26話 大人しい人ほど怒ると怖い
「素晴らしい試合だった!」
「できれば、またいつか剣を交えたいものだ!」
アロマ王女は満足そうに笑うと、腰に下げていた小さな箱を取り出した。
「受け取れ。これが魔王封印の鍵だ」
差し出された鍵を、僕は慎重に受け取る。
「今回は私の負けだ。だが、次は必ず勝つ!」
「そして、魔王の復活も私が阻止してみせる!」
そう言い残すと、アロマ王女はバサッ!とマントを翻し、観客席へ向かって歩いて行った。
「……騒がしい人だったな」
シオンが呆れたように呟く。
「……」
ユカリは何も言わず、けんくんを見つめていた。
「ユカリ、どうしたの?」
「ユカリ……けんくんにシジできなかった」
「ああ……」
僕とシオンは顔を見合わせる。
「まあ、仕方ないよ。僕だって何が起きているのか分からなかったし」
「つーか、あいつ自分で考えて動けるんだな」
シオンが腕を組む。
「改めて見るとけんくんすげぇな」
「……」
確かに。
今までユカリの指示で動いていたけんくんが、自分の意思で戦っていた。
それが少し不思議だった。
「さあ、帰ろ!」
ユカリが元気よく手を上げる。
「帰りは飛行機で!」
「いいよ。飛行機で帰ろう」
「おい!」
シオンが勢いよく振り向く。
「待て!俺は乗らねぇって言っただろ!」
「でも早いよ?」
「そういう問題じゃねぇ!」
こうして僕達は、4本目の鍵を手に入れた。
そして、騒ぐシオンを無理やり飛行機へ乗せ、アレス公国へ戻ることになった。
4本目の鍵は、サミュエルさんとハルさんが話し合っている部屋の前にいた騎士さんへ預けた。
正確には、シオンが半ば押し付けるように渡したのだけど。
「絶対に渡したからな!」
「はい。確かにお預かりしました」
騎士さんが困ったように受け取る。
これで一安心だ。
荒野の家に戻ると、留守の看板を外してドールハウスを建てる。
久しぶりの我が家。
やっぱり落ち着く。
シオンは帰って来るなり、自分の部屋へ直行した。
「疲れた……」
ユカリも眠そうだったので、ベッドへ連れて行く。
「おやすみ」
「うん……」
返事をした数秒後には、もう眠っていた。
僕も寝ようかなと思った。
ハルさんが帰って来たのは、夜になってからだった。
「ただいま戻りました」
「お、おかえりなさい……」
「……」
何だろう。
ものすごく怒っている気がする。
「晩ごはんは食べましたか?」
「はい。食べました」
「そうですか」
「……」
「ワタルさん、シオンさん」
ハルさんは真剣な表情で言った。
「少し、お話があります」
「はい」
「……」
僕達はテーブルを囲んで向かい合った。
「僕が言いたいこと、分かりますか?」
「帰れって言われたのに帝国に寄り道して、剣術大会に出て、王女と戦って、4本目の鍵を持ち帰ったことだろ」
シオンが頬杖をつきながら答える。
「そうです」
ハルさんは深いため息を吐いた。
「鍵には関わらないでくださいと、何度も言いましたよね」
「なぜアロマの挑発を無視して帰らなかったのですか」
「……」
「しかも、あの人はアレス公国が魔王復活を企んでいるなどという、とんでもない誤解をしていました」
ハルさんは頭を押さえる。
「もし話が広まれば、余計な混乱を招きます」
「でもよ」
シオンが口を開く。
「鍵をバラバラに持ってるより、一箇所にまとめた方が安全だと思ったんだよ」
「それは理解しています」
ハルさんは静かに頷く。
「ですが、問題はそこではありません」
「君達が危険に巻き込まれる可能性があるということです」
「……」
「君達は自分達が思っている以上に、大きな存在になっています」
「だからこそ、簡単に相手の挑発に乗ってはいけません」
シオンは少し黙った。
「……分かったよ」
「これからは気を付ける」
「本当ですね?」
「ああ」
ハルさんはしばらくシオンの顔を見た後、小さく息を吐いた。
「……信じます」
「ワタルさんも」
「はい」
「お願いしますね」
「はい」
「では、今日はもう休みましょう」
「明日は雑貨屋と治療所の日でしょう?」
「疲れを残してはいけません」
「……」
僕達は返事をして、それぞれの部屋へ戻った。
部屋の扉を閉めた後。
僕はベッドに横になりながら考える。
4本目の鍵。
魔王。
そして、これから集まるかもしれない残りの鍵。
一体、この先どうなるんだろう。
そんな不安を抱えながら、僕はゆっくり目を閉じた。




