46話 ユカリ先生!
「えい!」
ポコン。
ジャスミンさんが振り下ろしたヒノキの棒が、スライムに当たる。
スライムはぽーんと宙を飛び、そのままボン、ボンと跳ねながら逃げていった。
「お見事でございます、姫様!」
「さすがです、姫様!」
パチパチパチ!
マリベルさんも、護衛の兵士さんたちも本気で拍手している。
……いや。
ただ走り寄って、ヒノキの棒でスライムを吹き飛ばしているだけなんだけど。
あれじゃ、いつまで経っても強くならないと思う。
「それじゃダメ!」
僕の横を通り抜け、黒い兜に黒い胴鎧。
そして子供用の木剣を持ったユカリが、ジャスミンさんの前に立つ。
「スライムをよく見て」
「真ん中に赤い目玉があるでしょ?」
「その中にある黒い玉を壊さないと、スライムは倒せないよ」
ユカリが指を差す。
ジャスミンさんはスライムを見る。
「……本当ですわ」
「では、あれを壊せばいいのですね」
「うん!」
「でも……」
ジャスミンさんは少し困った顔をする。
「スライムを死なせるのは、可哀想ですわ」
「……」
ユカリは首を傾げる。
「じゃあ、殴って遠くへ飛ばすのはいいの?」
「え?」
「痛いことをするなら、最初から倒した方がいいよ」
「殴られて痛い方が苦しいよ」
その言葉に、ジャスミンさんは黙り込む。
「……確かに、そうですわね」
「私はただ、可哀想という気持ちだけで向き合っていなかった」
「命と向き合うことから逃げていたのかもしれません」
「姫様!」
マリベルさんが心配そうに声を上げる。
しかし。
「マリベルさん」
僕は止めた。
「今は聞いてあげて」
「……」
マリベルさんは口を閉じる。
「だから、ちゃんと感謝するの」
「生きるために死んでくれてありがとうって」
ジャスミンさんは目を見開く。
「生きるために……命をいただく、ということですか?」
「そう!」
ユカリは大きく頷く。
「冒険者は魔物を倒して落とすアイテム売って生きてる」
「でも、魔物だって生きてる」
「だから、簡単に倒しちゃダメ」
「覚悟を持って倒すの」
ジャスミンさんは静かにスライムを見る。
そして、小さく頷いた。
「……民たちは、そのような考えを持って生きているのですね」
「自分が生きるために、他の命をいただいている」
「とても大切なことを教えていただきました」
ジャスミンさんはヒノキの棒を握り直した。
「私は冒険者としての覚悟が足りませんでした」
「だから……」
「いつまで経ってもFランクのままだったのですね」
「姫様……」
マリベルさんは涙を堪えている。
「分かりました」
ジャスミンさんは顔を上げる。
「私、今から覚悟を持ちます」
「私は強くなりたいのです!」
「うん」
ユカリが笑う。
「ジャスミン、いい目になった」
「きっと強くなるよ」
「では……」
ジャスミンさんはスライムへ向き直る。
「今度こそ、倒します!」
「うん!」
「ご教示願います、ユカリ先生!」
「先生!?」
僕は思わず笑ってしまった。
その横では。
「姫様ぁ……!」
マリベルさんと護衛の兵士さんたちが、感動のあまり泣いている。
「……」
ジャスミンさん、本当に愛されているんだな。
ユカリ達の戦闘の光景を見て、今頃シオンも頑張ってるかなあ。
と思った。
市場に行くなんて嘘までついて、「強くなりたい!」て言っていたもんね。
頑張れシオン。




