58話 チートが過ぎる
『武具』
「……何じゃ?」
どこからともなく、若い女の人の声が響いた。
『ラファエルのお父さんのお墓の中だよ』
「誰じゃ!」
エディス様が立ち上がる。
『慈悲の女神アローナよ』
「じ、慈悲の女神アローナ!?」
周囲の兵士たちも一斉にざわめいた。
「エディス様!いかがなされました!」
どうやら、この声はアローナさんらしい。
エディス様は辺りを見回しながら問いかける。
「慈悲の女神アローナよ!」
「ラファエルの父上の墓とは、どういうことですのじゃ!」
アローナさんは少し寂しそうな声で答えた。
『ラファエルのお父さんがね、昔、ヴァルグレイアの落とした鱗を拾って、それで剣と鎧を作っちゃったの』
『でも、その鱗にはヴァルグレイアの瘴気が残っていた』
『その瘴気が長い年月をかけて黒薔薇城に満ちていって』
『ラファエルは知らないうちに、その瘴気に心を侵されてしまったの』
『だから優しかった彼は、戦争を始めるほど変わってしまった』
部屋の空気が凍りつく。
『この前、黒薔薇城の瘴気そのものは浄化されたわ』
『でも、武具に残る呪いだけはまだ消えていないの』
『放っておけば、また何百年後かに同じ悲劇が繰り返されるでしょうね』
「ソーマくんにも、その呪いは……?」
不安になって尋ねる。
『今は大丈夫』
『でも武具を残せば、いずれ誰かが同じように呪われるわ』
「では、どうすれば呪いは解けるのですじゃ!」
『ラファエルが飼っている聖獣いるでしょう?』
『あの子は元々ヴァルグレイア』
『武具に残った呪いも、自分の魔力だから食べられるの』
『全部食べ終われば、呪いは完全に消えるわ』
エディス様は机を叩いた。
「皆の者!」
「今すぐグランデスバル黒薔薇城へ向かうぞ!」
「船を出せ!」
「待ってください!」
僕は慌ててタブレットを取り出し、ソーマくんへビデオ通話をかけた。
しばらくして画面が映る。
「ワタル?」
「久しぶりだね」
「お久しぶりです」
もう一つの画面にレミさんも映る。
「な、何じゃ!?」
「ソーマ王とラファエル夫妻が板の中におるではないか!」
エディス様が目を丸くする。
兵士たちも驚きを隠せない。
「ソーマ、聞いて」
僕はアローナさんから聞いた話を最初から最後まで説明した。
話を聞き終えたラファエルさんは静かに頷く。
「父上の墓は、この城の地下にある」
「すぐ墓を開けよう」
「武具は私が回収する」
「父上、お気を付けください」
「ああ」
「ソーマ、一度通信を切るぞ」
画面が暗くなった。
◇◇◇
それから数時間。
エディス様は部屋の中を落ち着きなく歩き回っていた。
「まだか!」
「ラファエル、早く報告せぬか!」
「エディス様、まだ数刻も経っておりません」
「分かっておるわ!」
理不尽だった。
◇◇◇
夕焼けが窓を赤く染め始めた頃。
タブレットが鳴った。
「ワタル!」
「できたよ!」
「ソーマ!」
全員が画面へ駆け寄る。
画面にはソーマくん。
レミさん。
ラファエルさん。
そして白銀の毛並みを持つ聖獣アルスの姿があった。
ラファエルさんが静かに頭を下げる。
「ワタル殿、エディス」
「感謝する」
「武具の呪いは完全に消えた」
画面には、以前は黒かったと言う剣と鎧が映し出される。
今は純白に輝いていた。
レミさんに抱かれたアルスは満足そうに目を細めている。
その時、再びアローナさんの声が聞こえた。
『聖武具になったわね』
『もう瘴気では汚されない』
『精神を操る呪いも効かない』
『邪悪な魔力にも強い、本当の聖武具よ』
僕はその言葉を皆へ伝える。
「アローナさんは、『聖武具になったので、もう瘴気にも精神攻撃にも侵されない』と言っています」
「何と!」
ソーマくんが驚く。
「ワタル殿には、女神のお声が聞こえるのか」
ラファエルさんが驚いた表情をする。
「はい」
「妾には聞こえぬ……」
エディス様は少しだけ肩を落とした。
しばらく沈黙が流れる。
やがてエディス様は、ゆっくりとラファエルさんを見つめた。
「……そうか」
「やはり、お前の本心ではなかったのだな」
ラファエルさんは深く頭を下げる。
「エディス」
「本当に……すまなかった」
続いてレミさんも頭を下げる。
ソーマくんも静かに頭を垂れた。
エディス様は三人を見つめ、目に涙を浮かべながら微笑む。
「もうよい」
「過去は消えぬ」
「だが、真実は分かった」
一筋の涙が頬を伝う。
「ラファエルよ」
「妾は、そなたを許そう」




