32話 自由
「ソーマ様!エミリア様!」
結局、僕達はまーくんの転移魔法で魔大国にある王妃様の暮らす城へ向かうことになった。
僕達が到着したのは、魔大国最北端に建つ白雪城。
一方、魔王が封印されている黒薔薇城は、国の反対側……最南端に位置しているらしい。
城内へ入ると、疲れ切った表情をした老兵が慌てた様子で駆け寄ってきた。
「ソーマ様……!」
「シエルマン!」
ソーマが驚いた声を上げる。
「無事だったのか!」
「ソーマ様こそ……ご無事で何よりです!」
老兵、シエルマンは涙を浮かべながら頭を下げる。
「やはり……王妃様の判断は間違いではなかったのですね」
「王妃様は最後まで信じておられました」
「いつか必ず、ソーマ様とエミリア様が使命を果たして戻ってくると……」
シエルマンは僕達を見る。
そして険しい表情になった。
「しかし、本当にアレス公国が魔王様の味方だったとは……」
「それは違います」
その言葉を遮るように、ハルさんが一歩前へ出た。
「失礼しました」
ハルさんは丁寧に頭を下げる。
「我々はアレス公国国王、サミュエル・アレス陛下の命により、人命救助および瘴気に関する調査のために参りました」
「私はハル・ドーンと申します」
「ドーン……?」
シエルマンの表情が変わる。
「まさか、あなたはバロック魔術大国の……」
「その件についても、落ち着いてお話できる場所で説明させていただけますでしょうか」
「……承知しました」
シエルマンは頷いた。
「ソーマ様、エミリア様」
「まずは王妃様にお会いになりますか?」
ソーマは少し迷った後、首を横に振る。
「いえ」
「私はハルさんとの話し合いに同席します」
そして、妹へ向き直る。
「エミリア」
「ワタルさん達を部屋へ案内してあげなさい」
「はい、お兄様」
エミリアは小さく頷いた。
「ワタルさん、シオンさん、ユカリさん。こちらへどうぞ」
「ありがとう」
……本当は、すぐにでもお母さんに会いたいはずなのに。
ソーマもエミリアも、自分の役目を優先している。
すごいと思った。
「エミリアを頼んだよ」
シエルマンは後ろに控えていた兵士達へ声を掛ける。
「彼女達を頼む」
「はっ!」
兵士達は敬礼した。
◇◇◇
「皆さん、こちらです」
エミリアに案内され、僕達は城内の部屋へ向かった。
「ここが私の部屋です」
扉を開けると、そこは白を基調とした落ち着いた部屋だった。
華美な装飾は少なく、どこか温かい雰囲気がある。
その中で、ソファーの上に置かれた一つのぬいぐるみにユカリが反応した。
「あ!」
「ウサギさん!」
ユカリは駆け寄る。
「あ、こら。勝手に触ったら」
「大丈夫ですよ」
エミリアは優しく笑った。
「遊んであげてください」
「ありがとう」
ユカリは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめる。
「あの……エミリアちゃん」
僕は少し迷いながら声を掛けた。
「お母様に会いに行ってもいいんだよ」
しかし、エミリアは少し寂しそうに笑った。
「いいんです」
「お兄様が頑張っているのに……」
「私はもう、ワガママを言いません」
その言葉に、シオンがソファーに寝転びながら口を挟む。
「は?」
「母親に会いたいって思うのが、何でワガママなんだよ」
エミリアが顔を上げる。
「子供が親に会いたいって言うのは普通だろ」
「我慢する必要なんてねぇよ」
「シオンさん……」
「それに、今の俺達は待ってるだけだ」
「行ってこいよ」
シオンは面倒そうに言う。
「どうせ暇だしな」
「じゃあ、一緒に行こ!」
ユカリがぬいぐるみを抱えたまま、エミリアの手を握る。
「え……?」
「お母さんに会いたいんでしょ?」
「でも……」
「大丈夫!」
ユカリは笑った。
「一緒に行こう!」
そのままエミリアの手を引いて、ドアへ向かって走っていく。
「ユカリさん……」
エミリアは驚いた顔をした後、少しだけ笑った。
その姿を見て、僕とシオンは顔を見合わせる。
「……あいつ、本当に自由だな」
「うん」
でも、その自由さが誰かを救っているんだとも思った。




