19話 白いオタク
「あれ?」
「店が……ない?」
荒野の雑貨屋があった場所には、いつもの看板が出ていなかった。
「ダンジョン攻略に行くから、しばらく休みだってよ」
近くにいた冒険者が教えてくれる。
「そんな!」
「やっと隙を見て逃げ出して来たのに……」
肩を落とす男。
すると隣にいた虎の獣人の男性が、大きなため息を吐いた。
「俺なんて、わざわざ獣王国から嫁さんに頼まれた『シャンプー』ってやつを買いに来たんだぞ」
「……帰ったら何て説明すりゃいいんだよ」
そう呟きながら、獣人の男性は寂しそうに帰っていった。
「困ったなぁ……」
男は、懐から小さな道具を取り出した。
「でも、僕にはこれがある!」
「その名も、魔力発信器!」
小さな魔道具を掲げる。
「僕の魔力が入った発信器は、今どこにあるのかな?」
◇◇◇
「俺は絶対嫌だ!飛行機には乗らねぇ!」
「でも、飛行機じゃないとフレナリア帝国のダンジョンには行けないよ。海を越えるんだから」
「船で行けばいいだろうが!」
「いや!」
ユカリが叫ぶ。
「ユカリは飛行機がいい!」
「俺は絶対嫌だぜ!飛行機には乗らねぇ!」
……。
ずっとこの繰り返しだった。
僕はため息を吐きながら『おもちゃ箱』の中を探す。
「あ……」
一つの物が目に入った。
「これなら……」
『普通の橋』
「……もう、これでいいや」
僕は『アーチ型の橋』のおもちゃを購入した。
すると橋は光に包まれ、空へ浮かび上がる。
そして。
ドガアアアアアアンッ!!
大地を揺らすような轟音。
空へ消えた橋は、巨大化しながら落下してくる。
やがて、その姿を現したのは……。
フレナリア帝国とアレス公国を繋ぐ巨大な橋だった。
「車で行こう」
「最初からそうすりゃ良かったんだよ!」
「いやああああ!」
ユカリが地団駄を踏む。
「飛行機がいい!」
僕とシオンでユカリを車へ乗せようとしている、その時だった。
「待ってくださーい!」
聞き覚えのある声。
振り返る。
そこには。
「ハルさん?」
以前会った、白い服の男の人が立っていた。
前は白いローブだった。
しかし今は、白いシャツ。
白いズボン。
白いベスト。
白い靴。
……全身真っ白だ。
「汚れないのかな、あれ……」
思わず呟く。
「ハイ!」
男の人は笑顔で答えた。
「バロック魔術大国、『元』第三王子!」
「ハル・ドーンです!」
そして、そのまま車の後部座席へ乗り込む。
「おい」
シオンが睨む。
「俺達の保護者はサミュエル・アレスだ」
「勝手についてくるなら許さねぇ」
「ちゃんと許可はもらっています!」
ハルさんは胸を張った。
「僕は廃嫡され、今日からアレス公国の一住民です」
「そして、君達の仲間になることについても正式な許可をいただきました」
そう言って、一枚の書類を取り出す。
そこには国王の印が押されていた。
『バロック魔術大国元第三王子ハル・ドーンは、王族としての身分を離れた一個人として、アレス公国で生きる権利を認める』
『アレス公国王命
特別保護補佐官任命書』
『任命者:アレス公国国王 サミュエル・アレス』
『下記の者を、異世界より来訪したワタル、ユカリ、及びシオン三名に対する特別保護補佐官として任命する』
「……特別保護補佐官?」
僕は首を傾げる。
「何だそれ」
シオンが書類を取り上げる。
「俺は聞いてねぇぞ!」
「はい!」
ハルさんは満面の笑みを浮かべる。
「この数ヶ月、本当に大変でした」
「家族を説得して、国と話し合って……」
「ようやく許可をもらえたんです!」
「もちろん、『勇者の神器』についても聞いていますので、ご安心ください!」
ニコニコ笑うハルさん。
……。
でも、何となく分かる。
この人。
絶対、僕達の魔道具に興味があるだけだ。
あの時から思っていたけど……。
この人、かなりの魔道具オタクだ。
「はぁ……」
シオンは諦めたように息を吐く。
「許可証があるなら仕方ねぇ」
「ワタル、ユカリ。行くぞ」
「うん」
僕はハルさんを見る。
「これからよろしくお願いします。ハルさん」
「よろしくねハル!」
ユカリが手を差し出す。
ハルさんも笑顔で手を合わせた。
「よろしくお願いします、ユカリさん!」
パンッ!
二人がハイタッチをする。
「ちっ……」
シオンは不満そうに顔を背けた。
「早くフレナリアのダンジョン行くぞ」
こうして僕達には新しい仲間が増えた。
元第三王子。
そして……。
魔道具のことになると目の色が変わる、少し変わった仲間が。




