40話 魔物図鑑
「ダンジョン行きたい」
出た。
ユカリのダンジョン行きたい病だ。
しかし、病院を運営するにもお金は必要になる。
お金が無限に湧いてくる財布があるとはいえ、それに頼り切るのは違う気がする。
教会の人に相談すれば、きっと行かせてくれるだろう。
……でも。
「行くしかないか」
「分かった。いいよ」
「ホント!?いいの!?」
ユカリの顔がぱっと明るくなる。
その横で、シオンがハチミツトーストをかじりながら笑った。
「珍しいな。お前が許すなんて」
「病院をやるにも、お金がいっぱい必要だからね」
「財布があるじゃねぇか」
「使わなきゃ損だぜ」
シオンは当然のように言う。
「でも、道具に頼り切るのもどうかと思うんだ」
僕はコーンスープを飲み干し、トーストに苺ジャムを塗る。
「偉いですね、ワタルさん」
ハルさんが優しく笑った。
するとシオンが肩をすくめる。
「でもよ、宝の持ち腐れにするのも違うと思うけどな」
「それはそうだけど……」
「で!?いつ行く!?」
ユカリが身を乗り出す。
「今日!」
「……う〜ん」
僕は少し考える。
「病院があるから、来週かな」
「俺も雑貨屋をすぐ閉めるわけにはいかねぇしな」
「僕も研究の整理がありますから、すぐには難しいですね」
「「「来週かな」」」
三人の声が重なった。
「今日行きたい!!」
ユカリの叫び声が響いた。
◇◇◇
訓練場は、荒野のギルドに管理を任せることになった。
治療所、薬局、雑貨屋。
やることが増えすぎて、とても僕たちだけでは手が回らなくなったからだ。
ギルドにも闘技場はある。
しかし、そこは主に新人教育や中級冒険者向け。
上級者が本気で腕を試せる場所ではなかった。
そこでギルド長と相談し、以前は範囲結界を張っただけの簡易的な場所だった訓練場を、本格的な上級者向け施設へと改造することになった。
その責任者になったのがホムラさん。
Aランク冒険者。
白い毛並みを持つホワイトタイガーの獣人であり、格闘家でもある。
彼女なら、この場所を任せるのに相応しい。
◇◇◇
「迎えに来たよ」
「ん?」
ユカリが声の方を見る。
ユカリは、けんくんやまーくんと一緒に○×ゲームをして遊んでいた。
「どうしたの、ユカリちゃん。そんなにムスッとして」
ホムラは笑いながら、ユカリのぷくっと膨らんだ頬をつつく。
「お兄ちゃんたち、忙しくなったからダンジョン行けない」
ユカリは不満そうに頬を膨らませた。
「けんくんもまーくんも自分で動けるようになったし、ユカリがシジしなくても強いから……つまんない」
「そっかぁ」
ホムラは少し考える。
「それで落ち込んでたんだね」
「う〜ん……」
しばらく考えた後、ホムラは笑った。
「じゃあ、魔物図鑑を作ってみたら?」
「……ずかん?」
聞き慣れない言葉に、ユカリが顔を上げる。
「そう。魔物の生態を調べて、自分だけの図鑑を作るの」
「……」
「やる!」
ユカリは勢いよく立ち上がった。
「良かった!」
ホムラは嬉しそうに笑う。
「実はね、ユカリちゃんに紹介したい子がいるんだ」
「タイガ、来な」
ホムラが呼ぶ。
すると、少し離れた場所からこちらを見ていたホワイトタイガー獣人の男の子が、恐る恐る近づいてきた。
「タイガ。私の息子なんだ」
「……」
タイガは緊張した様子でユカリを見る。
「あの……よ、よろしく」
そして、そっと手を差し出した。
「よろしく!」
ユカリはその手を両手でガシッと握る。
「ひゃっ!」
驚いたタイガの毛が一瞬で逆立った。
「ふふ」
ホムラは笑う。
「タイガは少し気弱でね。ユカリちゃんと友達になってくれたら嬉しいな」
「うん!友達になる!」
「……う、うん」
タイガは小さく頷いた。
「じゃあ今日は、魔物を探しに行こうか」
「行こう!」
ユカリは両手を高く上げる。
こうして、ホムラによる魔物探索授業が始まった。




