48話 ぼっち神
雲の彼方まで、光の階段が伸びている。
「……これ、登るの?」
思わず見上げて呟く。
「んな訳ねぇだろ」
シオンが笑う。
「車で行くぞ」
黄色いオープンカーは空へと浮かび上がり、光の階段に沿って神殿へ向かった。
しばらく進むと、巨大な神殿が姿を現す。
「海底神殿の入口に似てる……」
そこはボロボロに朽ちた白い石造りの神殿だった。
柱には植物が絡みつき、天井は半分以上崩れている。
広い石畳の中央には、黒い魔法陣が静かに輝いていた。
「まーくん」
「あれが入口でいいの?」
まーくんは大きく頷く。
「皆さん」
ハルが静かに口を開く。
「この先で何が起こるか分かりません」
「油断せずに進みましょう」
「はい」
「おう」
「うん!」
ユカリは黒い鎧を身につけ、いつの間に買ったのか、風の剣を高く掲げる。
「行くぞ!」
四人は同時に魔法陣へ足を踏み入れた。
その瞬間。
体が淡い光に包まれ、泡のように消えていった。
◇◇◇
気が付くと、僕は真っ暗な空間に一人で立っていた。
「……え?」
「みんな?」
返事はない。
前も。
右も。
左も。
何も見えない。
ふと後ろを振り返る。
遠くに、小さな白い光が見えた。
その瞬間。
ゾクリ。
全身に鳥肌が立つ。
(怖い)
(あっちへ行っちゃダメだ)
理由は分からない。
でも、本能がそう叫んでいた。
その時。
『どっちか選べよ』
誰かの声が耳元で響く。
僕は反射的に光とは反対方向へ走り出した。
走る。
走る。
どれだけ走っても景色は変わらない。
時間の感覚も失われていく。
息を切らしながら後ろを振り返る。
光は、まだそこにあった。
いや。
少し近付いている。
「……」
このまま逃げ続けても意味がない。
怖い。
怖い。
怖い。
それでも。
僕は意を決して光へ向かって歩き始めた。
一歩。
また一歩。
近付くほど恐怖は強くなる。
足が震える。
呼吸も浅くなる。
やがて世界は真っ白な光に包まれた。
その瞬間。
空間が音もなく裂ける。
裂け目から一本の腕が伸びてきた。
「えっ!?」
腕は僕の手首を掴む。
そのまま勢いよく裂け目の中へ引き込まれた。
◇◇◇
「ガキのくせに、やるじゃねぇか」
豪快な声で目を覚ます。
目の前には、上半身裸の大男が立っていた。
鍛え上げられた肉体。
耳には無数のピアス。
体には入れ墨。
圧倒的な存在感だった。
「このダンジョンの秘密に気付くとはな」
男は豪快に笑う。
「地上の入口はフェイク!」
「本物の神殿は地下深くに埋めておいた!」
「そこまで見抜いた上に、俺様のところまで来るとは!」
「見どころあるじゃねぇか!」
男は親指を立てた。
「シオン!」
「……」
「えっと」
僕は恐る恐る答える。
「僕はワタルです」
「シオンは、こっちです」
スマホを取り出し、写真を見せる。
男は写真と僕の顔を何度も見比べた。
「…………」
「……まあ、細けぇことはいい!」
豪快に笑って誤魔化した。
「俺様の試練を突破した褒美だ!」
パンッ!
男が手を叩く。
青い光が集まり、一つの光球が現れた。
その中心には、美しく輝く一つの鍵。
「お前らこれが欲しいんだろ!」
「アイツも反省して幸せにやってるみてぇだし、もういいだろ」
さらに男はニヤリと笑う。
「それとだ!」
「この戦神シャール様に会えた記念だ」
「『黒の人形使い』全員に加護を授けてやる!」
眩い光が僕を包み込む。
「毒!」
「魔法!」
「物理攻撃!」
「病!」
「呪い!」
「即死!」
「あらゆる脅威に対する耐性をくれてやる!」
「せいぜい世界を守ってみせろ!」
「ハーッハッハッハッ!」
豪快な笑い声が響く。
『守る?何から?』
その声は次第に遠ざかり。
僕の意識も、ゆっくりと闇の中へ溶けていった。




