25話 戦闘表現は難しい
巨大な城門をくぐると、街はまるでお祭り騒ぎだった。
大通りには赤や青、金色の旗が何本も掲げられ、『剣術大会開催』の文字が大きく描かれている。
道の両側には数え切れないほどの露店が並び、焼き肉や串焼き、焼きたてのパン、色鮮やかな果物、甘いお菓子の香りが街中に漂っていた。
「すげぇ!」
シオンは目を輝かせる。
街を歩く人の多くが腰に剣を差していた。
軽装の冒険者。
重厚な鎧を纏った騎士。
各国から来たと思われる兵士。
そして、ただ歩いているだけなのに強者だと分かる老人剣士。
「あの人、すごい筋肉……」
思わず見てしまう。
「あっちはウサギさん!」
「ネコさんもいる!」
ユカリは獣人達を見つけるたびに嬉しそうに指を差した。
街のいたるところでは、子供達が木剣を振り回して遊び、大人達は酒を片手に試合の予想を語っている。
鍛冶屋では剣を打つ音が響き、店先には大会限定と書かれた剣や盾が並んでいた。
「さすが剣術大国だぜ!」
シオンは感動したように叫ぶ。
「大会期間中は世界中から剣士が集まるんだ」
シオンが説明する。
「宿屋は満室。商人にとっても一年で一番稼げる時期なんだぜ!」
街の中央には巨大な円形闘技場がそびえ立っていた。
何万人も収容できそうな巨大建築。
中からは地響きのような歓声が聞こえてくる。
「始まってる!」
シオンは待ちきれない様子で走り出した。
「早く行こうぜ!」
その姿を見て、僕は苦笑する。
ダンジョンを攻略したばかりなのに、まだそんな元気があるんだ……。
◇◇◇
「前の席は無理だったか」
人気の席はすでに埋まっていて、僕達が座れたのはかなり遠い場所だった。
闘技場の中央にいる人が小さく見える。
「ほらよ」
シオンが何かを渡してきた。
「これ……?」
「双眼鏡だ」
覗いてみる。
「うわっ!」
遠くの選手が目の前にいるように見える。
「すごい!」
「ユカリにも見せて!」
「ほら」
「わぁ!」
ユカリは嬉しそうに双眼鏡を覗き込む。
その時。
ジャーン!!
ジャーン!!
銅鑼の音が響いた。
「始まるぞ」
シオンが身を乗り出す。
大会はトーナメント形式だった。
しかし今年は突出した実力者が少なかったらしく、観客席からは不満の声も多かった。
「つまらねぇな」
途中からシオンはスマホで遊び始める始末だった。
そして、あっという間に決勝戦。
現れたのは銀色の鎧を纏った女の人。
その姿を見た瞬間、会場の空気が変わった。
「フレナリア帝国第一王女……アロマ様だ」
誰かが呟く。
試合開始。
そして。
一瞬だった。
二人がすれ違った瞬間、相手選手が膝をつく。
「え?」
僕は目を疑った。
剣を振ったようには見えなかった。
ただ、歩いてすれ違っただけ。
会場がざわつく。
「そりゃブーイングも出るよね……」
素人の僕でも、これでは試合というより一方的な勝負に見える。
その時だった。
アロマ王女が突然、司会者から拡声器を奪った。
「『黒の人形使い』共!」
会場中に声が響く。
「ここへ降りて来い!」
「私と勝負しろ!」
王女は懐から一本の鍵を取り出し、掲げた。
「勝ったならば、この鍵を渡す!」
「え……」
僕達は顔を見合わせる。
「あ?」
シオンの表情が変わった。
「今、鍵って言ったか?」
アロマは続ける。
「お前達が魔王復活を目論み、七つの鍵を集めていることは調べがついている!」
「この私、フレナリア帝国第一王女アロマ・フレナリアが、そのうちの一本を所持している!」
「欲しければ取りに来い!」
会場が騒然となる。
「黒の人形使いって……最近噂の冒険者か?」
「魔王復活ってどういうことだ?」
「帰ろう」
僕は小さく呟いた。
「そうだな」
「おい!いつまで待たせる!」
アロマが叫ぶ。
「早く来い!」
「うるさい」
ユカリが眉をしかめる。
「まーくん、あの人静かにして」
『まーくん』は大きく頷き、杖を振った。
「このおくびょっ」
「……!」
アロマが突然声を失う。
必死に口を動かしているが、音が出ない。
「でも……」
ユカリが小さく呟く。
「鍵、欲しい」
「……」
僕とシオンは顔を見合わせた。
「そうだな」
シオンが笑う。
「鍵は貰っておくか」
やっぱり、こうなるんだ。
◇◇◇
僕達は闘技場へ降りた。
対戦相手は、想像以上に大きな女性だった。
ハルさんより背が高い。
「……」
アロマは黙って剣を抜く。
ユカリは『けんくん』を前へ出した。
僕とシオンは後ろで見守る。
ジャーン!!
試合開始の銅鑼が鳴る。
次の瞬間。
ギィン!!
二人の剣がぶつかった。
一撃。
二撃。
三撃。
観客は息を呑む。
速すぎて、目で追えない。
アロマの剣は鋭かった。
無駄がない。
最短距離で相手の急所を狙う。
対するけんくんの剣は完璧だった。
受ける。
流す。
反撃する。
まるで何十年も修行した剣士のようだった。
アロマが笑う。
『素晴らしい』
けんくんはただ剣を構える。
そして。
アロマの動きが変わった。
速い。
いや、速いだけではない。
フェイント。
体重移動。
視線誘導。
相手の判断を狂わせる技術。
けんくんが初めて一歩下がる。
「王女様が押している!」
観客が沸く。
しかし、けんくんは倒れない。
むしろアロマの剣を理解していく。
二撃。
三撃。
五撃。
十撃。
少しずつ対応していく。
『……成長している?』
アロマが驚く。
ならば、と。
アロマは地面を蹴った。
フレナリア王家秘伝。
『流星剣』
無数の斬撃が飛ぶ。
普通なら防げない。
しかし。
けんくんは目を閉じた。
そして。
一歩。
二歩。
最小限の動きで全てを避ける。
最後の一撃だけを剣で受け止めた。
ドォン!!
衝撃が闘技場を揺らす。
「すげぇ……」
シオンが呟く。
「あの王女、本当に強ぇ」
僕も頷く。
「でも……けんくんも」
アロマは息を整える。
そして剣を上段へ構えた。
『最後だ!この一撃で決める!』
けんくんも構える。
剣に炎が宿る。
観客席が静まり返る。
『王家奥義』
『天翔一閃!!』
アロマが駆ける。
音が消える。
光だけが走る。
その瞬間。
けんくんも動いた。
抜刀。
炎の軌跡が一本走る。
カキィィィン!!
二人がすれ違う。
数秒。
誰も動かない。
そして。
アロマの剣が地面へ落ちた。
会場が騒然となる。
しかし。
けんくんの鎧にも一本の傷が刻まれていた。
完璧な勝利ではない。
アロマは剣を拾い、笑った。
けんくんは静かに剣を鞘へ戻す。
二人は握手を交わした。
その瞬間。
闘技場全体が大歓声に包まれた。




