57話 ラファエル
『臨時ニュースをお伝えします』
『今日、世界10カ国会議が開催されました』
『主な議題は、世界の脅威、終焉獣ヴァルグレイアの聖獣化、神々の存在、そして魔王ラファエル封印解除についてです』
『会議の結果、世界の脅威は消滅したと判断されました』
『終焉獣ヴァルグレイアは聖獣化に成功し、現在は安全な状態で保護されています』
『また、創造神アル、時の女神ジーン、その子である三柱の神々の存在が正式に認定されました』
『魔王ラファエル・グランデスバルの封印解除については、見送りとなりました』
テレビから流れるニュースを聞きながら、その人は目を細めた。
「ほう……これが女神アローナの神器か」
「板の中で女が妾に向かって話しておる」
「しかも、たった今終わったばかりの会議の内容を知っているとは……」
「実に興味深い」
「…………」
僕は苦笑いする。
目の前に座っているのは、ガナード王国のドワーフの女王。
エディス様。
そして今は僕のスマホを興味深そうに眺めている。
「はい」
「これはテレビと言います」
「仕組みは僕にもよく分からないんですが、中に人が入っているわけではありません」
「この人が、どうして会議の内容を知っているのかも分かりません」
広い部屋。
僕とエディス様が向かい合って座る周囲には、隙間なく兵士達が立っている。
緊張で落ち着かない。
早く誰か帰ってきてくれないかな……。
「それで」
エディス様は僕を見る。
「妾が首から下げていた鍵を盗んだ理由は?」
「……」
「かじしんヴァルさんです」
「世界の脅威だったヴァルグレイアを何とかするために、僕を動かしたんです」
「そのお詫びとして、鍵を渡してくれました」
部屋の空気が一瞬で変わる。
誰も声を出さない。
「鍛冶神ヴァル……」
「神々の一柱が関わっていたというのか」
エディス様は静かに呟いた。
しばらく考えた後。
「では、聞こう」
「魔王ラファエルの解放をどう思う」
「ソーマくんのお父さんのことですか?」
「僕は会ったことがありません」
「でも……」
僕は少し考える。
「ソーマくんも、エミリアちゃんも、お父さんのことが大好きです」
「二人の話を聞いていると、優しい人だったんだと思います」
「世界征服を考えるような人には思えません」
「だから……許してあげてもいいんじゃないかと思いました」
エディス様は黙って聞いている。
「でも」
「僕のお父さんのことを考えると……」
「死ねばいいのにって思います」
その言葉に、エディス様の表情が少し変わった。
「僕は200年前のことを知りません」
「だから許せるんだと思います」
「もし、僕がその時代にいて」
「大切な人を傷つけられていたら……」
「きっと許せなかったと思います」
長い沈黙。
やがてエディス様が口を開く。
「元来、魔族というものはな」
「皆、優しい者が多い」
「ラファエルも、かつてはそうだった」
「だが……ある日を境に、奴は変わった」
エディス様は遠くを見るような目をした。
「突然、周辺国へ戦争を仕掛けた」
「妾の父上は、その戦いで命を落とした」
「妾は……その姿を目の前で見ていた」
拳を握る。
「皆、戦争だったのだと理解しておる」
「戦場で命を奪い合うこともあるとな」
「そして、多くの者が分かっておる」
「ラファエルが、何かに変えられたのではないかと」
「しかし……」
「何が奴を変えたのか、それが分からぬ」
「分からぬ以上、再び同じことが起きる可能性を否定できぬ」
「また、あの優しかった男が別人のように変わってしまうのではないか」
「民は、それを恐れているのだ」
部屋に静寂が広がる。
僕は少し考えてから口を開いた。
「原因が分かれば……」
「みんな、ソーマくんのお父さんを許してくれますか?」
エディス様は少しだけ目を伏せる。
「……分からぬ」
「原因が分かったとしても、失われた命は戻らぬ」
「だが……」
「少なくとも、奴をただの悪として終わらせることはできるやもしれぬ」
そう言って、エディス様は悲しそうに笑った。




