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4話 人形無双

ギルドの地下には、広い訓練場があった。


石造りの壁に囲まれた円形の闘技場。


周囲には観客席まであり、多くの冒険者たちが興味深そうにこちらを見ている。


『テストって、何をするんだろう……』


しばらく待っていると、受付のお姉さんが一人の男を連れてきた。


長い赤髪を後ろで束ね、木剣を肩に担いだ青年だ。


シャツに短パン、しかも裸足。


欠伸をしながら、面倒くさそうに歩いてくる。


「お待たせしました。」


「これよりダンジョン適性試験を開始します。」


お姉さんは青年を指さした。


「彼はFランク冒険者です。まずは彼に勝ってください」


「お」


青年が言いかけた、その瞬間。


ヒュンッ!!


何かが目にも止まらない速さで動いた。


「え?」


次の瞬間、青年の姿は遥か上空へ。


「うわああああぁぁぁっ!!」


小さくなっていき、やがて青い星となって消えた。


訓練場は静まり返る。


僕も何が起きたのか分からなかった。


気づけばユカリの前には、剣を構えた剣士の人形『けんくん』が立っている。


「…………」


受付のお姉さんは額に汗を浮かべた。


「しょ、少々お待ちください!」


そう言うと、全力でギルドへ駆け戻っていった。


しばらくして現れたのは、猫耳を持つ獣人の女性だった。


引き締まった体つきで、全身から歴戦の冒険者という雰囲気が漂っている。


「私はカーラ。Cランク冒険者だよ」


「さっきのは偶然だろうね。今度は私が相手をするよ」


「よろしくお願いします!」


ユカリは元気よく頭を下げた。


「じゃあ……行くよ!」


カーラは一気に間合いを詰め、鋭い爪を振るう。


その瞬間。


「まーくん!」


「ネコさん、ダメにして!」


ユカリの声と同時に、魔法使い人形『まーくん』が杖を掲げた。


ぽんっ。


赤い煙が辺り一面へ広がる。


鼻につく、不思議な香り。


「……あれ?」


カーラの動きが止まる。


次の瞬間。


バタンッ!!


「にゃ~……」


地面へ倒れ、そのままごろごろ転がり始めた。


「にゃはは……気持ちいい~……」


完全に酔っぱらった猫のようになってしまった。


「…………」


受付のお姉さんは無言になる。


「しょ、少々お待ちください!」


三度、全力疾走でギルドへ戻っていった。


数分後。


戻ってきたお姉さんの隣には、一人の美女が立っていた。


肩まで伸びた銀髪。


鋭い眼差し。


そして、その肩には手のひらサイズの緑色の妖精が座っている。


「Aランク冒険者、ミネアよ。」


「こっちはシア」


「カーラを一撃で倒したそうね。」


「でも、ここから先は別格よ。」


妖精が宙へ舞う。


「アンちゃん。」


「ブドちゃん。」


「お願い。」


ゴゴゴゴゴ……。


召喚陣が光り、骸骨剣士と巨大な黒竜が姿を現した。


観客席がどよめく。


「召喚獣だ……!」


「Aランク本気じゃねえか!」


しかしユカリは少しも慌てない。


「せいちゃん!」


「ガイコツさん、天国に行くんだよ!」


聖女人形が静かに祈る。


柔らかな光が骸骨剣士を包み込む。


「え?」


骸骨剣士の頭上から魂がふわりと抜け出し、そのまま天へ昇っていく。


「ア、アンちゃん!?」


シアは慌てて魂へ飛びつく。


「待ってぇぇぇぇ!!」


だが魂は笑顔で成仏していった。


「せいちゃん!」


「今度は恐竜さん、いい子にして!」


緑色の光が黒竜を包み込む。


まばゆい光が消えると、そこにいたのは真っ白な竜だった。


「きゅう?」


白竜はユカリの頬へすり寄る。


「かわいい!」


ユカリは笑顔で抱きしめた。


「ブドちゃぁぁぁん!!」


ミネアはその場に崩れ落ちた。


訓練場は完全に沈黙する。


その静寂を破ったのは、一人の壮年の男だった。


「見事だ。」


いつの間にか受付のお姉さんの隣に立っている。


堂々とした風格。


ギルド長だった。


彼は腕を組み、満足そうに笑う。


「これ以上の試験は必要ない」


「兄妹そろってSランク冒険者として認定する」


一瞬の静寂。


そして。


「うおおおおおおおっ!!」


観客席から割れんばかりの歓声と拍手が巻き起こった。


「Fランクどころじゃねえ!」


「Aランクのミネアとシアを手ぶらで圧倒したぞ!」


「ダンジョン攻略の最速記録、更新するんじゃないか?」


興奮冷めやらぬ冒険者たちが口々に叫ぶ。


しかし、その歓声を冷たい目で見つめる者が一人だけいた。


深くローブを被った少年。


『……あの兄妹』


『あの人形……ただのおもちゃじゃない』


『あれさえあれば、俺を見下した奴らに……』


少年は拳を強く握る。


『復讐できる』


その瞳には、底知れぬ憎悪が宿っていた。







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