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黒の人形使い〜女神に貰った神器で無双する。  作者: ボアの本棚


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52/100

52話 あの日に戻りたい



夕食の時間。


みんなが食卓を囲み、静かに食べ始めた頃、僕はぽつりと口を開いた。


「……前に戻りたい」


スプーンを持つ手が止まる。


三人が僕の方を見た。


「僕たちしかいなかった頃に戻りたい」


少し言葉を探しながら続ける。


「海底神殿を攻略した頃から噂が広がって、冒険者さんが来るようになったよね」


「最初はダンジョン帰りで怪我をした冒険者さんを、せいちゃんにお願いして治していただけだった」


「それが、そのうち一般の人まで並ぶようになって、気づけば今みたいな大きな治療所になってた」


僕はコンソメスープを見つめる。


「最初は、怪我や病気で苦しんでいる人を見て『助けたい』って思ってた」


「でも、それがだんだん当たり前になってきて……」


「最近、ダンジョンにも全然行ってないな、とか」


「前のほうが楽しかったな、とか」


「そんなことを考えちゃったんだ」


「……ごめん」


「忘れて」


「何でもないから」


食卓が静かになる。


誰も笑わない。


誰も否定もしなかった。


しばらくして、シオンがため息をつく。


「……俺もだ」


スプーンを皿の上に置いた。


「雑貨屋だって、最初は冒険の資金を稼ぐための小遣い稼ぎだった」


「今じゃ街一番の大商店だ」


「客は増える一方だし、書類も山ほどある」


「俺は商人になりたかったわけじゃねぇ」


「冒険者になりたかったんだ」


今度はハルさんがコーヒーを一口飲む。


もう三杯目だった。


「僕も同じです」


「王家を出たのは、魔道具の研究がしたかったからです」


「領主になりたくて出てきたわけではありません」


「今では街の管理ばかりで、研究をする時間がほとんどありません」


疲れたように笑う。


僕はユカリを見る。


「ユカリは?」


ユカリは迷わず答えた。


「ダンジョン行きたい!」


「魔物図鑑つくる!」


「冒険楽しい!」


元気いっぱいに言ったあと、少し照れくさそうに笑う。


「でも学校も楽しい!」


「タイガくんたちと遊ぶのも楽しい!」


思わずみんなが笑った。


「それは良かった」


また少しだけ静かになる。


そして僕は小さく言った。


「……街を離れたい」


「いいよ。お兄ちゃんと一緒がいい!」


ユカリも頷く。


ハルも静かに口を開いた。


「そうですね」


その言葉だけで十分だった。


沈黙を破ったのはシオンだった。


勢いよく立ち上がる。


「よし!」


「そうしようぜ!」


「俺、雑貨屋はギルドに譲る」


「商品だけ卸して、店の運営は任せる」


ハルも頷いた。


「街の運営も、管理会が機能し始めています」


「そろそろ僕たちが前に出る必要はないでしょう」


「管理会の皆さんに任せます」


僕も決心した。


「治療所も教会にお願いしよう」


「普段の診療はシスターさんたちに任せる」


「どうしても、せいちゃんの力が必要な患者さんが来た時だけ、僕が治療する」


誰からともなく頷いた。


僕たちは、助けたい一心でここまで走り続けてきた。


でも、気づけば何でも自分たちで抱え込みすぎていた。


街はもう、僕たちだけのものじゃない。


支えてくれる人たちがいる。


だから今度は、その人たちを信じよう。


そして、僕たちはもう一度、旅に出よう。


「……明日、シスターさんたちに相談してみよう」


その一言に、三人は静かに頷いた。




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