38話 暴走信徒
昨日、荒野のギルド街で起きた事件について、教会関係者が謝罪に訪れた。
サミュエルさんたちと教会側でどのような話し合いがあったのかは分からない。
ただ、「正式に謝罪と挨拶をしたい」という申し出があり、僕たちはサミュエルさんの執務室で教会の人たちと面会することになった。
最初に頭を下げたのは、神殿のギルド街に新設された教会の責任者、アイラさんだった。
白い法衣に身を包んだ、小柄なおばあさんだ。
「昨日は、聖教会の者たちが大変失礼をいたしました。心よりお詫び申し上げます」
続いて、もう一人の老人が一歩前へ出る。
「わしはアデルと申します。荒野のギルド街に新しく建てられた教会を預かる者です」
「神殿の教会を預かるアイラとは双子でしてな」
穏やかな笑みを浮かべながら頭を下げる。
最後に、王都本教会の責任者だという男性が口を開いた。
「私はミカエルと申します」
「昨日の件を起こした者たちは、すでに拘束し、厳正に処分いたします」
「また、治療所につきましては、医療に携わる者として助言をさせていただくことはあるかもしれません。しかし、皆様の活動に干渉するつもりは一切ございません」
「どうかご安心ください」
しばらく沈黙が流れる。
その空気を破ったのはシオンだった。
「一つ聞く」
腕を組み、まっすぐミカエルさんを見る。
「アンタ達が欲しかったのは、『俺達』でも『神器』でもねぇんだな?」
「……はい」
ミカエルさんは静かに頷いた。
「我々の目的は、ワタル様方を支配することでも、神器を手に入れることでもありません」
「では、何で昨日の連中は俺達を誘拐しようとした?」
その問いに、教会の三人は苦い表情を浮かべた。
「女神アローナ様より授かったその力は、人々を救うことも、世界を滅ぼすこともできるほど大きな力です」
「だからこそ教会が保護し、管理すべきだと考えてしまいました」
「……それが、我々の過ちでした」
静かな声だった。
「我々は"力"ばかりを見てしまったのです」
「その力を持つ子どもたちの意思を、後回しにしてしまいました」
僕はゆっくりと口を開いた。
「僕たちは、誰かに命令されて人を助けているわけじゃありません」
「困っている人がいたから助けているだけです」
ミカエルさんは深く頭を下げた。
「その通りです」
「御使いという言葉に囚われ、皆様を一人の子どもとして見ることを忘れていました」
「心より、お詫び申し上げます」
シオンは腕を組んだまま、小さく息を吐いた。
「だったら覚えとけ」
「俺達は教会のもんでも、国のもんでもねぇ」
「助けたいと思ったから助ける」
「友達だから助ける」
「それだけだ」
ミカエルさんは力強く頷いた。
「はい」
「今後、教会は皆様の意思を何よりも尊重することを、お約束いたします」
アイラさんとアデルさんも静かに頭を下げる。
その姿を見て、僕はようやく肩の力を抜いた。
少なくとも、昨日のようなことは、もう起こらない。
そう思えた。




