開封の儀の招待状をわざわざ届けに来てくれたのだ。
そんな大切な日に、この空気である。
「ふん。魔物などが治める国などたかが知れている」
「負け惜しみかよ。王にもなれねぇ、自由にもなれねぇ半端者が」
「このっ!」
お兄さんがシオンを睨みつける。
「兄さん!」
ハルさんが鋭い声を上げた。
「用がないなら、お帰りください」
しかしお兄さんは聞く耳を持たない。
「父上が退位される!」
「兄上が王位を継がれる!」
「姉上とサミュエルの結婚も決まった!」
「そして僕は、愛しのアロマと結婚し、フレナリアへ婿入りする!」
兄は勝ち誇ったように胸を張る。
「だからお前は兄上の補佐をするんだ」
「魔道具の開発なら、バロックでもできるだろう。兄上は父上と違って、お前をお許しくださる」
「僕は父上の命令で、お前を連れ戻しに来たんだ」
部屋は静まり返った。
ハルさんがバロックへ帰る!?
ハルさんはお兄さんを真っ直ぐ見つめ、静かに、しかし迷いなく言った。
「……お帰りください」




