6話 牛乳パン
『ヴァアアアアアッ!』
『君にも加護をあげるよぉぉぉ!』
突然、眩い光が俺を包み込んだ。
「……ん。」
『何だ……?』
泣き叫ぶ女の声が聞こえた気がしたが、次の瞬間には意識が途切れていた。
◇ ◇ ◇
カーテンが勢いよく開かれる。
差し込んだ朝日が眩しく、俺はゆっくりと目を開けた。
「おはよう」
兄の方が笑顔で立っている。
「もう七時だよ」
「朝ご飯ができたから、起きられる?」
「ああ……」
短く返事をして体を起こす。
その時、右肩に違和感を覚えた。
「……何だ、これ」
右肩から左脇へ斜めに掛けられた黒い帯。
兄が身につけている物と同じだった。
「ああ、それ?」
「ボディバッグっていうんだ」
「何でも入る魔法の袋だよ」
「たぶん、女神さまが君にもくれたんだね」
兄は自分のボディバッグを持ち上げると、小さな金具をつまんで横へ滑らせた。
シャーッ。
口が開く。
中には虹色の渦がゆっくりと回っていた。
「……」
『何だ、この袋』
「詳しい話はあとにしよう」
「まずは朝ご飯を食べよう」
兄はそう言って食卓を指さした。
その時、ふわりといい香りが鼻をくすぐる。
「……」
コンソメの香りだ。
テーブルには湯気の立つスープ。
そして、見たこともないほどたくさんのパンが並んでいた。
どれも透明な袋に入っている。
「好きなのを食べていいよ」
兄はまだ眠そうなユカリを起こしながら笑う。
俺は白いパンを一つ手に取った。
中から白い物が少し見えている。
『……どうやって食うんだ?』
しばらく眺めていると、兄が苦笑しながら近づいてきた。
「ごめん」
「袋の開け方、分からないよね」
兄はパンを受け取ると、袋の端を両手でつまむ。
そして左右へ引っ張った。
パンッ!
乾いた音を立てて袋が開く。
その音でユカリが飛び起きた。
「パン!」
「パン!パン!」
嬉しそうに駆け寄る。
「メロン、メロン、め〜ろ〜ん♪」
謎の歌を歌いながら、丸いパンにかぶりついた。
兄は茶色いパスタが挟まったパンを食べ始める。
『……』
俺も白いパンを一口かじった。
「!!」
甘い。
ふわふわだ。
「うまっ!」
思わず声が漏れる。
あっという間に食べ終えてしまった。
今度は楕円形のパンを手に取る。
一口。
「っ!」
「辛ぇ!」
「何だこれ!」
ユカリがもぐもぐしながら答える。
「カレーパン!」
「美味しいよ!」
もう一口食べる。
「……」
『辛いけど、うまい』
気づけば全部食べ終わっていた。
今度はスープを口へ運ぶ。
優しい味が体中へ染み渡る。
『……こんなにうまい飯、初めて食った』
「まだいっぱいあるから、遠慮しなくていいよ」
兄は穏やかに笑う。
俺は黙って頷き、次のパンへ手を伸ばした。
ここに来てから腹いっぱい食べても怒られない。
奪わなくても、飯がある。
そんな当たり前のことが、少しだけ嬉しかった。




