29話 小鳥
「そうだ、ドローンを飛ばしてみようか」
朝食のジャムトーストを齧りながら、シオンが首を傾げる。
「ドローンって何だ?」
「カメラが付いた小さい飛行機みたいなものだよ」
「スマホが空を飛ぶ感じ?」
「そんな感じ」
「へぇ……面白そうじゃねぇか。早速やろうぜ!」
シオンは興味津々でスマホを操作し始めた。
しばらくすると、『小鳥型ドローン』という魔道具を見つけた様だ。
「これなら目立たないし、偵察には向いてそうですね」
ソーマが感心したように言う。
僕達はテレビに映像を繋ぎ、カメラの確認をする。
小さな鳥の形をしたドローンが、部屋の中を飛び回った。
「すごい……本物の鳥みたい」
エミリアが目を輝かせる。
「じゃあ、行ってこい!」
シオンが窓を開ける。
小鳥型ドローンは空高く舞い上がると、魔大国へ向かって飛んでいった。
◇◇◇
その日は雑貨屋を休みにした。
治療所は必要としている人がいるため、いつも通り開ける。
患者さんの合間を見ながら、僕とシオン、そしてソーマで交代しながらドローンを操作した。
そして昼前。
画面の向こうに、黒い影が見え始めた。
「……あれが」
ソーマの表情が険しくなる。
魔大国。
かつては多くの魔族が暮らし、栄えていた国。
しかし今、そこは。
「何も見えねぇな……」
シオンが小さく呟く。
画面いっぱいに広がる黒い霧。
空も大地も覆い尽くすほどの瘴気だった。
ドローンが高度を下げる。
その先に見えた街は、かろうじて形を残していた。
巨大な城や建物は残っている。
しかし、修復する人手はない。
街灯や噴水などの魔道具も停止し、街は暗闇に沈んでいた。
ソーマが静かに説明する。
「市場には閉まった店が並んでいます」
「以前は多くの商人で賑わっていた場所です」
「今では食料を求める人が歩くだけです」
画面には、ゆっくり歩く魔族達が映る。
誰も笑っていない。
誰も未来を見ていない。
「貴族達は早い段階で国を離れました」
「残っているのは……逃げる力もない者達ばかりです」
ソーマは拳を握る。
「食料も限界です」
「他国へ逃げようとしても、受け入れてもらえる保証はありません」
「魔族だからという理由だけで……」
そこで言葉が止まった。
僕には何も言えなかった。
◇◇◇
夜。
帰ってきたハルさんに、録画した映像を見せる。
ハルさんは最後まで無言で映像を見続けた。
「……分かりました」
「すぐにサミュエル陛下へ報告します」
そう言うと、ハルさんは転移魔法で王城へ向かった。
◇◇◇
翌日。
『臨時ニュースをお伝えします』
魔道具テレビから、女性の声が流れる。
『アレス公国サミュエル・アレス国王は、グランデスバル魔大国において瘴気による深刻な被害が確認されたとして、人道的観点から医療支援及び調査隊の派遣を決定したことを発表しました』
「え……?」
ソーマが驚いた顔をする。
「世界に公表した……?」
◇◇◇
さらに翌日。
再びニュースが流れる。
『先日のアレス公国の発表を受け、フレナリア帝国及びバロック魔術大国も魔大国への支援を表明しました』
『現在、アレス公国王城にて三カ国による緊急会議が行われています』
「フレナリアと……バロックまで」
ソーマは呆然と呟いた。
「魔族を助けるために……」
「何か裏があるんじゃねぇか?」
シオンが腕を組む。
「シオン!」
僕が肩を小突く。
「冗談だよ」
そう言いながらも、シオンも少しだけ真剣な顔をしていた。
◇◇◇
そして。
ついに魔大国へ向かう日が来た。
作戦は決まっている。
まず僕達が先行し、瘴気の浄化を行う。
その後、バロック魔術大国が西側から上陸。
アレス公国とフレナリア帝国が東側から上陸し、調査と救助活動を開始する。
大規模な救援作戦だ!




