35話 シオン・ジル
「なぁ、ワタル。これからどうなると思う?」
「何が?」
「魔王復活が実現するか、それとも……阻止されるかって話だ」
「?」
僕が首を傾げると、シオンは呆れたようにため息をついた。
「魔大国は、アレス公国が魔王復活を望んでいると思ってる」
「俺達『黒の人形使い』にダンジョンの鍵を集めさせているのも、魔王復活のためだってな」
「それで、俺達の魔道具を使って魔大国を救ってくれると思ってる」
シオンは窓の外を見る。
「実際、今はその通りだ」
「瘴気は消えた。病気も治った」
「魔大国にとって都合の良いことばかり起きている」
確かに……。
結果だけを見れば、そう思ってしまうのも無理はない。
「今頃ハルが必死に説明してるだろうな」
「『勘違いすんじゃねぇ。魔王復活のためじゃない。ダチのソーマとエミリアがいる国だから助けたんだぜ』ってよ」
「もし何の説明もなく、『これからは魔王復活のために七つの鍵を集めます』なんて言ったら……」
シオンの表情が真剣になる。
「戦争になるぜ」
「……」
「だから、その前に整理しなきゃならねぇ」
「現魔王は救出する」
「でも、国のトップには戻さない」
「黒薔薇城で隠居してもらう」
「そして、ソーマが魔王じゃなく……新しい国王になる」
「それしか世界と戦争にならずに済む方法はないと思うぜ」
シオンがそこまで話した時だった。
「耳が痛いですね」
「ソーマ?」
振り返ると、いつの間にかソーマが立っていた。
「話し合いは終わったの?」
「はい。ハルさんは今、母と面会しています」
ソーマは僕達の向かいの椅子に座った。
シオンは腕を組み、真っ直ぐソーマを見る。
「なぁ、ソーマ」
「お前ら、本当にアレス公国が魔王復活を手伝ってくれると思ってたのか」
ソーマは少し黙った後、ゆっくりとうなずいた。
「……はい」
「ワタルさんが僕のお願いをすぐに受け入れてくれました」
「そして『黒の人形使い』の皆さんが来てくださった」
「だから……」
「父を救うために、力を貸してくださっているのだと思っていました」
シオンは大きく息を吐いた。
「それが危ねぇんだよ」
「え?」
「今まで全部、お前達に都合の良い結果になってる」
「だから、そう思い込んだ」
シオンは少し声を落とす。
「でもな」
「俺達は魔王を復活させるために来たんじゃねぇ」
「お前とエミリアが困っていたから助けただけだ」
ソーマは黙って聞いていた。
「もし世界に向けて、俺達が魔王復活を目指しているなんて伝わったらどうなる?」
ソーマの顔から血の気が引く。
「……各国が動きます」
「そうだ」
「アレス公国も、フレナリア帝国も、バロック魔術大国も」
「今度は魔大国を助けるためじゃない」
「止めるために動く」
部屋に重い沈黙が落ちた。
ソーマは拳を握り締める。
「ですが……」
「父上は、二百年間も封印されていました」
「罪を償う機会すらないままです」
「救出することすら許されないのでしょうか」
シオンは首を横に振った。
「救出するななんて言ってねぇ」
「ただ、順番を間違えるなって言ってんだよ」
「順番……」
「ああ」
「まず世界に示すんだ」
「今の魔大国は、昔の魔王の国じゃないって」
「もう世界征服なんてしない」
「新しい国になるって」
「その中心になるのがお前だ」
ソーマは目を見開いた。
「僕が……」
「そうだ」
「お前が国王になる」
「王妃様が宰相として支える」
「先代魔王は救出した後、黒薔薇城で隠居」
「国政には関わらない」
ソーマは長い間、黙って考え込んだ。
「……父上は」
「納得してくださるでしょうか」
シオンは少し笑う。
「そこは家族で話せよ」
「でもな」
「お前の親父が本当に民のことを考えている王なら」
「きっと、お前の邪魔はしねぇんじゃねぇの」
ソーマは静かにうなずいた。
「父上は……民を愛していました」
「だからこそ」
「きっと受け入れてくださると思います」
シオンは満足そうに笑った。
「だったら、世界に証明しろ」
「魔王の息子じゃねぇ」
「一人の国王としてな」
ソーマは立ち上がり、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「僕は父を救うだけではなく」
「この国の未来も守ります」
その言葉を聞いて、僕は少し安心した。
「それなら……」
「みんなが幸せになれる道があるかもしれないね」
その時、部屋の外から楽しそうな声が聞こえてきた。
ユカリとエミリアの笑い声だった。
ソーマはその声に耳を傾け、優しく微笑む。
「ええ」
「その笑顔を守るためにも」
「僕は新しい魔大国を作ります」




