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5話 旅の仲間

「こちらが新しい冒険者カードになります」


受付のお姉さんが二枚のカードを差し出した。


「あ、ありがとうございます」


僕はカードを受け取りながら苦笑する。


『僕、何もしてないんだけど……本当にSランクでいいのかな?』


すると隣でユカリが目を輝かせた。


「お兄ちゃん!」


「ダンジョン行く?」


「行きたい?」


「行きたい!行きたい!行きたい!」


「……だよね」


思わず笑ってしまう。


「じゃあ行こうか」


「うん!」


「ダンジョン!」


ダンジョンまでは一本道らしい。


『もうお昼だし、屋台を見ながらのんびり歩いて行こうかな』


そう思っていた。


◇ ◇ ◇


そんな呑気なことを考えていた時期が、僕にもありました。


目の前には、一人の少年が倒れている。


黒いローブをまとった僕と同じくらいの年頃の少年だった。


どうやら路地裏から飛び出してユカリのリュックを奪おうとしたらしい。


その瞬間、リュックの中にいた『まーくん』が自動で雷魔法を放ち、少年は気絶してしまった。


今もまーくんはリュックから顔だけ出し、ぷりぷり怒っている。


「何だ?」


「何があった?」


「突然、雷が落ちたぞ!」


「子どもに当たったらしい。」


野次馬が集まり始める。


その時、一人の男が息を呑んだ。


「あいつ……ラプランじゃねぇか」


『ラプラン?』


僕はその名前を知らなかった。


「と、とにかく助けなきゃ!」


駆け寄ってローブを外す。


「えっ!?」


思わず息を呑む。


顔には火傷のような大きな痕が残っていた。


周囲からもどよめきが起こる。


「ラプランの火傷だ……」


「また悪化したのか……」


「ユカリ!」


「この子、治せる?」


「うん!」


ユカリは迷わず頷く。


「せいちゃん!」


「この子のケガ、治して!」


聖女人形が両手を合わせる。


優しい緑色の光が少年を包み込んだ。


しばらくして光が消える。


そこには傷一つない、美しい顔立ちの少年が眠っていた。


「……」


誰も声を出せない。


「ラプランの傷が……」


「消えた……」


「こんな顔だったのか……。」


僕は少年を背負い、人混みをかき分けてギルドへ戻った。


◇ ◇ ◇


「……ん」


目を開ける。


知らない天井。


知らない部屋。


「ここは……」


隣を見ると、あの兄妹がベッドで眠っていた。


「……」


俺は勢いよく起き上がる。


「見える……」


「俺、目が見えてる」


「ちゃんと喋れる……」


『何が起きた?』


『俺は妹のリュックを奪おうとして……』


『突然、雷を受けて……』


「ん……」


兄の方が目を覚ました。


そして静かに近づいてくる。


「来るな!」


「寄るな!」


反射的に腕を振り回す。


兄は立ち止まり、深く頭を下げた。


「ごめんなさい」


「え?」


「いきなり雷を撃ってしまって、本当にごめんなさい」


「怖かったですよね」


「痛かったですよね」


「本当にごめんなさい」


何度も頭を下げる兄。


『……怪我?』


『あれは俺が盗もうとしたから……』


気づけば口が勝手に動いていた。


「……いい」


「妹のリュックを盗もうとした俺が悪い」


『何を言ってるんだ、俺は……』


兄は驚いたように目を丸くする。


「欲しかったんだ」


「あの人形が」


「……あれがあれば」


「俺を見下した国の奴らも、街の奴らも」


「みんなに復讐できると思った」


言い終えた瞬間、後悔した。


『なんで初対面の奴にこんな話を……』


兄は少し考えてから、小さく笑った。


「何があったのかは聞かない」


「復讐しちゃダメとも言わない」


「でもね」


「復讐より、もっと楽しいこともあるよ」


「僕たちも、たくさん苦しい思いをしてきた」


「だけど今は、美味しいご飯を食べて、温かい布団で眠って、ユカリと笑っていられる」


「その方が、ずっと幸せなんだ」


兄は真っ直ぐ俺を見る。


「君は、どうしたい?」


「……」


答えられない。


楽しいことなんて、考えたこともなかった。


沈黙を破るように、兄が笑う。


「じゃあさ」


「僕たちと一緒にダンジョンへ行かない?」


「……は?」


思わず聞き返した。


「危ないから、入り口までだけど」


「何か面白いことが見つかるかもしれない」


「なんで俺が……」


その時だった。


「行くって言われたら!」


「『うん!』って言えばいいんだよ!」


ユカリが勢いよく起き上がる。


「はい!」


「決定!」


「おやすみ!」


それだけ言うと、布団をかぶって再び眠ってしまった。


部屋に沈黙が流れる。


「……」


「……」


思わず笑ってしまった。


「……分かったよ」


「お前らと行ってやる」


兄は嬉しそうに笑う。


「うん!」


「ダンジョン、楽しみだね」


そう言うと、そのまま眠りについてしまった。


『……ダンジョンの恐ろしさも知らないくせに』


だけど不思議だった。


復讐しか考えていなかったはずなのに。


胸の奥が少しだけ温かかった。


そんな複雑な気持ちのまま、俺も静かに目を閉じた。





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