53話 引っ越し
僕たちは今、黄色いオープンカーに乗って東へ向かっていた。
あの日、みんなに自分たちの気持ちを正直に話した。
旅に戻りたいこと。
もう一度、冒険をしたいこと。
突然の話だったのに、誰一人反対する人はいなかった。
「皆さんには、今まで十分助けていただきました」
「今度は私たちが街を守ります」
シスターさんは笑顔でそう言ってくれた。
治療所は教会が引き継ぐ。
雑貨屋は商人ギルドが運営する。
街の統治は、『黒の街管理会』の代表となったエルフの代表者が務めることになった。
僕たちの家は、そのまま別荘として残してある。
ハルさんが開発した転移魔道具で、新しい家と別荘を繋ぎ、ユカリとシオンが学校へ通えるようにもした。
こうして、僕たちは新しい生活を始めるため、東の岩壁地帯へやって来た。
巨大な岩壁が連なる、まだ誰も住んでいない土地だ。
「前は家だけ置いちゃったからね」
「今度は緑を増やそう」
僕は『おもちゃ箱』から『緑地化薬』を取り出し、辺り一面へ撒いた。
キラキラと光が舞い上がる。
次の瞬間。
茶色い大地から一斉に草が芽吹き、色とりどりの花が咲き誇る。
あっという間に美しい草原へと姿を変えた。
「すごい!」
「草が生えた!」
ユカリは嬉しそうに草原を駆け回る。
「まずは崖を背にして家を置こう」
ドールハウスを設置すると、いつもの家が現れる。
「ブランコと砂場と滑り台ほしい!」
「公園だね」
僕は公園セットを家の右側へ設置した。
「では、僕は左側に研究所を置きます」
ハルさんは研究所を設置する。
「俺の倉庫は公園の隣でいいか」
シオンも荷物を置き終えた。
新しい拠点は、少しずつ形になっていく。
「僕は……何を作ろうかな」
◇◇◇
それから数日。
シオンはユカリと一緒に冒険者学校へ通い始めた。
シオンはBクラス。
ユカリは基礎を学ぶGクラスだ。
学校が終われば二人でダンジョンへ向かい、毎日楽しそうに帰ってくる。
ハルさんは相変わらず研究所にこもりきりで、新しい魔道具の開発に没頭している。
僕はというと、街の図書館へ通うのが日課になっていた。
せんしんシャールさんの加護のおかげで、魔物の攻撃は僕には通じない。
試しにスライムで確かめてみたけれど、体当たりも酸も、当たる瞬間に透明な障壁が現れ、すべて弾き返してしまった。
だから剣を腰に差してはいるものの、今ではお守りのような存在だ。
最近は本を読むことが何より楽しい。
今日も図書館で何冊か借りてきた。
ユカリに読んであげようと思って、絵本も一冊借りてある。
「少し読んでみようかな」
そう呟きながら、僕はソファに腰掛け、本の表紙をゆっくりと開いた。




