39話 病院街
アレス公国とギルド街に教会が建てられてから、治療所の管理は荒野のギルド長からアレス本教会へ引き継がれた。
まず最初に決まったのは、青空の下で診療を続ける現在の治療所を、きちんとした病院に建て替えることだった。
僕は『おもちゃ箱』のアプリで病院のドールハウスを購入し、荒野へ設置した。
それに合わせて、シオンの雑貨屋も新しく建てることになった。
さらに、これまで雑貨屋で販売していたポーションや回復薬は専門の薬局で扱うことになり、薬局は教会とシオンの共同運営となった。
こうして、病院・薬局・雑貨屋が並ぶ、小さな医療街が完成した。
教会が病院の管理を引き継いでからは、運営も以前とは見違えるほど整備された。
まず、受付が設置された。
患者は整理券を受け取り、名前と症状を記入して順番を待つ。
重症患者は優先的に診察室へ案内され、軽い怪我や風邪などは教会の治療師が担当する。
僕とせいちゃんが診るのは、通常の治療では治せない重傷者や難病患者だけになった。
病院の外には案内係の神官たちが立ち、受付や誘導を担当する。
騒ぎを起こす者が現れれば、神官騎士やギルドの冒険者たちがすぐに駆けつけるようになり、以前のような強盗や誘拐未遂事件は起こらなくなった。
また、教会は遠方から来た患者のために無料の宿泊施設も建設した。
長旅で疲れた患者も安心して滞在でき、治療の日までゆっくり体を休められるようになった。
診療記録も教会が管理するようになり、再診が必要な患者には手紙で連絡が届くなど、継続した治療も行えるようになった。
しかし、病院の運営が変わっても、一つだけ変わらない約束があった。
「誰を助けるかは、ワタルさんたち自身が決める」
それは、サミュエルさんと教会が交わした大切な約束だった。
そのため、教会が「この患者を優先してください」と命令することは一度もなかった。
アイラさんは、新しく赴任した神官たちへ何度もこう言い聞かせていた。
「この病院は教会の所有物ではありません」
「女神アローナ様より力を授かった子どもたちが、自らの意思で人を救う場所です」
「私たちの役目は命令することではなく、その活動を支え、皆様が安心して治療を受けられる環境を整えることです」
その教えは教会全体に浸透し、病院はやがて「世界で最も安心して治療を受けられる病院」と呼ばれるようになった。
その隣では、シオンの雑貨屋と薬局も今日も多くの人で賑わっていた。




