36話 女神の神器
あれから数週間。
『臨時ニュースをお伝えします。
グランデスバル魔大国王室は、世界各国に向けて新たな王位継承について発表しました。
現魔王ラファエル・グランデスバル陛下は退位され、王妃レミ陛下も王妃の座を退かれることとなりました。
お二人は今後、黒薔薇城にて静かに余生を過ごされる予定です。
そして第一王子ソーマ・グランデスバル殿下が新たな国王として即位し、魔大国の新時代を担うことが発表されました』
世界中がこの発表に大きな衝撃を受けた。
二百年前、世界を恐怖に陥れた魔王。
その血を引く王子が、今度は世界との共存を掲げる国王になる。
それは魔大国にとって、大きな一歩だった。
僕達は、王妃様と多くの使用人さん達の強い希望で、『まーくん』の転移魔法を使い、ラファエル陛下とレミ王妃様が暮らす黒薔薇城へ送り届けた。
最後まで二人のそばにいたい。
その願いを、誰も断ることはできなかった。
ソーマ、エミリア、そして王妃様には、神器アプリの機能がない普通の通話・ビデオ通話専用のおもちゃスマホを渡した。
これで離れていても、家族の顔を見ることができる。
寂しくないよね。
ギルドの街も、治療所も、しばらくはこの話題で持ちきりだった。
特に大きく変わったのは、魔族の冒険者が増えたことだ。
以前なら人間の冒険者達の中に魔族がいるだけで、緊張した空気が流れていた。
でも今は少しずつ変わり始めている。
「これで本当に平和になる」
そう期待する人もいる。
「でも、ダンジョンの鍵集めは終わっていない」
「魔王復活の可能性はまだ残っている」
そう警戒する人もいる。
人によって考え方は違う。
だけど、大半の人は新国王ソーマに期待していた。
僕も思う。
このまま平和になればいいな。
◇◇◇
治療所にて。
最近、少し困ったことがある。
「女神の神器を出せ!」
……最近の治安、どうなってるんだろう。
これで三回目だ。
僕は黙ってスマホを差し出す。
強盗は乱暴に僕の手からスマホを奪い取った。
その瞬間。
ビシャアアアアン!!
「ぎゃあああ!」
プスプス……
軽い雷を浴びた強盗は、その場に倒れた。
「女神の神器を出せ!」
ビシャアアアアン!!
「女神の神器を出せ!」
ビシャアアアアン!!
「女神の神器を出せ!」
ビシャアアアアン!!
「女神の神器を出せ!」
ビシャアアアアン!!
ビシャアアアアン!!
ビシャアアアアン!!
……もう何回目だろう。
最近、『神器を奪えば願いが叶う』という噂が広がっているらしい。
困ったものだ。
◇◇◇
治療所にて。
「次の方どうぞ」
いつものように診療をしていると、外が妙に騒がしい。
ザワザワ……
ザワザワ……
『なんだろう?』
すると。
「ここかい!」
大声と共に、四十代くらいの男の人を引きずったおばあさんが入ってきた。
「女神の雷で悪根性を叩き直してくれる治療所ってのは!」
「こいつはねぇ!」
「楽して金を稼ぐことばかり考えて、家では寝てばかりなんだよ!」
「どうか女神様の雷で根性を叩き直してやってくださいな!」
男性は慌てて僕を見る。
「え?え?」
「あんた、何でも願いが叶う神器持ってるんだってな?」
「俺にもくれよ」
「……」
僕は何も言わず、スマホを差し出した。
ビシャアアアアン!!
「うわあああ!」
男の人体に雷が走る。
そして。
「……」
「俺、間違ってました」
「これから毎日ちゃんと働きます!」
目がものすごくキラキラしている。
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
男性とおばあさんは何度も頭を下げながら帰っていった。
その後ろ姿を見送りながら、僕は思った。
……これ、本当に治療所でやる事かな?




