54話 三人の子供達
『むかしむかしのお話です』
『遥か雲の上の上には、創造神アルと時の女神ジーンが住んでいました』
『二人には三人の子供がいました』
『長女アローナ』
『長男ヴァル』
『次男シャール』
僕は何気なく絵本を読み進めていた。
子供向けのおとぎ話。
そう思っていた。
けれど、ページをめくるたびに、僕の表情は少しずつ変わっていった。
『ある日、創造神アルは新たな世界を創りました』
『その名は、アザルディア』
『空を作り』
『海を作り』
『大地を作り』
『そして、人間を創りました』
『しかし、時の女神ジーンは言いました』
『一種類だけでは、少し寂しいのではありませんか?』
『そこでアルは、新たな人々を創りました』
『森と共に生きるエルフ』
『強き肉体を持つ獣人』
『技術を極めるドワーフ』
『空を駆ける竜』
ページには、それぞれの種族の姿が描かれていた。
僕は息を止める。
これは……。
ただの昔話じゃない。
この世界の始まりの話だ。
『それを見た三人の子供たちは思いました』
『自分たちも、新しい命を創ってみたい』
『そして、両親が眠っている間に新たな存在を生み出しました』
『角を持つ者』
『翼を持つ者』
『不思議な力を持つ者』
『それが、魔族と魔物の始まりでした』
僕は絵本から目を離せなかった。
魔族。
魔物。
この世界では当たり前に存在しているもの。
その始まりが、まさか神の子供たちによるものだったなんて。
物語は続く。
『六つの種族は長い間、共に暮らしていました』
『しかし、変化のない世界に飽きた三人の子供たちは、あるものを作ろうとしました』
『誰よりも強い存在』
『世界で最も偉大な生命』
そして。
次のページを開いた瞬間。
僕の手が止まった。
そこには、空を覆い尽くす巨大な黒い獣が描かれていた。
『それが』
『終焉獣ヴァルグレイア』
『空を覆うほど巨大な獣』
『その炎は海を蒸発させ』
『その雷は大地を砕き』
『巻き起こる巨大な竜巻は、世界そのものを飲み込みました』
ページをめくる。
『事態を知った時の女神ジーンは、ヴァルグレイアが現れる直前まで時を戻しました』
『そして、創造神アルは天空神殿へ封印しました』
『しかし』
『その封印は永遠ではありません』
『神々は世界の外にいるため、直接ヴァルグレイアを滅ぼすことはできません』
『封印が保つ時間は……』
『長くても千年』
『残された時間は、あと1日もありません』
『果たして人類は、世界の終焉から逃れることができるのでしょうか』
そこで物語は終わった。
僕はしばらく、絵本を閉じることができなかった。
「……」
頭の中に、あの日の言葉が蘇る。
『世界を守ってみせろ』
魔王ラファエルよりも強い存在。
神々ですら倒すことができず、封印するしかなかった怪物。
背中に冷たい汗が流れる。
「……」
「せんしんシャールさんが言っていた世界の脅威って……」
僕はもう一度、絵本の最後のページを見る。
そこに描かれた黒い獣。
「……これだ」




