51話 発展
更に数週間が経った。
僕たちの拠点は、見違えるほど発展していた。
世界各国から移住者が集まり、僕たちの家を中心に、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、そして今まで見たこともない竜族まで、それぞれが集落を築いて暮らし始めている。
その一方で、文化や価値観の違いから、人種同士の喧嘩も増えていた。
「最近、治療所の患者さんも変わりましたね」
僕はカルテを片付けながら呟く。
「新人冒険者さんや喧嘩で怪我をした人ばかりです。以前のような重傷患者さんは、ほとんど来なくなりました」
「それで良いのですよ」
シスターさんは微笑んだ。
「病や大怪我で苦しむ人がいなくなる。それが一番です」
「治療所が暇になるということは、それだけ平和に近づいている証拠なんですから」
他のシスターさんも優しく頷いた。
窓の外では、神官騎士たちが慌ただしく街を駆け回っている。
移住者が増えたことで警備の仕事は以前より何倍も忙しくなったらしい。
ハルさんも『黒の街管理会』を立ち上げ、各集落から代表者を選び、街を一つにまとめようと毎日奔走している。
帰宅する頃にはいつも疲れ切った顔で、
「魔道具の研究に手が回りません……」
とテーブルに突っ伏している。
その姿を見るたびに、僕にも何かできることがあるんじゃないかと思ってしまう。
◇◇◇
各種族の代表者に、冒険者ギルド、商業ギルド、教会の代表者が集まり、『黒の街管理会』が正式に発足したらしい。
さらに、各種族から選抜された者たちで合同警備隊も結成され、その隊長を決めるために武術大会が開かれた。
激戦の末、隊長に選ばれたのは狼獣人のナダルさんだった。
学校も二つ開校した。
一つは、読み書きや計算などを学ぶ一般学校。
もう一つは、冒険者を育成する冒険者学校だ。
冒険者学校は実力ごとにクラスが分かれていて、ユカリはまず基礎を学ぶGクラスに通っている。
「お友達できた!」
毎日そう言って笑顔で帰ってくる。
その姿を見るのが僕は好きだった。
僕は空いた時間を使って『おもちゃ箱』で図書館を建てた。
外から見ると普通の建物なのに、中へ入ると果てしなく本棚が並ぶ巨大な図書館になっている。
絵本から難しい本まで何でも揃っていて、診察の合間には本を借りて読むのが日課になっていた。
シオンも冒険者学校へ通いたがっていたが、
「客が多すぎて人手が足りねぇ!」
と、雑貨屋が大繁盛しているため断念している。
街が発展していくのは嬉しい。
みんなが笑って暮らせる場所になってきた。
それは間違いなく良いことだ。
だけど。
僕たちが本当にやりたかったことは、これだっただろうか。
違う。
僕たちは、世界を旅し、ダンジョンを巡り、人を救いながら未知の世界を見て回りたかった。
この街は大切だ。
だけど、この場所に縛られるために旅を始めたわけじゃない。
そんな思いが、僕の胸の奥で少しずつ大きくなっていた。




